『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』は、80年代伝説のロックバンド、『The Police』のベーシストであり、ソングメーカーでもあったSting(スティング)が、当時、人気絶頂だったThe Policeから距離を置き、ソロに転向してから二枚目のアルバム【Nothing Like The Sun】に収録されているヒット曲。
Stingのヒット曲の中でも根強い人気を誇り、Be yourself no matter what they say(彼等が何と言おうと、自分らしくあることだ)のくだりは、孤独な異邦人の心情をストレートに歌い上げ、世界中のファンに愛されています。
自我こそ人生の礎
スティングは、とにかく、Lyric(歌詞)がいい。
「エゴのかたまり」を自称するだけあって、その歌詞にも強烈な自我が秘められている。
若かりし頃、私がスティングに惹かれた理由もそこにある。
『人間は、強い自我がなければ、生きてゆかれない』
それは永久不変の真理だと思うからだ。
こうした考えは、「右にならえ」の日本ではなかなか受け入れられないが、それ無くして、本当に自分らしい人生はあり得ない。
だから堂々と「エゴイスト」を自称し、なおかつ、それを恥じないスティングの強さが私は好きだった。
彼の詞に学ぶことも多かった。
そんなスティングの曲の中で一押しの作品がこちら。
ニューヨークに暮らすイギリス人の想いを描いた、『Englishman in New York』。
スティングいわく、「イギリスもアメリカも英語圏で、一見、同じように見えるが、やはり何かが違うものだ。アメリカに暮らしていても、自分がイギリス人=異邦人であることを思い知らされることが多い」と。
そんな違和感から生まれたこの曲は、『自分自身であること』を高らかに歌った、オレ様讃歌でもある。
しかし、ここで歌われる「自我」は、決して、自惚れや自己肥大の類いではなく、誇りと自信に裏打ちされた、豊かな自尊心である。
そうした自尊心なしに、人は真に自分の人生を生きることはできないと、スティングは教えてくれるのである。
ブランフォード・マルサリスのサックスが非常にいい味を出している。
イントロを聞いただけで、一気に歌の世界に引き込まれる。
そして、歌詞が実にいい。
特に『Be yourself no matter what they say』の一言が。。
Englishman In New York
I don’t drink coffee I take tea my dear
I like my toast done on one side
And you can hear it in my accent when I talk
I’m an Englishman in New YorkSee me walking down Fifth Avenue
A walking cane here at my side
I take it everywhere I walk
I’m an Englishman in New YorkI’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New York
I’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New YorkIf, “Manners maketh man” as someone said
Then he’s the hero of the day
It takes a man to suffer ignorance and smile
Be yourself no matter what they sayI’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New York
I’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New YorkModesty, propriety can lead to notoriety
You could end up as the only one
Gentleness, sobriety are rare in this society
At night a candle’s brighter than the sunTakes more than combat gear to make a man
Takes more than a license for a gun
Confront your enemies, avoid them when you can
A gentleman will walk but never runIf, “Manners maketh man” as someone said
Then he’s the hero of the day
It takes a man to suffer ignorance and smile
Be yourself no matter what they sayI’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New York
I’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New Yorkコーヒーは飲まない 紅茶がいいんだ
トーストはよく焼いた方が好きだ
喋る時のアクセントでわかるだろう
僕はニューヨークの英国人なんだ五番街をよく散歩しているよ
いつもステッキを持っているんだ
肌身離さず持ち歩くんだ
僕はニューヨークの英国人なんだ僕は異邦人 合法的な外国人
僕はニューヨークの英国人なんだ
僕は異邦人 合法的な外国人
僕はニューヨークの英国人なんだことわざにあるように 礼節人をつくるなら
彼こそ今の時代の英雄といえるだろう
礼儀知らずを容赦し 微笑みすら浮かべなくちゃならない
誰が何を言おうと 自分らしくあることだ僕は異邦人 合法的な外国人
僕はニューヨークの英国人なんだ
僕は異邦人 合法的な外国人
僕はニューヨークの英国人なんだ謙虚さを忘れずに礼儀作法を守っていれば有名になれる
気が付けば随一の存在になっている
丁重さや沈着さなど どこ吹く風邪というのが今の社交界
キャンドルの光が太陽よりもまぶしく輝く夜のこと戦いの武器を揃えたところで 一人前の人間になれはしない
銃器のライセンスを持っていたところで どうしようもない
敵と真っ向から向かい合い 無用な戦いはしないものだ
紳士たるものは歩きはしても 決して走ったりしないんだことわざにあるように 礼節人をつくるなら
彼こそ今の時代の英雄といえるだろう
礼儀知らずを容赦し 微笑みすら浮かべなくちゃならない
誰が何を言おうと 自分らしくあることだ僕は異邦人 合法的な外国人
僕はニューヨークの英国人なんだ訳:中川五郎 氏 CD『ナッシング・ライク・ザ・サン』より
Be yourself no matter what they say
私も海外に移り住んで何年も経つが、今も、異国の町を歩いていると、この曲を書いたスティングの心情がふとこみあげてくることがある。
私は 生まれも、見た目も、Asian in Eastern Europa で、「同じ英語を話すけれど、アメリカ人とはどこか違うイギリス人」のスティングとは置かれた状況も、周囲の受け止め方も、まったく異なるけども、『Be yourself no matter what they say』でありたいと願う気持ちはスティングと同じだ。
いや、スティングの場合、なまじ英語が通じるからこそ、自分が異邦人であることを、いっそう思い知らされるのではないだろうか。
なんにせよ、『Be Yourself(あなた自身であれ)』という言葉は、現代人に対する永遠の命題だ。
それこそが足を着けるべき礎と思う。
揺るぎない人生は、揺るぎない自我の上に築かれるものだ。
作曲の動機 : ライナーノーツより
2018/05/10
赤岩和美氏が手掛けるライナーノーツ(日本語訳:中川五郎氏)には、スティングがこのアルバムについて語る原文と日本語訳が掲載されている。
I wrote “Englishman in New York” for a friend of min who moved from London to New York in his early seventies to a small rented apartment in the Bowery at a time in his life when most people have settled down forever. He once told me over dinner that he looked forward to receiving his naturalization papers so that he could commit a crime and not be deported. “What a crime and not to be deported. “What kind of crime ?” I asked anxiously. “Oh, something glamorous, nonviolent, with a dash of style” he replied. “Crime is so rearely glamorous these days.”
”イングリッシュマン・イン・ニューヨーク”は、ほとんどの人が、人生最後の安住の地に落ち着いている70代前半にして、ロンドンからニューヨークに移り、 ボウリィの小さなアパートを借りた友人のために、ニューヨークで書いた。彼はいつか、夕食の席で、犯罪をおかしても、国外退去させられることのないよう、早く帰化したいのだと、僕に言ったことがある。「犯罪って、どんな?」 僕は即座に聞き返した。「何かこう、ゾクゾクするような、暴力的でなくて、ちょっと粋なやつ」と彼は答えた。「近頃、ゾクゾクするような魅力的な犯罪なんて、なかなかないよ」
a dash of 少量の、ちょっとした、という意味。
a dash of style で、”ちょっと粋なやつ”になるのか。
この曲はすべての異邦人に捧げる応援歌であり、ララバイでもある。
二度と帰らぬ日々と、故郷に対する。
(心の異邦人も含めて)
スティングのおすすめCD
ナッシング・ライク・ザ・サン
「スティングのベスト盤はどれですか?」と聞かれたら、迷わずこれを挙げたい、渾身の一枚。
母親が亡くなった時、悲しみのどん底で、改めて『女性』というものについて考えたというスティング。
そんな彼が「世のすべての女性に捧げる」として製作したのが、この「ナッシング・ライク・ザ・サン」。
タイトルはシェイクスピアの戯曲にインスパイアされたもので、「太陽も及びもつかないほど(美しい)」という意味が込められている。
ジャズ風あり、ロック調ありで、スティングの豊かな才能がこの一枚に凝縮されているといっても過言ではない。
この後も、いいアルバムを出してはいるけど、やはりこの一枚には遠く及ばず。
スティング・ファンのみならず、すべての音楽ファンに聞いて欲しい、完成度の高い傑作です。
Spotifyのプレイリストはこちら。
ソウル・ケージ
亡き父への思いをカントリー調にアレンジした『オール・ディス・タイム』、異国情緒あふれる『マッド・アバウト・ユー』をはじめ、前作の『ナッシング・ライク・ザ・サン』とは趣の異なるアルバム。どこか幻想的で、優しい気持ちになる傑作です。
レビュー記事 → 父の死を見つめて スティングの『ソウル・ケージ』&『ワイルド・ワイルド・シー』
ベスト・オブ・スティング&ポリス
ポリスからソロに至る、スティングのこの時点での全活動をまとめた総括的ベスト盤の映像版で、代表的17曲のビデオ・クリップ集。
スティングはポリス時代から映像にこだわっていた人で、ゴドレイ&クレームなどトップ・クラスのディレクターを起用してきたため、どのクリップも完成度が高い。
ポリス初期の「孤独のメッセージ」「ロクサーヌ」などは3人の躍動感あふれる姿が鮮烈だし、ソロ時代では冬のニューヨークをモノクロ映像で捉えた「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」などが秀逸だが、ベストはやはり「セット・ゼム・フリー」だろう。前述のゴドレイ&クレームによる作品で、コーラスを含めた7人のメンバーをペーパー・クラフトのように見せて演奏シーンに仕立てる、という斬新なアイデアと編集手腕は、強烈なインパクトがある。スティングの映像センスがうかがい知れる作品集だ。
ザ・ポリス ザ・ポリス (輸入盤) PMD-16 [DVD]
スティングがどれくらいセクシーでいい男か――ということは、このビデオクリップを見れば一目瞭然かと。
確かにベストな選曲には違いないが、「シンクロニシティ Part2」が含まれていないのは頷けない。
あのクリップのパンク野郎ぶりは、若き日のスティングの真骨頂でしょうに。
(あ、もしかして、当のスティングが嫌がったのかなー。現在のイメージが崩れるとか、なんとか)
スティング&ポリスに興味のない人でも十分に楽しめる、珠玉のベスト盤