いかに戦い、いかに終るか ~良い負け方が明日の道を開く 映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』

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映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』

作品の概要

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男(2017年) -Borg vs McEnroe

監督 : ヤヌス・メッツ
主演 : スヴェリル・グドナソン(ビヨン・ボルグ)、シャイア・ラブーフ(ジョン・マッケンロー)、ステラン・スカルスガルド(コーチ・レナート・ベルゲリン)

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男
ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男

あらすじ
スウェーデンの世界ランク1位のテニスプレイヤー、ビヨン・ボルグは、若干24歳にして、前人未踏のウィンブルドン5制覇に挑もうとしていた。ボルグの最大のライバルは、テニス界の悪童として名高いジョン・マッケンロー。冷静沈着なボルグと、子供のように闊達としたマッケンローは、まさに「氷」と「火」だ。
計り知れないプレッシャーの中、ついに決勝戦の火蓋が切られる。それはウィンブルドンの伝説となる連続タイブレーク『22分間の死闘』だった……。

いかに負けて、いかに終るか ~良い負け方が明日の道を開く

試合の結果のネタバレを含みます

文句なしに、素晴らしい作品だった。

ビヨン・ボルグとマッケンローのことは知っていたが、ウィンブルドンでの伝説の22分間は見たことがなかったので、クライマックスの試合の場面は、文字通り、手に汗握る展開だった。

テニスでも、レースでも、伝説の試合を再現した作品は数あるが、本作は、映画のフィルムに、実際の映像を織り交ぜ、本物顔負けの緊迫感を醸し出している。

ボルグを演じたスヴェリル・グドナソンは、プロのテニスプレイヤーではないが、俳優とは思えないほどの演技力で、試合前のプレッシャーは見ていて、胸が苦しくなるほど。顔も非常にそっくりで、本物と見まごうほどの迫力だった。

次いで、驚いたのが、マッケンローを演じたシャイア・ラブーフだ。『トランスフォーマー』の三部作で、オプティムス・プライムと共に闘うドジな高校生、サム・ウィトウィッキーを好演し、一時期、大変な人気を博したものの、私生活ではトラブルも多く、すっかり鳴りを潜めた感があったが、本作では、「悪童」マッケンローのイメージにぴったりで、しばらく誰か気づかなかったほど。テニスの場面も、プロ顔負けの迫力で、サム・ウィトウィッキーをはるかに凌ぐ熱演だった。(また問題を起こしているようだが)

通常、この手の映画は、『ラッシュ / プライドと友情』みたいに、優等生の主人公と、やんちゃなライバルが、互いにいがみ合い、励ましながら、共に成長を遂げるストーリーが多いが、ボルグ VS マッケンローは、試合前、一度も交流することはなく、ウィンブルドンの試合が初対面となる。

それまでの間、ボルグは凄まじいプレッシャーと闘い、マッケンローは初制覇を目指して、全神経を集中する。その対比が非常に興味深く、追う者と追われる者、どちらがキツいかと言えば、追われる者=チャンピオンということを改めて思い知らされた。

そんなボルグの日常について、テニス仲間が面白おかしく語る場面がある。

いつか君も分かる
ウィンブルドン4連覇だぞ
すごい重圧だ
皆が倒そうとする
まわりは敵だらけ
この星で一番 孤独な男さ

今、ボルグは何を?
ベッドに入り 部屋をクソ寒くして
心拍数を50以下に

ヤツは迷信や儀式を信じる。

両親に会うのは2年に1回だけだ
ウェアもいつも同じ
練習も同じコートだ
ホテルも
車も
泊まる部屋も同じ

ラケットは50本
ガットをガチガチに張る
毎晩コーチと全部チェックする
1本ずつ丹念にだ
テンションに 音
まるで宗教さ

荷造りは恋人のマリアナがする
手順通り 事細かに

分かるか?

コートでも同じイス
タオルは二枚
1枚でも3枚でもない 2枚だ

ラインは絶対 踏まない
なぜ?
縁起が悪い
彼は氷山と言われてるが
じつは噴火寸前の火山だ

この台詞に会わせて、実際のボルグの日常が映し出されるのだが、心拍数50以下とか、荷造りは手順通りに、とか、恋人もよく付き合えるものだと感心する。

そして、そんな日常を、4年以上も続けてきた。

世界中のテニスプレイヤーが自分を倒そうとする。

常人にはとても理解できない世界である。

ついに5連覇という、前人未踏の記録を打ち立てるにあたって、さすがのボルグも神経がまいってしまい、少年時代から付きっきりで見てくれたコーチのレナート・ベルゲリンに八つ当たりする。

大試合を前に、打ちひしがれるボルグに、コーチは言う。

やり遂げよう

自分を哀れむな
まるで赤ん坊だな
わがままで自分勝手
ずっとうなだれてろ
君は負ける
そんな終わり方が望みか?
そして惨敗をケガのせいにする
短気な自分を・・・

すると、ボルグは答える。

「言われなくても分かってる。この日のために全てを捧げてきた」

コーチは改めて大事なことを伝える。

試合は無二
1ポイントに集中

まるで漫画『エースをねらえ!』の、「この一球は、唯一無二の一球である」を彷彿とするような教えである。

それはテニスに限らず、誰の人生にも同じことだ。

その一球は、生涯に一度しかない。

一つ一つの試合、一つ一つのサーブ、一つ一つのレシーブが、唯一無二の一球である。

その時、へらへら笑いながら打ち返すか。

それとも全力で打ち返すか。

たとえ負けるにしても、良い負け方と悪い負け方があり、人間の本当の器は「いかに負けて、いかに終るか」で決まると思う。

無敵のボルグも、いつかは負けるのだから。(ちなみに、ボルグは、翌年のウィンブルドン大会でマッケンローに敗北し、マッケンローが初優勝している 参考→Wiki

また、本作で印象的だったのは、態度の悪いマッケンローに、テニス仲間が「お前はいつかチャンピオンになる。だが偉大な選手にはなれない」と諭す場面だ。

周りにどう批判されても、まったく態度を改めなかったマッケンローも、ボルグとの死闘で、何かを感じ取ったのだろう。

『22分間の死闘』はものに出来ずに終ったが、マッケンローにしては、良い負け方をしたのだと思う。

だから、翌年、ボルグを倒して、覇者になることができたのだ。

どんな強者も、いつかは後進に王座を譲って、コートを去らなければならない。

だが、それは決して敗北ではなく、肝心なのは、いかに戦い、いかに終るかである。

本作は、何事も全力で燃焼することの大切さを教えてくれるのである。

ちなみに、コーチを演じたステラン・スカルスガルドは、スウェーデン版『ドラゴン・タトゥーの女』で、めっちゃ気色の悪い猟奇殺人犯を演じている。あれはキモかったが、本作ではボルグを支える名コーチを好演している。

誰かにこっそり教えたい 👂
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