松田優作の『蘇る金狼』
作品の概要
蘇る金狼(1979年) ・・ よみがえる きんろう
原作 : 大藪春彦
監督 : 村川透
主演 : 松田優作(朝倉哲也)、風吹ジュン(永井京子)、金子(小池朝雄)、小泉(成田三樹夫)、千葉真一(桜井光彦)
あらすじ
東和油脂に勤務する朝倉哲也は、昼間はぼんくら社員を装っているが、夜はボクシングで身体を鍛え、銃の扱いにも長けた一流の業師だった。上司である小泉の愛人、永井京子を籠絡すると、会社の秘密を聞き出し、乗っ取りを企む。
やがて朝倉は東和油脂の株式を手に入れ、社長令嬢の絵里子とも婚約するが、真相を知った京子の怒りを買い、思いがけない破局が訪れる……。
見どころ
本作は、「男が『男』のままでいられた時代」の徒花みたいな作品だ。
煙草、拳銃、暴力、セックス。
大藪春彦の描くハードボイルドが青年の心を鷲づかみにした時代の話でもある。
現代は草食化して、煙草というだけで嫌悪感を示す人も少なくないが。
そんな大藪春彦の世界観を全身全霊で表現したのが、角川映画の『蘇る金狼』だ。
のりにのっていた松田優作が、冷酷な殺し屋、朝倉哲也をクールに演じ、前野曜子の主題歌『蘇える金狼のテーマ』と相成って、大ヒットとなった。
同様の作品に『野獣死すべし』があるが、映画としては、本作の方がはるかに面白い。
近年では、朝倉に追い詰められて、切羽詰まった小泉(成田三樹夫)が口にする、「金子がね~」という台詞が人気を博し、金子・経由で動画を鑑賞する人もちらほら。
優しさと友情を好む、現代の若者には刺さらないと思うが、昭和という時代を理解する上では参考になる。
「金と女」がいい男の代名詞だった時代のメモリアルとして。
※ ちなみに昭和の「金」は『稼ぐ』ではなく、『分捕る』。「女」は『やりまくる』ではなく、『最高級の女をモノにする』である。
(”男が男のままでいられた時代”は、沢田研二のヒット曲『カサブランカ・ダンディ』のフレーズ)
- 松田優作の映画『野獣死すべし』~荻原朔太郎の『漂泊者の歌』とリップ・ヴァン・ウィンクルについて
- 空襲で黒い雨を降らせ、戦後はお前達の価値観を押しつけられた ~日米貿易摩擦の米国の贖罪 映画『ブラックレイン』
- 戦後日本の宿命と社会の不条理を描く 森村誠一『人間の証明』
戦争ジャーナリスト・伊達邦彦は人間性を喪失し、野獣のように銀行を襲撃する。刑事にロシアン・ルーレットを仕掛ける場面が有名なハードボイルド。
リドリー・スコット監督が日米文化の違いをベースにスタイリッシュに描く。松田氏の演技は「10年に一度の悪役」と絶賛された。スコット監督の映す大阪の町並みも美しい。
「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」西条八十の詩をテーマに母子の愛と戦後の混乱を描くサスペンスドラマの傑作。松田氏は刑事役を好演。
映画『蘇る金狼』の見どころ
松田優作が演じる「朝倉哲也」は、昼間はしがないサラリーマン。
夜は狼のようなハンターとなり、会社乗っ取りを目論む。
そんな朝倉にとって、女も野望の道具でしかない。
東和油脂の重役・小泉の愛人、永井京子をクスリ漬けにして籠絡し、社の機密を聞き出して、会社の中枢に食い込む。
(風吹ジュンとの絡みが収録されているハードな予告編は https://youtu.be/SbZeyQB5b4Yからどうぞ)
本作の見どころは、『昭和のハードボイルド』。
金も、女も、外車も、権力も、全て、手に入れる。
バブル世代のサラリーマンの憧憬をぎゅっと凝縮したような物語だ。
今時の草食系の若者が鑑賞しても、何が面白いのか、さっぱり理解できないだろう。
それは私たちバブル世代が、戦前の青春映画を観ても、何のリアリティも感じないのと同じだ。
「こんな清純な女子高生 & 爽やか笑顔の男子生徒がおるかい!」
令和の時代、『蘇る金狼』を鑑賞する若い世代も同様だろう。
会社を乗っ取る為に、美人をナンパして、エッチしまくりとか、無人島でヤクザとドンパチとか、今の若い人には下品な暴力にしか映らないだろうし、そもそもランボルギーニに乗って、何がそんなに嬉しいの? と不思議に感じるだろう。
時代が変われば、ヒーローも変わる。
どちらが正しいという話ではなく、時代とは、そういうものだ。
今、もてはやされているアイドルや映画スターも、数十年後には古くさく感じるように。
しかし、『蘇る金狼』を観て、日本にもこんなギラギラした時代があったのだと語り継いでもらえたら、それでいい。
どのみち、こんな勢いのある邦画は二度と作れないし、演じる役者もない。
日本の若者も、ランボルギーニどころか、TOYOTAも買えないのが現状だ。
ある意味、こんなギラギラした連中が政治経済を引っ張っていたからこそ、Made in Japan が世界を席巻することができたのだ。
野獣が『野獣』でいられた時代
今、もし松田優作が生きていて、このような映画を制作したとしたら、果たして世間は両手を拡げて迎え入れただろうか。
「いちびり」
「下品」
「暴力的」
SNSにも罵倒のコメントが寄せられる光景が目に浮かぶ。
今、伝説として振り返るから賞賛されるわけで、これがリアルタイムに放送されていたら、評価はまったく違うものになっていただろう。
今は今の良さがあるのかもしれないが、「映画ってのは、面白ければいいんだよ。ドカンと凄いのを作ろうや。ハリウッドも腰を抜かすような、スケールの大きい時代劇や、ゴジラもびっくりの奇想天外なやつ」みたいな作品は手がける人もないし、演じる人もない。(喩えるなら、「八甲田山」「魔界転生」みたいなの)
誰も彼もが小さくまとまって、冒険もしないし、我が侭も言わない。
波風立てないよう、スポンサーにも観客にもご機嫌伺いして、芸ではなく、媚を売っている。
野獣が、野獣らしく生きられたのは、1980年代まで。
野獣なき後、エンターテイメントの世界も急速に萎んでいった。
『野獣死すべし』の伊達邦彦が愛したニーチェの言葉を借りるなら、クリエイティブの世界でもっとも必要とされる表現の自由を、オレたちが殺してしまったのだ。
今の世の中、他を圧倒するような煌めきは、土中に棲息するモグラの敵でしかない。
野獣さえがんじがらめにして、窒息死させるような世の中においては、野獣であること自体が罪なのだ。
大きく時代が変わる前に、松田優作は亡くなった。
あるいは、映画の神様が、誇り高き野獣がズタズタになる前に、そっとねぐらに帰してくれたのかもしれない。
松田優作の才能を惜しみながらも、その早すぎる死がかえって幸いしたのではないかと感じる人間は、きっと私だけではないはずだ。
松田優作に学ぶ : ナンパ術 (図解入り)
どうやったら目当ての女性を陥落できるか、男性ならば、誰もが気になるところと思う。
私の知人いわく、女性を落とす必勝法は、「チームで動く」「間に挟む」「笑わせる」 の三点だそう。
たとえば、電車の中でターゲットの女の子を見つけたら、その女の子を間に挟むように、席を陣取る(ポジションは前後でもOK)
男 - 女 - 男
それから、女の子に聞こえるように、めっちゃ面白い話をする。(下ネタや悪口は厳禁)。
女の子が「ぷっ」と吹き出して、つられ笑いしたら、かなりの確率でゲットできるそう。
私も話を聞いた時、半信半疑だったが、優作のこの場面を見て納得した。
会社乗っ取りを企む朝倉哲也は、重役・小泉の愛人、永井京子に近づく為に、ゴルフ場で接近する。
まず、さりげに彼女の隣のブースを抑える。
彼女の視界に入るようにポーズを取り、わざと面白い仕草をする。
彼の存在が気になり、ちらちらと、こちらを見るようになれば、確率30%
一度目のアクション。わざとゴルフのクラブを吹っ飛ばし、お茶目にアピールして笑いを誘う。
決して二枚目を気取ってはならない。
彼女が「ぷっ」と吹き出したら、確率50%
二度目のアクションで、彼女が大笑いしたら、確率80%
紳士的に食事に誘い、品のあるところを見せる。「食事だけ、っていう約束よ」 これも定番の台詞だ。
酔った彼女が甘えるように寄りかかれば、後はお決まりのコースと。
「こんなん、優作やから出来ることや。普通の男はムリムリ」と思うかもしれないけど、『女性を笑わせる』って、最強ですよ。
変に気取った男性より、女性も安心するから。
また、あまりにグレードの高い相手だと、「こんないい男が私を誘うはずがない。どうせ身体が目当てだろう」と警戒するので、逆にガードが堅くなります。
本作でも、超二枚目の朝倉が、わざと三枚目で接近したから、狙い通りに陥落したわけで、最初からキザな台詞で口説いてたら、上手くいかなかったと思います。
多少ご都合主義な話運びはともかく、優作はじめ名脇役たちもこれ以上ないほど生き生きと輝いている。
特に小心で小賢しい上司を演じる成田三樹夫のうろたえ方は最高(金子がね~)。
千葉真一も脇役で登場するが、優作の存在感を貶めないよう、ちょっと脱力した感じで演技しているのが印象的。
初稿:2010年12月10日