結婚して「心が自由になる」ということ ~池田理代子の漫画『セイリング』

典子はエリート公務員との結婚が決まっていたが、結婚に少しも幸せに感じない。飲み会で知り合ったフリーカメラマンの香山に心惹かれ、ロッド・スチュワートのヒット曲『セイリング』を聞きながら、自由とは心を解き放つことだとさとる。結婚と心の自由に関するコラムと併せて。

目次 🏃

漫画『セイリング』について

池田理代子の漫画『セイリング』は、1995年に刊行された『池田理代子短篇集 (3) (中公文庫―コミック版)』に収録されている小品です。(いわゆるレディコミ)

大学を卒業したばかりの元崎典子は世間知らずのおぼこい娘。エリート公務員の婚約者にも気に入られ、式場選びなど、準備も着々と進んでいますが、どうしても結婚することに幸せを感じることができません。

そんな中、飲み会で知り合った、フリーカメラマンの香山に心ひかれます。

いけないと分かっていても、気持ちを抑えられない典子は、香山から教えられたロッド・スチュワートの『セイリング』という曲を聴きながら思います。

I am sailing
I am sailing home again 'cross the sea
I am sailing stormy waters
To be near you
To be free

I am flying
I am flying like a bird 'cross the sky
I am flying passing high clouds
To be near you
To be free...

嘘よ……

誰かのもとへ行くってことは束縛されに行くってことよ……
どうして『自由』になるためなの……

それまで世間のことなど何一つ知らず、親のすすめるままに結婚相手を選んだ典子ですが、香山と結ばれた時、心から悟ります。

だって、わたし分かってしまったの!

あなたのもとへ行くことがどうして『自由になること』なのか。

自分を解き放ちに行くことなのよ。

あの人のそばで、わたし、生まれて初めて、自分を解き放つことができたように思うの!

池田理代子の漫画『セイリング』

典子は香山と暮らすために家出しますが、突然、自分のしたことに怖じ気づき、無言で彼のアパートを去っていきます。

予定通り、公務員の婚約者と結婚し、平凡な家庭を築きますが、その後、香山がカメラマンとして成功し、美しい女性と結婚して、幸せに暮らしていることを知った典子は、苦い後悔を噛みしめながら、「どう生きても、人生は一度きり」といつもの日常に戻っていきます。

結婚=不自由という視点で描かれるレディースコミックが多い中、本作は、自分らしさと魂の解放をテーマにしており、結婚に否定的な人も少し見方が変わるのではないでしょうか。

結婚といえば、どうしても、経済的・時間的制約と我慢に目が向きがちですが、誰かと一緒になることで得られる安心感や解放感もあります。

不安や焦りを抱えたまま、自由な時間を満喫しても、かえってその自由が虚しく感じられると思います。

誰に気がねすることなく、好き勝手にすることが自由ではなく、様々な思い込みから解き放たれ、、自分らしく居られることが真の自由ではないでしょうか。

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池田理代子短篇集 (3) (中公文庫―コミック版)
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ロッド・スチュワートの『セイリング』

本作に登場する『セイリング』は、元々はThe Sutherland Brothersのキャビンとイアン兄弟デュオが1972年6月に発表した楽曲ですが(Wiki参照)ですが、1975年、英国のロック歌手、ロッド・スチュワートがカバーして、世界的な大ヒットとなりました。

歌詞と楽曲の美しさから、古今東西の様々なアーティストが演奏し、時代を超えたスタンダードとなっています。

一見、旅立ちを歌っているように聞こえますが、『セイリング』の意味するところは、「愛する人の所に渡って行く」です。

歌詞に登場する『You』は、キリスト教における「神」を表すと言われ、「人生を旅した私が、神の御許へ帰って行く」という魂の回帰を謳っています。

【コラム】 結婚したら自由はなくなるの?

女性も、男性も、『結婚すれば自由がなくなる』と思い込んでいる人が少なくありません。

確かに、経済的にも、時間的にも、制約が生じ、買い物一つ出かけるにも、夫や子供に気兼ねしながらでは、窮屈に感じるのも当然ですね。

しかし、心の自由はどうでしょうか。

結婚することで、ほっと胸をなでおろし、安定した暮らしの中で、かえって仕事や趣味にじっくり取り組める人も少なくないのではないでしょうか。

時間的、経済的に自由だからといって、心も自由とは限りません。

いつも将来が不安だったり、生きる目的を見失ったり、イライラくよくよしながら、無駄にエネルギーを消耗している人もあるのではないでしょうか。

結婚は、あなたがあなたらしく居られる場所です。

真のパートナーの前では、自分を大きく見せる必要はありません。

自分が感じたことや考えたことを素直に語り、人生に必要な理解や支えを実感することができます。

等身大の自分を受けとめてもらえた時、あなたは自由の本当の意味を知るでしょう。

そうした心の自由は、時間やお金では決して手に入らないものです。

自分らしく生きられる場所があって初めて、人は本来の実力を発揮することができます。

結婚は、そうした場所の一つです。

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初稿 2010年8月2日

誰かにこっそり教えたい 👂
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個人とは別に、二人で生きる人生があってもいいし、家族全員が仲好く暮らせるのも素晴らしいことです。 縁あって、関係をもったならば、最初から破局を恐れて斜に構えるのではなく、その機会を全力で楽しむ気持ちが大事です。Love Log

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作家・文芸愛好家。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚の小説を手がけています。東欧在住。作品が名刺代わり。Amazon著者ページ https://amzn.to/3VmKhhR

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