映画『ハミング・バード』(2014年)は、数あるジェイソン・ステイサム主演作の中でも、一番好きな作品です。
ちょっと斜に構えた感じのマッチョな役柄が多い、他のステイサム作品と異なり、『ハミング・バード』は、上品かつ洗練されたステイサムの魅力が開花し、上質な大人のラブロマンスに仕上がっています。
「どうせマッチョなステイサムが、悪人をバキバキにやっつける話なんでしょ」「ラブシーンも、俺様ナルシストのステイサムがムキムキの肉体を披露して、『やってやったぜ!』みたいにイキる映画なんでしょ」と思っている方にもぜひ見て頂きたい秀作です。
上質な大人のラブロマンス&アクション
あらすじ
アフガニスタンで五人の仲間を殺害された特殊部隊員のジョゼフ(=ジェイソン・ステイサム)は、その報復として、現地の民間人を独断で殺害し、軍法会議にかけられる。
逃亡したジョゼフは、ロンドンでホームレスに紛れて暮らしていたが、ある晩、ギャングに追われ、高級アパートメントに転がり込む。
玄関口にたまった郵便物から、オーナーが半年ほどニューヨークに滞在することを知ったジョゼフは、『男の恋人のルームメート』を装い、中華料理店で働き始めるが、ある晩、素手でチンピラを撃退したことから、中国系オーナーに腕前を見込まれ、汚れ仕事を引き受けるようになる。
一方、街角で炊き出しのボランティアを続けるポーランド系修道女、シスター・クリスティーナと心を交わし、汚れ仕事で得た金で大量のピザを届けるなど、彼女の活動を影ながら支えるようになる。
そんな中、知り合いの女性がサディスティックな男に買春され、無残に殺害されたことを知ったジョゼフは、ギャングのネットワークを利用して、男の身元を割り出す。
罪の償いとして、復讐を遂げようとするジョゼフと、心に深い傷をもつクリスティーナの恋は、幸せに実るのか……。
ジェイソン・ステイサムのスタイリッシュなアクションと、中学生みたいなラブロマンスを掛け合わせた、新感覚のサスペンス・ドラマです。
■ 商品解説より
ロンドンの暗黒街で、絶望のどん底を這う男。彼の名はジョゼフ・スミス。かつては特殊部隊を率いる軍曹だったが、そこで犯した罪から逃れるため、家族や社会からも距離をおき、息をひそめて暮らしていた。ある日、唯一心を通わせた少女が拉致されたことで、彼の人生が大きく動き出す。彼女を救うために他人になりすまし、裏社会でのし上がっていくジョゼフ。しかし、少女の残酷な運命を知ったとき、彼の怒りは決壊、復讐の炎と化す。過去に犯した罪、そして自らの人生にも決着をつけるため、ジョゼフが最後に下した決断とは──?
官能的な情事と中学生みたいなキス・シーン
ハリウッド映画も、イギリス映画も、主音声が『英語』である為、よほどの通でもない限り、一瞬で見分けるのは難しいです。
映画『ハミングバード』も、何も考えずに見ていたら、ハリウッド映画と思うでしょう。
ジェイソン・ステイサムだし、展開もよくあるアクションだし。
しかし、イギリス映画は、ハリウッド映画と異なり、『対象(テーマ)』から距離を置き、間接的に表現するのが好きです。
ラブシーンも、ハリウッド映画では、お約束のように主人公とヒロインが絡みますが、イギリス映画は「そういう出来事がありました」と台詞や小物で婉曲に伝えることが多いです。
映画『ハミングバード』も、ハリウッド映画なら、肉感的に表現するところを、小物や背景を使って、やんわりと描いています。
たとえば、私が一番好きなのは、互いの気持ちを確かめ合ったジョゼフとクリスティーナが一夜を過ごす場面。
ヒロインの役柄が「聖女(シスター)」ということもあり、直接的な絡みは一切ありません。
二人が身に付けていた衣類や小物が点々と床やテーブルに散らばり、どんな風に一夜を過ごしたか、まざまざと目に浮かびます。
最初は戸惑うように、でも、徐々に大胆に、それぞれに背負った罪や宿命を脱ぎ捨てるように、身に付けているものを外し、生まれたままの姿で愛し合う。
まるで二人の気持ちの高まりを物語るように散乱した衣類と小物は、ストレートな絡みより、はるかにエロティックです。
また、二人が初めて口づけを交わす場面も、中学生のファースト・キスみたいで、傍で見ている方はドキドキもの。
軽く酔ったクリスティーナと、「もう二度と恋などしない」という風のジョゼフが、共に躊躇い、恥じらいながら、ついついチューしてしまう。(ショーウィンドウの前でのキスも、恋愛映画の定番です。印象的な場面に、シュリのキスシーンがありますね)
マフィアにも、女にも、腕っ節の強いジェイソンが、この映画では、清楚なシスターを相手に、中学生みたいにおどおどする様が素敵です。
ちなみに、この場面には一つ捻りがあって、ジョゼフが、米国滞在中の有名カメラマンを装い、文化セレブの集いに出席するのですが、そこでモチーフとして描かれているのが、男性の裸体や性器です。
しかも、ジョゼフは、その尖った集いに俗世を捨てたはずのクリスティーナを招待し、クリスティーナも、ジョゼフがプレゼントした、セクシーな赤いドレスに身を包んで現われます。
そして、部屋一面に飾られた、性的なモチーフの写真を躊躇いもせずに眺めます。
おいおい、君は純粋無垢な聖職者じゃないのか? と違和感を覚える場面です。
でも、物語の終盤で、クリスティーナの悲しい過去が語られます。
少女の頃、クリスティーナは、将来有望な体操選手でしたが、男性コーチに性的ハラスメントを受けていて、とうとう恥辱に堪えかねて、男性コーチを殺傷してしまいます。
その過程で、「ああ、なるほど」と納得するんですね。実はクリスティーナが誰よりも男性性の恐ろしさと暴力性を理解し、それ故に、シスターとして存在する理由を。
もしかしたら、ジョゼフも最初はセクハラ・コーチと同じ、忌むべき存在だったかもしれません。
でも、彼が誠意を尽くすことで、クリスティーナの心の傷も癒え、思い残すことなく、アフリカの未開地に旅立って行きます。
だからこそ、一夜限りの愛がいっそう胸に迫るのです。
ジェイソン・ステイサムとアガタ・ブゼク
ジェイソン・ステイサムの魅力は、一口に言えば、日本の殺陣のように美しい立ち回りでしょう。
トム・クルーズがやダニエル・クレイグが、背広の下の筋肉をひけらかし、ナルシストの匂いがぷんぷんするのと異なり、ステイサムにはどこか照れがあり、謙虚さがあります。
それがどことなく日本の古武士を思わせ、立ち居振る舞いにも歌舞伎役者のような品が感じられるから、魅了されるのでしょう。
中華レストランのアクションも、若山富三郎や三船敏郎の剣術を見るようです。
相当にトレーニングされているんでしょうね。
「殴る」というより、「斬る」という感じ。動きがとても綺麗です。
本作のもう一つの見どころは、ポーランド系女優、アガタ・ブゼクの愛らしさ。
アガタの話す英語は、もちろんポーランド訛り。
実際、英国には、ポーランド移民が多いです。
そのくせ、けっこう大胆で、必ずしも完璧な『天使』でない点がチャームポイント。
「罪を背負った聖職者」という難しい役柄ですが、まるで気負いを感じません。
下町のホームレスを相手に、健気にボランティアに励むシスターの姿によくマッチして、東欧系の白い肌が、今や人種のるつぼと化したロンドンの町並みから浮き上がっているのが印象的です。
【コラム】 原題 『リデンプション(償い)』の意味するもの
原題は『Redemption』(償い)。
戦場の狂気から、罪なき民間人を殺害したジョゼフと、性的ハラスメントから逃れる為に体操コーチを殺めてしまったクリスティーナの、それぞれの償いを描いています。
罪を背負った人に共通するのは、『罪をおかした人間は、決して幸せになってはならない』という思い込みです。
本人がそれを自分に課しているケースもあれば、世間が幸せになることを許さないケースもあり、黒か白かで単純に割り切れる問題ではありません。
では、罪をおかした人間は、真っ当に暮らすことも、人を愛し、愛されることも、許されないのでしょうか。
私は決してそうは思いません。
そこに贖罪の気持ちがある限り、どんな罪人も、人間らしく生き直す権利があると思います。
とりわけ、キリスト教においては、「改悛」に重きを置いています。
一度も罪をおかしたことのない人間より、罪を悔いた人間の方がいっそう尊いという考え方です。
しかし、一度でも罪をおかせば、もう二度と、昔の無垢な自分には戻れないというのが、良識ある人間の感覚でしょう。
たとえ神が許しても、自分で自分が許せない。
自分みたいな人間は、決して幸せになってはならないのだ――と思い込み、激しい自責の念から、たとえ幸せになるチャンスが目の前に訪れても、わざと背を向け、再び破滅に走る人も少なくないと思います。
本作でも、クリスティーナはジョゼフと結ばれ、一人の女性として幸せに生きることも可能でした。
ジョゼフも裏社会と関わりがあったにせよ、始末を付けた後は、一人の市民として更生する機会があったはずです。
にもかかわらず、二人はそのような選択はせず、さらなる茨の道を選びました。
クリスティーナは、ロンドンよりもっと環境の厳しいアフリカに赴き、ジョゼフは逮捕や報復を覚悟で、ロンドンの町中を歩いて行きます。
愛の団居に背を向け、再び孤独と戦いの日々に身を投じるのは、やはり自分で自分を許すことができなかったからでしょう。
罪をおかした者は、一生、笑うことも、休むことも断念し、世の為、人の為に、永久に奉仕しなければならない。
そんな覚悟と諦念を感じます。
だが、そんな決意の狭間にも、癒しと幸福を求める気持ちがあり、本作はその隙間を上手に描いています。
わざと背を向けることもなければ、近付きすることもなく、まるで初恋のように切ない距離感が、本作の醍醐味ではないでしょうか。
この後、アフリカに赴任するクリスティーナには大変な苦労が待ち受けているだろうし、ジョゼフも今後は英国軍だけでなく、ギャングにも追われ、安住の地など何所にもありません。
それでも人間らしく働き、愛を交わしたひと夏の思い出に支えられ、最後まで、真っ当な人生を歩み続けるのではないでしょうか。
上空に羽ばたく監視カメラ『ハミング・バード』=神の目は、これからも彼らの為す様を見つめ、いつかそれにふさわしい結末をもたらすでしょう。
もしかしたら、本当の救いは『神』や『天国』ではなく、すぐ側にいる人の真心であり、触れ合いかもしれません。
【映画コラム】 移民とギャング
映画で描かれる移民の犯罪組織といえば、昔『ゴッドファーザー』(シシリアン・マフィア)、今は中国系です。
ミッキー・ローク主演の映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』でもリアルに描かれていましたし(チャイニーズ・マフィアのドンはジョン・ローンが熱演)本作でも、不法入国の斡旋、同胞間の殺戮、中華レストランは表の顔、実は・・みたいな実態が生々しく描かれています。
イタリア移民のシシリアン・マフィアもそうですが、元々、同胞を守る助け合い集団だったのが、次第に暴力や金銭と結びつき、一帯を支配する一大勢力にのし上がっていく様は、どこも同じではないかと思います。
マフィアならずとも、外国人が異国で生きていくのは大変です。
言語を筆頭に、文化習慣の違い、偏見や差別など、外国人を取り巻く環境はどこも厳しいですし、巨大資本に支えられた上等移民でもない限り、地元民より成功することはまずありません。
中国系幹部のセリフ「ここで成功して、白人を雇うのがオレたちのステータス」という言葉が全てを物語っています。
世界中、どこも移民問題で揺れていますが、結論から申せば、自分の母国以外に幸せに暮らせる場所など、なかなかないんですね。
戦争や圧政などで、母国の状況がはるかに悪いケースは別ですが、数ある選択肢の中から、お金の為、仕事の為、結婚の為といった、一般的な理由で選んだ場合、どれほど恵まれた環境にあっても、言語や、食生活や、メンタリティの違いから、大きなストレスを感じるのが当たり前です。
それが高じれば、現地人への憎悪になるし、またこちらは真面目に暮らしていても、謂れのない差別や侮辱を受ける場面は数多くあります。
そうした齟齬の中で、お互い、憎しみをこじらせると、平和とは程遠い関係になってしまうのです。
映画の場合、演出が多分に含まれますが、一つの現実を描いているのは確かであり、グローバル化の時代、こればかりは避けられない問題なのかもしれません。
それにしても、本作の「ボス」も凄い。
どこからこんな強面の女性役者を連れてくるのか、海外の映画界は、ホント、奥が深いです。
どうやって、ここまでのし上がったのか、スピンオフで描いて欲しいですよね。『ハミングバード外伝』とか。
ちなみにこの女優さんは仏英系のいろんな作品n出演しておられます。特にリュック・ベッソン系。ボケ役も上手です)
ディスク紹介
まさか買うとは思わなかった、ジェイソン・ステイサムのブルーレイ。
どこがそんなにいいの? と問われたら、「いつものジェイソンと、ちょっと違うから」
疲れた時に、しんみり鑑賞したい、大人のラブロマンス&アクションです。
ジェイソン・ステイサムのおすすめ映画
テンポのいい、ほっこり系クライム・サスペンス『PARKER/パーカー』
ジェイソン・ステイサムに興味があるけど、何から見ていいか分からない……という方におすすめしたいのが『パーカー』。
共演のジェニファー・ロペスも、「人生にも仕事にも疲れた、ハイミス不動産屋OL」を好演し、ジェイソンの恋人と絶妙な三角関係を描きます。
事件の始まりから終結まで、テンポよく脚本も進み、エンディングもクスっと笑える完成度の高さ。
従来のクライム・サスペンスにはない、ほっこり系の作りで、同系統の作品に飽きてしまった方にもおすすめ。
うらぶれたハイミスOLのレスリー(ジェニファー・ロペス)が、「自分は一生、縁のない高級不動産を、金満オヤジにいやらしい目つきで見られながら、必死でセールスする日々は、もうたくさん!」と嘆く場面に超共感。
ジェニファーは踊れるだけでなく、庶民感覚に添った演技もできるのだなと、ますます好きになりました。
■ 商品解説より
犯行の為だけに集められた4人と組み、大金が集まるステート・フェアを襲撃したパーカー(J・ステイサム)。
見事強奪に成功するも、4人組はパーカーに瀕死の重傷を負わせ分け前を奪って逃走。
なんとか一命を取り留め報復計画を企てたパーカーは、4人組の追跡中に出会ったレスリー(J・ロペス)を巻き込み、壮絶な復讐劇を開始する。
しかし、その背後には、彼の命を狙う最凶の刺客が息を潜めていた――。
ブルーレイ / DVDはこちらです。amazonで733円から。
安心して楽しめる『トランスポーター』
「序盤サイコー、終盤金と時間を返せ」みたいな作品が少なくない中、『トランスポーター』は安心して楽しめるアクション映画です。
ハミング・バードのようにシリアスなドラマではなく、どちらかといえば、コミック系。
悪役のチャイニーズ系も、リュック・ベッソン監督の作品でお馴染みの俳優さんで、『キッス・オブ・ザ・ドラゴン』のファンなら一気に親しみが増すのではないでしょうか。
アクションも申し分なく、中だるみ無しのノンストップ展開。
視聴して損のない作品です。
■ 商品解説より
フランクはワケありの依頼品を高額の報酬と引換えに目的地まで運ぶ、プロの運び屋=トランスポーター。
彼には自らに課した3つのルールがあった。
1)契約厳守、2)名前は聞かない、3)依頼品を開けない。そのルールを1つでも破れば、<死>。
ところが、あるデリバリーの途中、彼は依頼品を開けてしまう。そこで彼が目にしたのは、ひとりの美しい女だった。
彼を取り巻く状況は一気に悪化し、一触即発の事態へと転じていく…。
トランスポーター1 スペシャル・プライス [Blu-ray]
子役に微妙にイラつく国際犯罪系アクション『SAFE /セイフ』
設定は非常にスリリングで、興味深い内容なのですが、子役が微妙にアレで、いまいち「ヒロイン」として感情移入できないんですね(^_^;
どうせなら『ダ・ヴィンチ・コード』のソフィー(オドレイ・トトゥ)みたいに、生い立ちの複雑な二十代前半の可憐な美女にすればよかったんじゃないかと、つくづく。
まあ、ジェイソンが相手だと、エロ抜きに語れないから、学童になってしまったのかもしれないが。
何人かが辛口評価されているように、もう少しひねりがあればよかったのではないかと思います。
それでもジェイソン・ステイサムは格好いいし、土日の暇つぶしには丁度いいのではないでしょうか。
■ 商品解説
ニューヨーク。元市警の特命刑事だったルーク・ライトは、今はマイナーな総合格闘技のファイターにまで落ちぶれていた。八百長試合で誤って相手をKOしてしまった彼は、その試合で大損害を被ったロシアン・マフィアに妻を惨殺されてしまう。すべてを失い、飛び込み自殺をしようした時、少女が、妻を殺したロシア人の一団に追われているのを目撃する。彼は少女を救うが、今度は汚職警官グループやチャイニーズ・マフィアまでもが、少女を追ってくる。その中国人少女メイは、一度覚えた数字を絶対に忘れない天才で、チャイニーズ・マフィアがある暗証番号を覚させていた。ルークは、メイの安全を守るため、悪の組織を叩き潰すべく行動を開始する…。
円盤は買うほどでもないです。
初稿 2017年2月6日