アルバム『カフェ・ブリュ』
アルバムの概要
スタイル・カウンシルは、80年代のUKロックを代表するポップ・ロックバンドだ。
全英ヒットチャートで最高第二位を記録した『CAFE BLEW(カフェ・ブリュ)』を皮切りに、ポップ、ジャズ、クラシックなど、多種多様な音楽が融合したユニークな楽曲を発表し、世界的な人気を博した。
特にファーストアルバムの『CAFE BLEU(カフェ・ブリュ)』は、ロックとジャズが融合した個性的なサウンドで定評があり、シングルカットされた『MY EVER CHANGING MOODS』は世界的ヒットとなっている。
R&B、ソウル、ジャズ、ファンクなど、黒人音楽のエッセンスを英国的センスで仕立てたファッショナブルなサウンドは、世界中の音楽シーンに大きな衝撃を与え、ウェラーは再び時代の中心に立った。特に日本では、ザ・ジャム以上に高い評価とセールスを獲得。80年代後半からの「渋谷系バンド」を中心に、その影響は計りしれないものがある。(森 朋之)
CDとライナーノーツより
以下、CDアルバムのライナーノーツより、転載。
ポール・ウェラーは当初シングル中心に活動する方針を決めていて、世界各地で録音した4曲入りのEP盤をリリースする予定だった。実際にイギリスではそれが<スタイル・カウンシル・ア・パリ>となって発売された。そして最近、「次はチベットで学ぶのだ」という噂が入ってきて、チベットにははたしてレコーディング・スタジオなどがあるのかしらと懸念しているところへ、こうした当初の計画を変更して突然のニュー・アルバム、両面併せて13曲も収録された、レッキとしたアルバムが届いてしまったのである。
≪中略≫
まず、ポール・ウェラーは何故ジャムを解散しなければならなかったのか。
スタジオ録音としては最後になってしまった≪ザ・ギフト≫の時点ですでに彼には迷いがあったと思われる。≪ザ・ギフト≫は黒人のホーン・セクションを導入してジャムが大幅に様変わりしたアルバムで、無愛想だったジャムのサウンドに初めて色気が加わったと喜んだ人も多かった。ところが、この変化は彼にとって行き詰まりを打開する試行錯誤だったのだろう。それから六ヶ月後にジャムはあっけなく解散するのだ。
≪中略≫
結論から言ってしまうと、おかしな話だが、それができないのがポール・ウェラーなのである。
「自分達がこれからもぬくぬくやっていけると思う事が、自分で恐ろしかった」
普通の人間ならばまだまだやれると思うところを、彼にはそうした心理自体が耐えられない。地位を守るために醜態をさらけ出すのが、悲しいかな大多数の人間の性だが、彼の場合、むしろ自分を守るために地位を捨てたということだ。
≪中略≫
このアルバムはお世辞にもコマーシャルとは言えないし、ともすると趣味的、懐古的と誤解される危険性も多分にはらんだ内容になっている。ファンキー・ジャズ、ビー・バップ、シャンソン、ラップといった様々な形式(=スタイル)で、雰囲気はモロにオールディーズだからだ。
しかし、ここで重要なのは、ジャム時代に比べて信じられないくらい思慮深くなったアコースティックな楽器の音色と、比重の高くなったボーカルである。張りがあって、本当に清楚な響きのこのサウンドは、ジャム時代の神経質なギター・ワークと共通の潔癖性をもっている。つまり「カフェ・ブリュ」のフランス語タイトルが示すとおりに、りりしいのだ。そして、彼一流の清潔の美学をもってすれば、様々なスタイルの中に彼自身が埋没してしまっていることもない。いや、レコードをきけば誰にでもわかることだが、スタイルに対する審美眼こそ、ポール・ウェラーその人の存在感を表しているとさえ言える。
とにかく、ジャムがエキサイティングでないと感じたポール・ウェラーは、惜しげもなくジャムを解散し、スタイル・カウンシルによって、萎えかけた音楽の情熱を取り戻すことに成功したのである。
増井修(ロッキング・オン)スタイル・カウンシル CD『カフェ・ブリュ』ライナーノーツより
珠玉のラブソング『The Paris Match』 ~恋する人の面影を求めて
名曲ぞろいの『カフェ・ブリュ』の中でもひときわ美しいのが、英国のシンガーソングライター、トレイシー・ソーンが歌う『The Paris Match』だ。
*
雨に煙るような夜の街。
いとしい男の面影を追って、さまよい歩く女の姿が浮かぶ。
それほど愛している訳ではない。
だが、求めずにいない。
トレンチコートのポケットに冷えた手を突っ込み、「またここで、あの人に会えるのではないか」と淡い期待を抱きながら、バーを渡り歩く女のイメージが浮かぶ。
世に恋の歌は数あるが、『The Paris Match』は淋しい恋の情景をセピア色に描き、まるで一遍の古いフランス映画を見るようだ。
トレーシー・ソーンの少しかすれた歌声が、霧雨に煙るパリの下町を思わせる、隠れた名曲である。
The Paris Match オリジナル歌詞 & 日本語訳
Empty hours spent combing the streets
In daytime showers they’re become my beat
As I walk I knew where you are
because you’ve clouded my mind
And now I’m all out of time
Empty skies say try forget
Better advice is to have no regrets
As I tread the boulevard floor
Will I see you once more
Because you’ve clouded my mind
Till then I’m biding my time
I’m only sad in a natural way
the gift you gave is desire
The match that started my fire
Empty nights with nothing to do
I sit and think every thought is for you
I get so restless and bored
So I go out once more
I hate to feel so confined
I feel like I’m wasting my time
街を捜し歩いた空しい数時間
昼間の雨は私の鼓動を刻んだわ
カフェからバーへと足を運びながら
あなたの居場所を知ってたらと悔やむ私
あなたが私の心を曇らせてしまったのよ
今の私は何もかも調子っぱずれ
うつろな空は忘れろというし
くよくよするなって忠告ならマシな方
こうして通りの下を歩いて行けば
もう一度あなたに逢えるかしら
私の心を曇らせてしまったあなた
そのときまで私の時間はとまったまま
私が悲しいのはいつものこと
時にはそれを楽しんでいることもあるわ
あなたがくれた欲望という名の贈り物
もうマッチに火が点いてしまったのよ
何もすることのない夜の連続
想いはすべてあなたにつながってしまう
不安と退屈がまじりあい
たまらずまた外出してしまう
こんな息苦しい思いはイヤ
とっても時間を無駄にしてるみたい
日本語訳:Kuni Takeuchi CD『カフェ・ブリュ』より
MY EVER CHANGING MOODS
私がタイル・カウンシルを聞くようになったきっかけが、世界的ヒットとなった『MY EVER CHANGING MOODS』。
こちらも『The Paris Match』に負けず劣らず、ジャジーな旋律が美しい。
この曲は、ポップ調のものと、動画のジャズ・ピアノバージョンと二つあって、世界的にはポップ調の方がヒットしたのですが、『カフェ・ブリュ』にはピアノ・バージョンが収録されている。
初めて聞いたのは高校時代だが、まるで自分の心情を物語っているような感じで、毎日のように聞いていた。
Daylight turns to moonlight, and I’m at my best
Praising the way it all works and gazing upon the rest
The cool before the warm, the calm after the storm
Oh the cool before the warm, the calm after the storm
I wish to stay forever, letting this be my food
Oh but I’m caught up in a whirlwind and my ever changing moods
Bitter turns to sugar, some call a passive tune
But the day things turn sweet, for me won’t be too soon
The hush before the silence, the winds after the blast
Oh the hush before the silence, the winds after the blast
I wish we’d move together, this time the bosses sued
Oh but we’re caught up in the wilderness and an ever changing mood
Teardrops turn to children, who’ve never had the time
To commit the sins they pay for through, another’s evil mind
The love after the hate
The love we leave too late
The love after the hate, the love we leave too late
I wish we’d wake up one day, and everyone feel moved
Oh but we’re caught up in the dailies and an ever changing mood
Evil turns to statues, and masses form a line
But I know which way I’d run to if the choice was mine
The past is our knowledge, the present our mistake
And the future we always leave too late
I wish we’d come to our senses and see there is no truth, oh
In those who promote the confusion for this ever changing mood, yeah
昼の光が月光に変わり、オレは上機嫌
あらゆる神のみわざを讃え、安らかさを見詰める
暖かさの前の冷たさ
嵐のあとの穏やかさ
ずっとこのままいたい この気持ちをかてとして
だが激情と気変わりがオレをとらえて離さない
苦みは甘みに変わり、人は陰気な曲だという
でも日常は楽になり、オレには早すぎやしない
沈黙の前の静寂
突風のあとの風
一緒に吹かれて行きたい、ボスたちは訴えた
でも激情と気変わりがオレたちをとらえて離さない
涙は子供たちに姿を変え、彼等には時間がない
彼等は支払いのために罪を犯す、新たな悪
憎しみのあとの愛
オレたちは愛に置いてけぼり
みんな目覚め、感動する日がやってきてほしい
でも日常と気変わりがオレたちをとらえて離さない
悪はシンボルと化し、大衆は列となる
だがオレは自分がどっちに行くべきかを知っている
……選べる自由があればのことだが……
過去は知識、現在は過ち、
そしれオレたちはいつも未来に置いてけぼり
みんな正気を取り戻せ、真実の不在を知るんだ、
この柔軟な心を乱そうとする奴らを見ろ……
日本語訳 Kuni Takeuchi (CD『カフェ・ブリュ』 ライナーノーツより)
この抽象的な英詩を日本語の歌詞に訳せるなんて、プロの翻訳家は本当に凄いですね(*^_^*)
The Logers(ロジャース)
『The Logers』も、一時期、FMラジオで耳にしない日はないほど大ヒットした。
さびの部分が印象的なUKロックの代表曲だ。
Those who play the leeches game
Don’t get settled in this place
The lodger’s terms are in disgrace
この曲も女声のバックコーラスが素晴らしく、イントロだけでも印象に残る。
ポール・ウェラーはアレンジも素晴らしい。
Walls Come Tumbling Down!
「Walls Come Tumbling Down!」もヒットチャートを制した、ノリのいい曲だった。
アルバム紹介
アルバム『アワ・フェイヴァリット・ショップ』
ポール・ウェラーは、英国の美男俳優ルパート・エヴェレットと親しいんですよね。
このジャケットの背景に飾られているのは、ルパートの代表作『アナザーカントリー(Another country)』のポスターです。
このCDは彼らのベスト盤的な一枚です。
Lodgers(邦題:『ロジャース』)は、こちらのCDに収録されています。
アルバム『Confessions of a Pop Group』
上記に続いて、またまた斬新な一面を打ち出した異色のアルバム。
ジャズともクラシックともつかぬ上質なサウンドと壮大なスケール感に圧倒されること請け合い。
音楽全体に透明感があり、宇宙的な広がりを感じさせる。
ジャケットや中身のイラストも大変凝っていて、ポールの才能を余すことなく表現した珠玉の一枚。
イラストだけでも見る価値があります。
特に『エデンの庭師』の美しさは白眉のもの。まるでクラシックの小組曲でも聴いているような感じです。
ストリングスが非常に素晴らしい。
最後に、このアルバムに収録されている、夢のように美しいヴォーカルをどうぞ。
エデンの庭師 ~ The Garden of Eden A Three Piece Suite ~
【音楽コラム】 優れた音楽は融合体
追記:2018/05/13
ジャズ、ポップス、イージーリスニング、クラシック、R&B、等々。
すべての楽曲は細かくカテゴライズされ、カテゴリーの中で語られるが、本来、音楽にカテゴリーなるものは存在しない。
ショパンやチャイコフスキーのような古典の名曲も、当時、歌い継がれていた民謡や俗歌にヒントを得ているし、先人であるベートーヴェンやバッハに影響を受けたり、同時代のライバルに刺激されたり、己一人でゼロから立ち上げた……ということは断じてない。
優れた音楽は、様々な音楽的要素の結晶だ。主旋律はポップスでも、どこかにジャズやクラシックの血筋を垣間見ることも珍しくない。
スタイル・カウンシル=ポール・ウェラーもその一人で、前身のザ・ジャムが解散した時、ずいぶん世間を騒がせたようだが、「ザ・ジャム」「モッズ・スタイル」「パンク」という枠に収まりきらなかったのだろう。
スティングも、ザ・ポリスであれほど一世を風靡しながら、途中でソロ活動に転じ、ジャズと融合した『ブルータートルの夢』というソロアルバムを制作し、『シンクロニシティ』の世界観とは似ても似つかぬ音楽をやりだして、ザ・ポリスの内紛にとどめをさした。だが、こういう天才肌の人を捉まえて、いつまでもロックをやれ、世間の期待に応えろと要求する方が無理があるだろう。
彼らは自己増殖する映画『AKIRA』のテツオと同じで、耳にするもの、触れるもの、片っ端から己の中に吸収し、ぶくぶく才能を肥らせていくモンスターなのだから、ジャズでもオペラでも好きにさせるのが一番いい。
才能ある者に「やめろ」ということは「死ね」というのも同義語だ。彼らが自分の望みとは全く異なる方向に突っ走っても、「裏切られた」「失望した」などと思わず、過ぎ去った青春の日々を思いながら、遠くから見守るのがファンの正しい姿勢だろう。
ポールの真意がどこにあるのか、目指す音楽は何なのか、私には分からないけど、これだけは言える。
19歳の多感な時期にスタイル・カウンシル――とりわけ The Paris Match に出会えたのは最高に幸運だったということ。
初回公開日 1998年秋
第二稿 2010年4月30日