カジノと18禁ルール 大人と子供を区分せよ
ラスベガスといえば、酒、麻薬、売春、マフィアのように、不健全なイメージがありますが、現代のラスベガスは犯罪とは無縁の世界です。少なくとも、観光地として賑わっている表の部分は。
その証拠に、メインストリートを歩いている観光客の大半は家族連れだし、商業施設の上層階に行けば、地位も名誉もあるお金持ちがいっぱい。
シャネル、ヴィトン、グッチ、ブルガリといった一流ブランドが軒を連ね、セリーヌ・ディオンやクリスティーナ・アギレラやシェールといった世界の大物が普通にコンサートにやって来る。
日常的にマフィアがうろつくような、たちの悪い場所なら、一流ブランドもアーティストもやっては来ません。だって、自身の名声にかかわることだから。
雰囲気的には「大人のディズニーランドといった感じ。カジノの傍らをベビーカーを押した家族が行き来し、劇場やショッピングモールの子ども向けアトラクションで幼児が歓声を上げている光景は、ファミリー向けのテーマパークと何ら変わりありません。
では、世界中から一流ブランドや富裕層や親子連れがやって来て、夜中まで楽しく遊べる秘訣は何なのか。
それは『大人と子どもの区別がはっきりしている』という点でしょう。
いわゆるゾーニングというものです。
ここでいう大人とは、アルコール、煙草、金銭、アダルト・コンテンツの世界。
子どもとは、子どもの人権が守られたセーフティーゾーンです。
アルコール・スタンドでの出来事
これは私自身の体験です。
あまりの暑さに喉を潤そうと、路上のダイキリ・バーに立ち寄り、いろいろ試飲していたところ、うちの息子が「ママ、何してるの?」とカウンターにやって来ました。
その瞬間、カウンターレディが「ここは子供が来る場所じゃない! すぐに立ち去りなさい!」と一喝。
「うちの子が様子を見に来ただけです」と説明しても、「我が子だろうが、なんだろうか、ダメなものはダメ! そこの看板に書いてあるでしょう。子供はロープの内側に入るなと。アルコール売り場に立ち寄ることは絶対に許されないの!」と厳しく叱責され、私も家人も認識の甘さに反省することしきりでした。
多分、アルコールの売り場に子どもが居るのが見つかったら、カウンターレディも親も即行で警察にしょっぴかれるのでしょうね。
そりゃもう、すごい剣幕でした。
それはホテルのカジノ場も同様。
一般向けのカジノ場は、ホテルの一階や地階などに、イオンのフードコートかゲームセンターみたいな雰囲気でオープンしてて、大人なら誰でも気軽に立ち寄ることができます。入場許可も、ドレスコードも必要なく、仕切りのロープもありません。庶民ギャンブラーがルーレットで当てたと狂喜する傍らを、ベビーカーを押した親子連れがのんびり歩き回り、時々、お父さんが興味深げに首を伸ばしてポーカーテーブルを覗き込む、本当にそんな感じです。私たち家族も「これがラスベガスのカジノか、すごいねぇ」と、色とりどりのマシンに目を見張りながらホール内を散策していたのですが、そのうち、歩き疲れたうちの息子が近くにあったスロットマシンの椅子に着席。パチンコみたいにギラギラ光るスクリーンに見入っていたところ、年配の女性警備員が飛んできて、「子どもはカジノの席に着いてはいけません!」と一喝。またも叱られた次第です。
女性警備員いわく、「遊ぶつもりはなくても、子どもがカジノの席に腰掛けること自体が違法なのです。脇で見物するのは構わないけど、絶対に子どもを座らせないで」。
一見、厳しく感じますが、そこまで徹底した区分(ゾーニング)があるから、家族連れでも安心して遊ぶことができるのです。
もし酒場もカジノも「なぁなぁ」で、高校生が大人の振りをして酒を飲み、大人と一緒にポーカーを見学し、上と下との区別もつかないカオスなら、世界中から家族連れが訪れることなどまず無いでしょう。社会的評価を気にする一流ブランドやアーティストも近づかないし、金持ちでも距離を置くと思います。
なんでも許可すれば皆が喜ぶ=客が増える、というのは大間違いで、世の良識ある大人は、ルールの無い遊び場には行きません。
むしろ、大人と子どもを区分する、厳しいゾーニングがあるからこそ、地域の信頼も高まり、名だたるアーティストがコンサートを開いたり、一流ブランドが支店をオープンして、上質な資本と客が流れ込むのだと思います。
もちろん、ラスベガスにも暗部はあって、映画『ショーガール』みたいに売春やドラッグや違法ギャンブルが当たり前に流通する裏社会もあるのかもしれませんが、普通に賭け事やショーを楽しむ部分には、そうした闇は一切感じさせず、たとえ建前にしても「社会的にお客様をお守りします」という姿勢は非常に重要。ゾーニングのない遊び場は、社会意識の乏しいチンピラを招き寄せるだけで、常識もお金もある、良質な観光客は寄り付きもしません。観光の要になるのは、豪華な施設や演出ではなく、世界共通の良識であり安全性だと思います。
レオ様に釣られて、つい遊んでしまった『TITANIC』のスロットマシーン。10セントだけ勝ちました^^;
自分の目で見ることの意義
ラスベガスは、付き合いで行ったのですが、やはり映画や印象で知るラスベガスと、自分で実際に訪れて体感するのでは大きな違いがあると感じました。
正直、あれほどたくさんのアジア系観光客がいるとは意外だったし(映画『ショーガール』や『ゴッドファーザー』で描かれているのは白人とイタ公の世界)、旅館のゲームコーナーみたいなカジノの雰囲気にも驚きでした。私はてっきり、カジノ場はどこか仕切られた場所にあり、ポーカーテーブルの傍らを幼児やベビーカーが行き来するような所とは夢にも思わなかったからです。
日本でもカジノ論争が続いていて、マフィアみたいなイメージを抱いている人も少なくないでしょう。
が、強硬に反対している人も実際にラスベガスに行けば、印象も大きく変わると思います。
ああ、ここって、大人のディズニーランドなんだな、と私も認識を改めましたから。
恐らく、推進派は、ラスベガスのような健全でエキサイティングな魅力を知っていて、ユニバーサル・スタジオを誘致するような感覚で、日本にも同じような娯楽エリアを建設したいのでしょう。しかし、一度も訪れたことのない人に、「家庭的なカジノ場」の可能性を説いても、決して理解されないと思います。また、ゾーニングの甘い日本で、あそこまで徹底した「大人と子どもの区分」ができるのかも疑問です。大人がスパスパ煙草を吸うような店舗にキッズコーナーがあるような社会ですから。そういう話になると、喫煙者の権利とか、日本の流儀に従え、みたいな論が出てきますが、世界的にはそういう流れになっているのですから、本気で世界中から良質な観光客を呼びたければ、世界に倣え、でいきませんと。
いずれにせよ、説得する方も、される方も、実際を知らずに議論はできないし、イメージだけで良いか悪いかを論じても話になりません。
そういう面でも、自分の目で見て体感するのは本当に大事だし、皆が皆、内向きで、旅行するお金もなく、海外経験もナシというのは、いろんな意味で国家的損失ではないでしょうか。
なぜエンターテイメント大国と成り得るのか
ラスベガスといえば、カジノ以外にも、一流のパフォーマンスが手頃な値段で鑑賞できるのが大きな魅力です。
数年に一度の来日公演を待たなくても、マライア・キャリー、ブリトニー・スピアーズ、セリーヌ・ディオンといった一流アーティストのショーが数千円から一万円ぐらいで普通に楽しめて、それも年中やってる。
シアターでも、シルク・ドゥ・ソレイユみたいな芸術性の高いパフォーマンスが連日催され、それも一つや二つではありません。大がかりなマジックショーから個人のコメディまで、何百と演目があって、どれも磨き抜かれたエンターテイメントばかりです。
こんな一流のパフォーマンスがすぐ隣の町や、飛行機で2~3時間ほどの所で手軽に鑑賞できるとあれば、必然的に観客の目も肥えますよね。
観客の目が肥えれば、パフォーマーもますます切磋琢磨するようになり、自ずとレベルも上がっていきます。
一流であることは、もちろんパフォーマー自身の才能にもよりますが、真に審美眼に優れた一流の観客なくして成り立たないのです。一流の価値を理解して、バックアップできるパトロンも不可欠ですが。
世界の極みを目指すなら、やはり幼少時から一流のものに触れるのが重要なポイントになるでしょう。
料理の世界でも、インスタントラーメンやファミレスの味しか知らない人に、三つ星級の料理は作れません。
学芸会レベルが一流とされる世界では、それ以上のものは出てこないと思います。
そういう面でも、「すぐ隣の町で」「庶民のお小遣いで」というのは非常に重要ですし、そういう機会を提供するのも社会のリーダーの役目と思います。
たかがダンス、たかがマジックショーかもしれませんが、芸術のない所に共感も向上心も生まれないので。
それでも、ラスベガスを本当に楽しみたければ、一晩に百万ぐらいサクっと使える財力がないと物足りないでしょうね。
庶民は、有名ブランド店も、一流ホテルも、指をくわえて通り過ぎるだけ。
ヒヤヒヤしながらルーレットに20ドルを賭けても、面白くも何ともないですから。
笑わないディーラー
せっかくカジノに来たのだから、一度は賭け事を体験しようとルーレットにチャレンジしたのですが、結果は……内緒です(^x^)
私が訪れたカジノ場では、ディーラーの大半はアジア系。
それも非常に訓練されていて、こちらが冗談を言っても笑わない、質問にも応じない。(遊び方は説明してくれるが、それ以外はガン無視)
問答無用でルーレットを回し、勝っても無言。負けても無言。淡々とゲームを進めます。
ペラペラとお喋りなディーラーも信用なりませんが、ここまでプロ意識を徹底されると、私みたいな人間は逆に落ち着かず、「場違いな人間が遊びにきて申し訳ありません」という気分になります。まあ、それがかえって幸いしたのかも。妙に愛想がよくて、居心地がいいと、いくらでもお金を使ってしまいますやん。
ちなみに、賭けのテーブルでは記念撮影も禁止。
お愛想もなし。(客同士のジョークはOK)。
ディーラーは粛々とゲームを進め、客は小躍りしながら現金受渡カウンターに向かうか、がっくり肩を落としてテーブルを離れるか、どちらか。
間違っても、『>007 カジノ・ロワイヤル』みたいなお洒落な世界を期待してはいけません。少なくとも、庶民向けのカジノでは。
警備員に聞いた話では、スロットも、ルーレットも、すべてコンピュータ制御され(ポーカーは別だと思うけど)、儲けが10万円を超えると店側から「待った」がかかるそうです。庶民向けのカジノでは、映画みたいに何百万も勝つなど、有り得ないと。監視カメラの数もすごいです。
それでも賭けをして遊びたいか? と問われたら、一生に一度、1万円ぐらいで十分です。
私はギャンブルにも宝くじにも向きません。
利率数パーセントの金融商品にちまちま購入するのが精一杯です。
悔しいから、MGMのライオンだけ撮ってきました。
そういえば、『ショーガール』にも「MGMを逆さに言えば?」「MGM」という、オーディションのシーンがありましたな。
自由の女神あり、ディズニー城みたいなメルヘンホテルあり、ジェットコースターあり、作ったもの勝ちのラスベガス。
こんなんウソやで・・というか、私が庶民なだけです、ハイ。