映画『ファム・ファタール』運命の女とショパールの蛇

この記事にはエロティックな描写が含まれます。年少者はご注意下さい。

目次 🏃

ファム・ファタールの魅力

世界的名画という訳ではないけれど、見終わった後、いつまでも不思議な余韻が続いて、忘れられなくなる映画がある。

2002年に公開されたブライアン・デ・パルマ監督のエロティック・サスペンス『ファム・ファタール』もその典型で、TV放送でちらと目にして以来、忘れたことがない。

ダイヤと黄金で作られた、蛇型のビスチェ。

映画祭の最中に女子トイレで繰り広げられる、エロティックなレズビアン・プレイ。

狂ったように女の後を追う、二人の犯罪者に、女に振り回されて、へろへろになるアントニオ・バンデラス。

バックには、ラヴェルの名曲『ボレロ』をアレンジした、パッショネイトなテーマ曲が流れ(後から知ったが、坂本龍一の作品)、最後まで目が離せない。

そうかと思えば、場面がいきなり暗転して、「なんじゃこれ?」な結末。

もしかして、振り回されたのは、アントニオ・バンデラスではなく、観客の方ではないかと首を捻りたくなるようなエンディングだが、そんな違和感もまるで気にならないほど、レベッカ・ローミンの完璧な美貌と肢体に圧倒される。(X-MENのミスティ)

プロポーション自慢の美女は星の数ほどいるが、レベッカ・ローミンほど、非の打ち所の無いプロポーションもまたとないのではないか。

それも単なるガリガリではなく、出る所は出て、恐ろしいほどセクシーで。

映画でなくても、こんな人が目の前に現れたら、多くの男性は欲情する以前に卒倒するのではないか。

よくこんなエロティックな映画をゴールデンタイムにTV放送したなと思うが、氷プレイでお馴染みの『ナインハーフ』も『エマニュエル夫人』も、堂々とゴールデンタイムに放送してたからね。この程度なら害悪はない、ということか。

ともかく、有り得ないほど美しく、有り得ないほどセンセーション。

それでいて、どこか芸術的で、アントニオ・バンデラスの間抜け顔ばかりが心に残る、実に味わい深い作品である。

ワーナーブラザースの公式トレイラー

あらすじ

物語は、半裸でベッドに寝そべり、古い恋愛ドラマを見ている女泥棒ロール・アッシュ(レベッカ・ローミン)の妖艶な後ろ姿から始まる。

それだけでも美しいプロポーションに見惚れるが、圧巻なのは、スイスの高級宝飾店『ショパール』が制作した蛇のビスチェ。黄金のフレームにちりばめられた500個のダイヤは385カラットにも及び、価格は1000万ドルである。

映画 ファム・ファタール ショッパーズ 蛇のビスチェ

身にまとうのは、世界的な映画監督レジス・ヴァルニエのパートナーで、トップモデルのヴェロニカだ。

一行がカンヌ映画祭のレッドカーペットに現れると、ロールはカメラマンに扮してヴェロニカに近づき、色目で誘う。

互いにシンパシーを感じた二人は、女子トイレにこもり、情事に耽る。

一方、二人のアフリカ系マフィア、ブラック・タイとラシーンは、計画通り会場に忍び込み、ロールが巧みに脱がせた蛇のビスチェを奪い取ろうとするが、あまりに時間がかかり過ぎたことからボディガードに怪しまれ、トイレの中で銃撃戦、ロールはブラック・タイを見捨て、ダイヤモンドを奪って逃走する。

パリに潜伏したローラは、「リリー」という名の女性と間違われ、リリーの住まいに連れて行かれる。

リリーは最近、夫と子供を亡くしたばかりで、悲しみに暮れていた。

彼女が拳銃自殺すると、ロールはリリーになりすまし、リリーのパスポートを使ってアメリカ行きの飛行機に乗る。

ファーストクラスの座席で隣り合わせたのは、ブルース・ワッツという裕福な実業家だった。やがて彼は出世して、米国大使となり、パリに赴任することになる。

七年後、パパラッチのニコラス・バルドの元に、写真ジャーナリストの男から一本の電話が入る。米国大使の夫人の写真を盗撮しろ、という話だ。夫人のリリーは、決して人前に顔を出さず、写真も撮らせないことで有名だった。撮影に成功すれば、多額の報酬を支払うという。

食い詰めたニコラスは、病人を装って、大使夫妻の公用車に近づき、まんまと大使夫人の盗撮に成功する。

だが、その夫人こそ、逃走中の女泥棒ロールであった。

写真誌に掲載されてしまったロールは、身元がばれることを恐れ、ニコラスに近づいて、身を守ろうとする。

↓ 女性から見ても惚れ惚れするほどの完璧なプロポーション。
映画 ファム・ファタール ニコラスを誘惑するロール

↓ 精気を抜かれるとはこのこと。こんなアントニオ・バンデラスは見たくなかった・・ (^_^)
映画 ファム・ファタール アントニオ・バンデラス

だが、全てはロールの芝居であった。

まんまと色仕掛けにはまったニコラスは、彼女の芝居の片棒を担ぎ、思いも寄らぬ事件に巻き込まれていく……。

【映画コラム】 運命の女と蛇

蛇=誘惑するもの

本作のイメージは一貫して『蛇』だ。

ショパールの蛇のビスチェはもちろんのこと、ロール(レベッカ・ローミン)の肢体も蛇的だし、彼女と情事に耽るトップモデルのヴェロニカも、蛇のような妖しさをたたえた悪女である。

蛇と言えば、旧約聖書・創世記でお馴染みの『誘惑するもの』。何も知らない女エヴァに「食べてごらん。神のように賢くなれるよ」とそそのかし、エヴァはアダムに「あなたもどうぞ」と差し出して、禁断の知恵の実を口にしてしまう。二人は神の怒りをかって、楽園から追放され、以来、男は生きていく為に死ぬまで働き、女は産みの苦しみにのたうつことになる。

いわば、蛇は直接手を下すことなく、人間を悪に染める「誘惑者」であり、その点では、悪魔と共通している。

悪魔もまた人間を堕落させることを生業としており、野獣や悪霊のように、決して直接手を下すことはない。

悪魔はただ「仕掛ける」だけであり、誘惑にはまる人間の方が愚かなのだ。

本作の女の象徴が『蛇』なのも頷ける話で、ロールもヴェロニカも決して意図して男性を振り回しているわけではない。

ただ欲望のまま、女の本能のままに行動していたら、男の方が血道をあげて、道を踏み外すだけのこと。

ニコラスも、ブラック・タイも、最初の計画どおり、淡々と事を進めればよかったのに、ロールの色香に迷い、破滅に向かっていく(ブラック・タイは、ロールとヴェロニカの情事に見惚れて、油断した)

彼女たちに言わせたら、「その気になる男が悪いのよ」

それはまさに蛇の言い分。

蛇は、エヴァの口に知恵の実を押し込んだわけではなく、エヴァの方から好奇心で口にしたのだから。

ちなみに、男のアダムは、エヴァの誘いを断り切れず、罪をおかしている。

その時のアダムは、アントニオ・バンデラスのような間抜け面だったに違いない。

リリスと蛇

こちらはラファエル前派の代表的な画家、ジョン・コリアの描く『リリス(リリト)』。

「アダムの最初の妻」という解釈もあれば、魔王サタンの妻になったという説もあり、いずれにしても聖女とは真逆だ。

コリアの描くリリスがまとうのは、ヴェロニカと同じ、

Lilith - John Collier (1892)
ジョン・コリア『リリス』

映画『ショーガール』との共通点

本作では、ぐずぐずと優柔不断なニコラス(=バンデラス)をけしかけるように、ロールが他の男をバーの個室に連れ込み、ニコラスの前でエロティックなプライベートダンスを見せつける場面がある。

シチュエーションも、振付も、ポール・バーホーヴェンの怪作(?)『ショーガール』にそっくりで、一瞬、ショーガールがファム・ファタールを真似たのかと思ったが、制作年は、ショーガールが1995年で、7年ほど早いため、どうやらファム・ファタールがショーガールにインスピレーションを得たような印象である。もちろん、正式なコメントはなく、私の推測でしかないが。

木曜洋画劇場のCMでも一瞬、その場面が映るが、ロール=レベッカ・ローミンの美しいこと。

ショーガールのノエミ嬢は、ボインボインで肉弾のような迫力だったが、レベッカ・ローミンはエロの中にも知性を感じさせ、顎が外れるほどの妖艶さ。

それでいて、ネチネチしたいやらしさを感じないのは、相手役のアントニオ・バンデラスが正統派のハンサムだからだろう。ラテン系でありながら、ねっとりしたところがなく、ソースの顔をしたポン酢というイメージで、とにかく憎めないし、むしろ可愛い。これがミッキー・ロークになると、顔形はダンディなのに、全身から滲み出すような色気が妙に脂っこくて、出てくるだけで、「まあ、いやらしい」と眉をひそめたくなるようなタイプとの違いだろう。

ショーガールのノエミ嬢も、ボカシがボカシに見えないほどの、大変な熱演だったが、レベッカ・ローミンもよく演じたと思う。

それだけに、この作品の後、X-MENでミスティークを演じたのが非常に残念だ。

あの完璧なプロポーションを、青いコロモで覆ってしまうのはあまりに勿体ないし、アクション映画の悪役というのも器が違うように感じるからだ。

できれば、シャロン・ストーンのように、第一級のサスペンスや文芸もの、アダルトなドラマで活躍して欲しかった。

結局、ファム・ファタールが最高にして最後の一作という感じで、本当にもったいないと思う。

坂本龍一のテーマ曲

ファム・ファタールを語る上で欠かせないのが、坂本龍一のテーマ曲『Bolerish』だ。

メロディラインや構成はラヴェルの『ボレロ』とほぼ同じ。

しかしながら、まったく嫌味がなく、ボレロとは違った魅力を感じるのは、さすが坂本教授といったところ。

私もまさか坂本龍一とは思わず、エンドクレジットで知って、本当にびっくりした。

これだけファンに親しまれているのに、代表曲の一つに数えられないのは、やはり「ボレロのぱくり」と思われるのが嫌だからだろうか。

残念ながら、このサウンドトラックは現在では流通しておらず、Spotifyなどでも配信されてない。

YouTubeで有志がアップしたものが視聴できるので、興味のある方はぜひ。

アルバム全曲はこちら(YouTube)→

坂本龍一のピアノバージョンはSpotifyでも配信されている。

6分のロングバージョン

4分のショートバージョン

作品情報

ファム・ファタール(Femme fatale) 2002年

監督 : ブライアン・デ・パルマ
主演 : レベッカ・ローミン(ロール / リリー)、アントニオ・バンデラス(ニコラス)、リー・ラスムッセン(ヴェロニカ)、ブラック・タイイ(エリック・エブアニー)

この作品も、現在は入手が難しく、動画配信もされてないので、ゲオ宅配レンタルでの視聴をおすすめします。
https://rental.geo-online.co.jp/detail-21158.html

楽天市場のブックオフなどでも中古DVDが入手可能です。
【中古】 ファム・ファタール/ブライアン・デ・パルマ(脚本、監督),坂本龍一(音楽),レベッカ・ローミン=ステイモス,アントニオ・バンデラス,ピーター・コヨーテ,グレッグ・ヘンリー 【中古】afb

誰かにこっそり教えたい 👂
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