映画『アナザー・カントリー』の見どころ
作品の概要
アナザー・カントリー(1981年) - Another Country(直訳すれば、「もう一つの国」)
監督 : マレク・カニエフスカ
主演 : ルパート・エヴェレット(ガイ・ベネット)、コリン・ファース(ガイの友人 トミー・ジャド)、ケイリー・エルウィス(ガイの恋人 ジェームス・ハーコート)
あらすじ
イギリスの全寮制パブリックスクールの学生で、上流階級でもあるガイ・ベネットは、年下の美少年ジェームス・ハーコートに心を奪われる。
だが、学内では同性愛は御法度。違反した生徒には厳しい罰が科せられ、エリートコースへの道も絶たれる。
友人で、共産主義でもあるトミー・ジャドは、学内の自治会(エリート集団)「ゴッド」に選ばれたければ、ジェームスのことは諦めるよう忠告するが、ガイはハーコートに恋文を渡し、逢瀬を重ねる。
ゴッドの使命をめぐって、学生間で様々な駆け引きが行われる中、ガイはジャドの協力を取り付け、あと一歩のところまで迫るが、ジェームスに宛てた恋文がライバルの手に落ち、ガイは絶体絶命の窮地に陥る。
「なぜジェームスの名前を出さなかった?」とガイの落ち度を責めるジャドに、「ジェームスを巻き込むことは出来ない。何故なら、彼を愛しているからだ。もう女は愛さない」と自らの同性愛を認め、ガイは意外な道を歩むことになる……。
見どころ
日本でも、「同性愛」や「美少年」がまだ異端だった時代、全国のJUNE系乙女が熱狂した、伝説の社会派ドラマ(ラブストーリー)。
『アナザー・カントリー(もう一つの国)』とは、英国社会も既に学生時代から形成されていて、学内で起きたことは、そのまま実社会にも反映される皮肉を描いている。
日本もそうだが、英国はさらにシビアな階級社会であり、学内のエリート集団に属することは、将来もエリートに取り立てられることを意味する。
自治会長はそのまま総理大臣になり、大会社の取締役となり、全てが学校社会の再現というわけだ。
ガイ・ベネットは学内で「ゴッド」の役員を務め、ゆくゆくはパリ駐在大使になって、女王に勲章をもらうことを夢見ている野心家であり、大志を遂げるには、何が何でも「ゴッド」の称号を得なければならない。
「たかが学生の自治会」と言うなかれ。
そこで築いた人脈は、実社会においても有力なコネクションになり、そこで人生が決まるといっても過言ではない。
固定された階級社会を、共産主義者のジャドは軽蔑するが、最終的には友人のガイの為に協力する。ガイの同性愛を冷ややかに見ながらも、ジャドだって、ガイに心惹かれているのではないか?? と勘ぐりたくなるような展開である。そして、それが、本作の最大の魅力である。
女性キャラは一切登場せず(母親とメイドぐらい)、美しい男達だけで展開する愛と権力闘争のドラマに、きっと目が釘付けになるはず。
ハリウッド的なオチや盛り上がりは一切なく、まるで教養番組のように淡々と話が運ぶが、それがかえって知性と叙情性を醸し出し、生涯の一本として心に刻まれる。
この脚の長さ。瞳のきらめき。全てがゴージャス。全てが本物。
リアル少女漫画の世界をご堪能下さい。
もう女は愛さない ~ガイ・ベネットの背徳と憂愁
物語は、二人の少年が物置で愛し合っているところを舎監に見つかり、少年マーティンが首つり自殺をはかるショッキングなシーンで始まる。
だが、学内最高の権力機関である自治会『ゴッド』のメンバーは、世間体を第一に考え、生徒にも親族にも箝口令をしき、追悼ミサで済ますことに合意する。
とりわけ、強硬派のファウラーは、同性愛を厳しく戒め、違反者には厳しい処罰を科すことを言明する。
かつてガイの同性愛の相手だったデラヘイは、「君も気をつけろ」と忠告するが、ガイはまるで構わず、年下の美少年ジェームス・ハーコートに恋文を渡して、逢瀬を重ねるようになる。
ガイは孤独だった。
たった一人の身内である母親も、父親の腹上死の現場を目にしてから、上手く関係が作れない。
そんなガイの心に優しく寄り添うジェームス。
二人の間には深い絆が結ばれる。
夜の密会の場面も、「ロマンティック」のひと言。
やがて『ゴッド』の使命をめぐり、学生間の駆け引きがいっそう激しさを増す中、友人のジャドはガイの軽率な振る舞いを咎めるが、ジェームスに夢中のガイは聞く耳を持たない。
やがてガイと敵対するファウラーの手に「恋文」を差し押さえられ、ガイの同性愛が白日の下にさらされる。
この時、ジェームスの名前を出して、適当に言い逃れすれば、ゴッドのメンバーの前で馬のように鞭打たれる、屈辱的な処罰は免れたかもしれないのに、ガイは全ての責を自分に背負い、ジェームスの名前を出すことはなかった。
ガイの野心を知るジャドは、「なぜ、いつもの要領で誤魔化さなかった? (これまで関係のあった生徒の名前を舎監に密告するぞ、と脅迫する)と、ガイを責めるが、ガイは涙ながらに答える。
二人とも放校だ
ダメだよ 愛してるんだから
もう隠さない はっきり言うよ
本気さ 一生 女は愛さない
ジャドは、馬鹿なことを言うなとガイを戒めるが、
「マーチノ(自殺した生徒)も言ってた。啓示みたいに突然くるものじゃない。前から分かってることだ。自分が認めさえすればいい。認めれば気が楽になる。君がマルクスを読むのも、心情的に共産主義者だからだ」
と言明し、もう後戻りはしない意思を固める。
ゴッドの前でみじめに鞭打たれ、先も見えたガイは、「畜生ども 軽蔑させておいて、いつか……最後に笑うのは僕だ」と、エリート集団への復讐を誓うのだった。
画像で紹介 ~アナザー・カントリーの名場面
学校で最高の権力をもつ『ゴッド』。
彼らが将来、英国社会の頂点に立ち、この場で繰り広げられるのと同じ光景を再現する。
学校で人生が決まる。ガイ・ベネットがゴッドにこだわる所以。
危険な罠が仕掛けられるのを承知で、ガイ・ベネットは美少年ジェームスをデートに誘う。
紫のオーキッドを胸に飾って、似合う男性は世界に数えるほどしかないと思う。
ルパート・エヴェレットの美しさと色香は白眉のもの。
見るからにストレートなハーコート君も、まんざらではなさそうな感じがよい。
ちなみに、ケアリー・エルヴィスは、フランシス・コッポラ監督の映画『ドラキュラ』で、ルーシーの婚約者を演じている。
ストレートのジャドに後ろから抱きつくガイ・ベネット。(作中ではジャドの恋人の存在が示唆されています)
ジェームスとの恋愛がメインだが、ジャドとも結構いい仲で、ジャドもまんざらでもないんだろうな、とつくづく。
ジャドはあれこれ忠告するけど、実は、焼き餅だったりして……。
背徳の美愁・・
ルパート・エヴェレットは私生活でも同性愛者であることを公言しています。
「もう女を愛さない」の演技は本物だったのかも。
若き日のコリン・ファース。知性的で、名門の血筋を感じさせる。
アナザー・カントリーの舞台版では主役のガイ・ベネットを演じたこともある。
英国トラディショナルのニットのベストがよく似合う。
年をとってからは、『ブリジット・ジョーンズの日記』をはじめ、コミカルな役柄も多くこなしているが、やはり『アナザー・カントリー』の頃の上質かつ知的な輝きは白眉のもの。
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ジュリア・ロバーツ主演の恋愛コメディ。ルパート・エヴェレットは、ジュリアの友人で、ゲイの編集者を好演。コミカルな魅力を見せている。
映画ではないが、スタイル・カウンシルのリーダー、ポール・ウェラーの親友なのは有名な話。ヒットアルバム『アワ・フェイバリット・ショップ』のジャケットには、『アナザー・カントリー』のルパート・エヴェレットのポスターが使われている。
初稿 2010年4月28日