映画『ナインハーフ』
作品の概要
ナインハーフ(1986年) ー NINE 1/2 WEEKS (恋の結末は9週間半ほどで分かる、という喩えから)
監督 : エイドリアン・ライン
主演 : ミッキー・ローク(ジョン)、キム・ベイジンガー(エリザベス)
あらすじ
アートギャラリーに勤務するエリザベスは、ウォール街で金融ブローカーをしているジョンに出会う。
ジョンのミステリアスな魅力に惹かれたリズ(エリザベス)は、逢瀬を重ねるようになり、氷の愛撫やストリップなど、エロティックなプレイに耽溺する。
やがて、身も心もジョンに支配されるようになったリズは、自分を取り戻すために、ジョンから離れることを決心する……、
見どころ
ストーリーはともかく、目隠しや氷の愛撫、冷蔵庫の前でのヌルヌル・ベトベト、食品プレイ(?)など、SMチックな性戯が話題になった、80年代の代表作。
ミッキー・ロークも、この頃が旬の盛りであり、週刊誌のアンケート調査で「抱かれたい男ナンバーワン」に輝いたこともある。
(同時期に製作されたのが、マイケル・チミノ監督の『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』。この映画では、チャイニーズマフィアを追う熱血刑事を好演。 参考:中国の台頭と移民社会の未来を描く 映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』)
キム・ベイジンガーも見惚れるほど美しく、よくこんなオファーを引き受けたものだと感心するほど(後に出演したことを後悔したそうだが)
性的にはかなり際どい描写もあるが、不思議と「いやらしさ」を感じないのは、ミッキー・ロークとキム・ベイジンガーが羨ましいほどの美男美女カップルで、週刊PLAYBOYというよりは、VOGUEのセクシー特集みたいな演出だからだろう。
フラッシュを使った、光と闇の陰影も美しく、女性も安心して視聴できる、官能映画である。
本作では、当時、人気絶頂だったジョン・テイラー(デュラン・デュラン)をはじめ、ブライアン・フェリー、ジョー・コッカー80年代を代表するポップアーティストが曲を提供している点だ。
残念ながら、著作権の都合と思うが、これらの曲をひとまとめにしたサウンドトラック盤は存在せず、未だに、有志が作中に使われた楽曲をコレクションしているほど。
Spotifyのプレイリスト(有志)
ファンメイドのトリビュートも参考になるかも。
一部、性的な描写が含まれますので、未成年の方はご注意下さい。
恋と性の9週間半
『ナインハーフ』は、恋人たちの「9と1/2週間」を描いた恋愛映画の異色作だ。
1986年の公開当時には一大センセーションとなり、週刊誌でもTVでも、特集が組まれるほどの騒ぎだった。
とりわけミッキー・ロークのセクシーな魅力に、世界中の女性ファンが心を鷲づかみにされ、後にお醤油顔のブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオが台頭する以前は、ぶっちぎりで人気ナンバーワンを誇っていた。
物語は、いたってシンプル。
画廊に勤める生真面目な主人公のリズ(エリザベス)と、金融ブローカーを名乗る謎の男ジョンが一目で恋に落ち、ジョンの官能的な手管によって、リズも性愛に目覚めていく。
しかし、ジョンは女性に優しい一方、詮索を嫌い、リズのことも所有物のように扱うようになる。
その愛の形に疑問を抱いたリズが、最後にはジョンの元を去っていく――という切ないストーリーだ。
私が初めてこの映画を見たのは10代後半だが、さほど「いやらしさ」は感じず、むしろキム・ベイジンガーの官能的な美しさが胸に深く刻まれたものだ。
(いやらしいというなら、邦画の伊丹十三のエロの方がもっといやらしい)
同時に、リズに犬の真似をさせたり、暴力を振るったり、挙げ句の果てには、レズビアンとの性行為まで強要しながら、「これが僕の愛なんだ」とのたまう男の傲慢さに戦慄したものである。
心と体は成熟しながら、愛し方を知らない男女の哀れ、とでも言うのだろうか。
翻弄されるリズも、訳の分からない理屈を持ち出して、リズを支配下に置こうとするジョンも、結局は正面から向き合うのが怖いだけではないかと思う。
交際期間が、『9週間と半分』とういのも、随分気が短いように感じるが、男の本性を見抜くのに1年もの歳月は必要ない。
何だかんだで、女性は安定を求める生き物と思えば、やはりここらが潮時ではないだろうか。
動画で紹介 ~官能のラブシーン
サイトに埋め込みできないので、YouTubeのリンクを辿って下さい。
ゴールデンタイムに、TV放送してたぐらいですから、それほど過激ではないです。私も未成年で見てた ^_^;
目隠し & 氷プレイの動画はこちら。
これがカップルの間で流行ったのは有名な話。
冷蔵庫の前の、ぬるぬる食品プレイはこちら。
はちみつや、ぷるぷるゼリーを使った、おふざけみたいな場面だが、BGMに使われている曲も可愛いし、どこかほのぼのする名場面。
ユーリーズ・ミックスの『This City Never Sleeps』にのって、リズがジョンとのプレイを思い出しながら、自慰に耽る動画はこちら。
音楽も素晴らしいが、どこかエロティックな抽象画、エクスタシーを想起させるフラッシュライトの使い方など、エイドリアン・ライン監督の演出も印象的。
ジョー・コッカーのヒット曲『You Can Leave Your Hat On』に乗せて、リズが一枚一枚、服を脱ぐ。
キム・ベイジンガーのスタイルの良さに嘆息する。
いやらしいというよりは、恋人同士が、子供みたいに戯れている感じ。
https://youtu.be/e9IreZ2HXGg
【恋愛コラム】 潔さこそ、大人の女の証し
『ナインハーフ』といえば、大人の恋を描いたレジェンドのような作品だが、そもそも『大人の恋』とは、どういうものを指すのだろうか。
巷にあふれる恋愛論は、10代、20代の女性でも、すでに弁えているような内容が大半だ。
「自分の時間を大事にする」とか、「精神的に自立する」とか、「思いやりが大切」とか。
しかし、こんな正論を真に受けて、いい女ぶっていては、男性も疲れるし、女性の本音も伝わらない。
適齢期の男女の恋が難しいのは当たり前で、真面目に考えれば考えるほど、結婚がプレッシャーになるのが当たり前だろう。
ところが、多くの女性は、「結婚願望丸出し」と思われたくない。
映画みたいにスマートに、ゴールを決めたいと願っている。
「結婚に何の魅力も感じない」
「仕事や趣味が充実してるので、結婚など必要ない」
「30過ぎても輝いてます。年齢は関係ない」
等々。
できる女を必死にアピールし、男性を必要としないことが「大人の女」と勘違いしている。
だが、男性の目から見れば、そんな女性は願い下げ。
「そんなに自分が好きなら、勝手に一人で生きれば ?」と思うだろう。
それよりは、正直な方がうんと好かれる。
「あなたがいないと、死んじゃう!」ぐらいの気持ちでぶつかった方が、お堅い男性もぐらっと心が動くものだ。
全力で、自分を求めない女性を、誰が人生の伴侶に選ぶだろう?
まして、好きな気持より、自分の見栄や体裁を機にする女性と一緒に過ごして、楽しいだろうか?
そういう意味で、格好つけるのは間違いだし、本当に好きなら、そして、結婚したいなら、正直に気持ちをぶつけた方がいい。
ただ、それにはコツがあって、柳の下の幽霊みたいに、「私とはいつ結婚してくれるの」「私のことは遊びなの」、ねちねち絡まないこと。
一度、ぶつかったら、その後はさっと引く。
そして、覚悟を決める。
その潔さこそ、大人の女の証しである。
まともに将来を考えもしない相手と、いつまでもダラダラ付き合う余裕など、女性の人生にはない。
まして、自分を偽って、どうして幸せに生きていけるだろうか。
映画『ナインハーフ』も、火花のように始まって、快楽に夢中になるが、やがて女性の方が不安に押し潰されて、恋は終わりを迎える。
何を考えているか分からない、ただ身体を求めるだけの男性に、いつまでも恋慕の情を抱き続けるほど、女性はドライにもなれないからだ。
本作では、リズは身も心も傷つくが、ここが潮時と感じれば、さっと縁を切る潔さが素晴らしい。
傍から見れば、「恋に失敗した女」かもしれないが、別れた女には未来があるからだ。
大人になればなるほど、恋にも人生にも四苦八苦するのが当たり前。
だからこそ、それを乗り越えた女は、誰よりも強く美しいのだ。
初稿 2010年4月28日