『絶望名人カフカの人生論』の概要 ~光がこの世の全てではない

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作品の概要

誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、
誰よりも前に進もうとしなかった人間の言葉――

将来に、世の中に、自分の心の弱さに、
結婚に、人づきあいに、不眠に、学校に、
そのほかありとあらゆることに絶望したときに読む本。

「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」――カフカ

【目次】

・頑張りたくても頑張ることができない
・手にした勝利を活用できない
・人生のわき道にそれていく
・気苦労が多すぎて、背中が曲がった
・散歩をしただけで、疲れて三日間何もできない
・やる気がすぐに失せてしまう
・死なないために生きるむなしさ
・親からの見当違いな励まし
・教育は害毒だった
・会社の廊下で、毎日絶望に襲われる
・愛せても、暮せない/ほか

カフカの絶望の言葉には、不思議な魅力と力があります。
読んでいて、つられて落ち込むというよりは、
かえって力がわいてくるのです。――編・訳者まえがきより

一つ星レビューに散見されますが、本書はカフカの名言をモチーフとした文芸エッセーなので、純粋に文学として味わいたければ、短編集やアフォリズムなどを読むことをお勧めします。amazonで冒頭を試し読みできるので、自分に合いそうなら購入して下さい。

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)
絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

カスタマーレビューが面白い

本書もよかったですが、amazonのレビューが面白すぎて、こっちの方がウケました。(現在、このレビューは削除されています)

ブックレビューで書評家が「笑っちゃうほどネガティブ」と称したカフカの名言集。冒頭1ページ目から凄い。「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」と名言でもなんでもない、ただのネガティブな愚痴みたいなのがたくさん詰まっていて楽しい。・・・これは結婚を申し出たフィアンセに贈る手紙のなかの一文らしいが、結婚する気あんのかこいつは。これで「わーカフカ君素敵」ってなると思ってんのか

仕事への愚痴と、父親への愚痴と、人間関係の愚痴が主な内容。「目標があるのに、そこに至る道はない。道を進んでいると思っているが、実際には尻込みしているのだ」というドキッとするような名言もあり、フリータやニートも味わい深い。

いつだったか足を骨折したことがある、生涯で最も美しい体験であった」とか、まったく意味不明な言葉も多々あり、かと思えば「誰でも、ありのままの相手を愛することができる。しかし、ありのままの相手といっしょに生活することはできない」 という素晴らしい名言もあり、「うわーたまにはいいコト言うがなーカフカー」と感心していると、欄外説明に「恋人に言われた言葉」って書いてあって、「お前の名言じゃねぇのかよ」と思わず叫んでしまった

こういう人こそ、日本の論壇に出てくれば面白いのよ。

お先真っ暗、絶望不況の真っ只中で、元気だ! 前向きだ! 幸福だ! を連呼するより、笑っちゃうほどネガティブな声の方が大衆の心に響くと思う。

「あんたの解説が読みたいんじゃない」と一つ星レビューをつけている人もありますが、最初からそれを前提に刊行されている書籍なので、純粋にカフカの名言だけ読みたければ、岩波文庫の短編集やアフォリズムを手に取ればいいのです。買う前に中身ぐらい確認しよう。

内容も、文字ぎっしりの評論ではなく、作者の思い入れが伝わってくる感想文のような作り。

エッセーみたいにさくっと読めるので、初心者の入門編に最適です。

ちなみにカフカをATOKで変換すると「過負荷」になります。

まさに変換通りの人生だったと推察しますが、今の日本に必要なのは、元気やアップデートではなく、傷つき、落ち込んだ人の方をそっと抱いてくれる仲間だと思います。

なおかつ、それを明るい自虐ギャグで癒やしてくれる。

等身大の人間ほど、心の支えになるものはありません。

*

正しい意見は人を安心させるが、魂までは救いません。

正しいことしか言えない人は、実は何も分かってないのでしょう。

その点、カフカは、自分の心の奥深くまで覗き込み、闇も正面から見詰めることによって、この世に二つとない歴史的名作を生みました。

カフカが神に選ばれたのではなく、作品がカフカを選んだのです。

私たちは人間の負の面を知り、寄り添うことによって、初めて人間として完成します。

光がこの世の全てではないのです。

「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。彼のネガティブな、本音の言葉を集めたのがこの本です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはいた、巨人カフカの元気がでる名言集。

カフカのおすすめ本 『変身』『アフォリズム』『短編集』『寓話集』

変身

カフカと言えば、『変身』ですが、様々な訳本があり、一部は無料(Kindle版)で読めますので、興味のある方はamazonで試し読みして下さい。

私が持っているのは新潮文庫です。

『変身』 新潮文庫
『変身』 新潮文庫

カフカの『変身』に関する文芸コラムはこちら。

疎外する家族と厄介者の息子 グレーゴル・ザムザは本当に『虫』になったのか ~フランツ・カフカ『変身』

夢・アフォリズム・詩

カフカの世界をさくっと楽しむなら、こちらがおすすめ。

短文の寄せ集め。たとえるなら、上記の「解説ぬき」という感じ。
手っ取り早くカフカの世界を楽しみたい方に。

カフカが生涯書き続けた日記、手紙、ノートの中から、夢のメモ、箴言、詩を精選。人間カフカの凝縮された言葉の数々が、鋭利な刃物のように読者の日常を脅かす。小説ではない、もう一つのカフカを一冊に。

カフカ寓話集

カフカの寓話は、19世紀のお伽噺のようで、どこか幻想的。
それでいて切れ味鋭く、真性引きこもりにしか書けない異次元の世界が拡がっています。

「カフカ伝説」といったものがある。世の名声を願わず、常に謙虚で、死が近づいたとき友人に作品一切の焼却を依頼したカフカだが、くわしく生涯をみていくと、べつの肖像が浮かんでくる。一見、謙虚な人物とつかずはなれず、いずれ自分の時代がくると、固く心に期していたもの書きであって、いわば野心家カフカである。

カフカ寓話集 (岩波文庫)
カフカ寓話集 (岩波文庫)

カフカ短編集

『変身』があまりに素晴らしい為、この程度の短編では(良い意味で)満足できないです。
それでも一読の価値はあり。

カフカ短篇集 (岩波文庫)
カフカ短篇集 (岩波文庫)

暗いのや辛辣なのが好きな方は、こちらもおすすめ。

・ 心にトゲ刺す200の花束 究極のペシミズム箴言集 (祥伝社黄金文庫)
・ ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)

カフカと西岡兄妹の『神の子供』

中学時代、『変身』に挫折した私が再びカフカを手に取ったのは、西岡兄妹の『神の子供』というエログロ漫画がきっかけでした。

ebookjapanに掲載された漫画コラムニストのレビューがあまりに素晴らしかったため、魔が差したようにダウンロード購入してしまったのです。

読んで、後悔しました。

なんでこんなもの買ってしまったんだろう……と、二日ぐらい、眠れませんでした。

そんな折り、amazonの関連商品を辿っていたら、上記の『絶望名人カフカの人生論』に行き当たった次第。

結局、この本がきっかけで、再び『変身』に向かい合うことができたので、元を辿れば、西岡兄妹のおかげと言えましょう。

あ、西岡兄妹に決して文句があるわけじゃないですよ。

センスのある魅力的な作家さんだと思います。

フランツ・カフカに傾倒しておられるとか。

ただもう「神の子供」がすんげーエログロで、こんなもの衝動買いしてしまった自分が信じられない。

その一言に尽きます。

せっかくだから、宣伝しとくねー。

興味のある方は、ぜひ。

↓ こいつ、ウンコ喰い

誰かにこっそり教えたい 👂
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この記事を書いた人

MOKOのアバター MOKO Author

作家・文芸愛好家。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚の小説を手がけています。東欧在住。作品が名刺代わり。Amazon著者ページ https://amzn.to/3VmKhhR

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