オルフ作曲『カルミナ・ブラーナ』 Fortuna Imperatrix Mundi おお、運命の女神よ 

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『カルミナ・ブラーナ』について

『カルミナ・ブラーナ (CARMINA BURANA)』は、バイエルンにあるベネディクト会のボイレン修道院(Benediktbeuern)で発見された詩歌集を元に、ドイツの作曲家カール・オルフ(1895 -1982)が舞台形式の世俗カンタータとして作曲したものである。

特に、冒頭とクライマックスで高らかに歌われる「運命、世界の王妃よ - Fortuna Imperatrix Mundi -」は、ドラマティックな曲調で人気があり、映画やTV番組のBGMとして使われることが多いので、聞き覚えのある人も多いのではないだろうか。

こちらは、名盤と呼ばれるオイゲン・ヨッフム指揮 / ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団の演奏。昭和の時代は、これが定番だった。

【歌詞】 運命、世界の王妃よ -Fortuna Imperatrix Mundi-

下記の日本語歌詞は、私が図書館で借りたCDのライナーノーツに収録されていた、呉 茂一氏の訳。
私が読んだ中では、一番美しい邦訳だったので、メモしている。(誰の演奏だったか、記録がない。申し訳ない)

-Fortuna Imperatrix Mundi-
全世界の支配者なる運命の女神

おお 運命の女神よ

まるで月とそっくりに
いつも姿態が変わりやすく
しょっちゅう大きくなってみたり
あるいは小さくなったりする

まったく呪わしいこの人生は
意地悪な目つきをすると思えば
今度はまた愛想よくして見せる

ふざけた気持ちで
時には窮乏を 時には権力を
氷のようにかき消してみせる

恐ろしく非情に
しかも何の実もない (空しい)運よ
お前はぐるぐる回る車輪みたいに怪しからん 悪性のものだ

その安心とて あてにできずすぐに潰え去ってしまう。

今はすっかり影に隠れ暗い姿で
私のところへも掛かってくるのだ

それでもうお前の非道な戯れのため
私は現在 背中を蔽う衣さえ失くなってしまった。

心身の安全さと徳性との運も今は
私を見捨て去った

しょっちゅうそれは情欲と不足との
隷従に陥ってしまう

さらばこの時に当たり
一刻の猶予も無く
脈打つ心にお触りなさい

時運によって強い者までとり挫いだ

それを私と一緒に
皆さんも嘆いてください!

呉 茂一 訳

【歌詞】 Fortune Plango Vulnera

『Fortuna Imperatrix Mundi』に続く『Fortune Plango Vulnera』。

Fortune Plango Vulnera

運命の女神の(与えた)傷手を
涙のこぼれる眼もて私は嘆く
またもや私に背いて冷たい仕打ちに出ることを
まったく本で読んだのは本当だった

運命の女神の額には髪があるけれど
大抵はそれにつづく機会というのは禿だということ

運命の女神の玉座に 私は得意になって座っていた
栄華のいろとりどりな 花の冠を頭につけて

すなわち以前 幸せよく栄えていただけ
今はまったく落ちぶれ果てて
栄光も奪われ去った

運命の女神の車の輪はめぐって行く

卑しめられて私のほうが降って行けば
他の人が高いところへ引き上げられる。

あまりにも有頂天になって
頂上の座に王として座する者こそ
墜落に心するがいい

なぜとなら
車輪の下にはヘクバの名が読めるのだ
(滅ぼされたトロイア女王)

呉 茂一 訳

オイゲン・ヨッフムの名盤

オイゲン・ヨッフムの『カルミナ・ブラーナ』はSpoitifyで全曲視聴できるので、興味のある方はどうぞ。

【amazonレビューより】
比較のつもりで久し振りに聴いてみた、以前から所有しているこのヨッフム指揮ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団盤の方が、我が小澤盤より、どう聴いても、明らかに出来が良いのだ。そこで、急遽、予定変更、このヨッフム盤の方のレビューを書く破目になってしまったというわけなのである。
ヨッフム盤と小澤盤は、出だしの合唱の処理からして、全く異なっている。小澤盤が音をレガート気味に延ばしてくるのに対し、ヨッフム盤は、音を一音一音、明確に区切って発音させているのだ。この辺までは、合唱指揮者の範囲なのかもしれず、また、どちらが良いという問題でもないのだが、ヨッフム盤は、原始的で野性味に溢れており、小澤盤より全体で4分7秒も速く、荒々しく駆け抜けるようなドライブ感は、この曲の持つ魅力を余すところなく表現しており、やはり、この曲を代表する決定的名盤の評価にたがわぬ快演と認めざるを得ないのだ。
ちなみに、ヨッフムは、この1967年10月の演奏当時、まだ、64歳。私にとって、ヨッフムは、朴訥とした風貌同様、晩年のブルックナーの交響曲での、質朴とした演奏をする指揮者というイメージが強かったのだが、この「カルミナ・ブラーナ」でのエネルギーに満ち溢れた熱い演奏を耳にすると、「ヨッフムは、こんな演奏もするのか!」と、新鮮な驚きを禁じ得ない。 

小澤征爾の名盤

『カルミナ・ブラーナ』は、小澤征爾・指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年6月収録)も名盤で名高く、ソリストも、20世紀最高のソプラノ歌手と讃えられたエディタ・グロヴェローヴァをはじめ、

【Vanitas Still Life】 ピーター・クラエシュ Peter Claesz

【Vanitas Still Life】 ピーター・クラエシュ Peter Claesz

【Vanitas Still Life】 ピーター・クラエシュ Peter Claesz

この絵は、またの名を『メメント・モリ - Memento mori(死を忘れるな)』。

全てのものは、いつか死ぬ。

死を意識することによって、生への思いを深めよ、という意味があります。

【コラム】 Wheel of Fortune ~おお、運命よ~

皆さんは、自分を導くFortunaの影を見た事がありますか?

Fortuna は『運命の女神』。宿命とはまた別です。

宿命とは、先天的に定められた「人生の場」。あなたが生きる人生の舞台です。人によって、それは花園でもあるし、すさんだ荒野でもある。残念ながら宿命は変えられません。役者が舞台を変えることができないように。

でも運命は違います。Fortuna は、道を歩く者の前に、突如降り立ちます。そしてそれぞれの器に応じた課題を課します。Fortunaは、ただ試すだけ。悲運も不運もありません。その解答を見て次に行くべき道を示すのが、彼女の仕事です。

もしあなたが学校の教師なら、意欲のある生徒にはどんどん課題を与えて、才能を伸ばしてやりたいと思うでしょう。逆に、鼻クソほじって、居眠りこいているような生徒には、授業する気にもならないはずです。

Fortunaもそれと同じです。Fortunaに気に入られると、必然的に課題が増えます。進めば進むほど、課題もどんどん重くなります。「もうダメですぅ。難しすぎて解けません」と放り出せば、それまでです。しかし20点でも、70点でも、とにかく最後までチャレンジすれば、次の機会を与えてくれます。今度は100点満点が出せるように。そうして最後には、人の辿りつけぬ境地まで導いてくれるでしょう。

愛の神 Erosと違って、Fortunaは意地悪です。

「こんちくしょう」というような顔をしています。

だから皆、避けます。

だけど、ひとたび、自分を導くFortunaの影を見れば、その意地悪な横顔にもなんとなく愛着を抱けるようになるものです。

「あら、いらっしゃい」「今度は何? 私を何処に連れて行くの? アンタ、よっぽど私に惚れてんのネ」

って。

*

人間には、自分ではどうにも制御できないものがあります。それは意志とか感情とかいうレベルのものではなく、何かもっと根深く、強烈なものです。自分や自分の人生を根幹から支配するものです。それが何かは解らないけれど、常にそれに引き摺られて生きている私がいます。時々、生きているのは「私」ではなく、その「何か」の方だと思う事もしばしば――それが何か解るのは、多分、人生の最後の方でしょう。

*

そうして人間は幾度となく闇に落ち、その度に目を覚ます。

あるいは「目を覚ます」と知っているから、落ちて行くのかもしれない。

* 

Fortuna Imperatrix Mundi = 全世界の支配者なる運命の女神

それも手なずければ、最強の味方になるということ。

あなたの前にも、Fortuna が降り立つといいですね。ただし最初は意地悪な顔をしているので、なかなかそれとは見抜けませんが。とにかく追い返さないように。Fortuna の課題は受けて立ちましょう。

それでは皆様、良いお年を (^^)/~~~

記:1999年 年末

おまけ : ヴェルディ『怒りの日』とおすすめCD

カルミナ・ブラーナのファンは、ヴェルディの『Dies irae(怒りの日)』も好きではないかと思う。

最近ではオタクアニメの『エヴァゲリオン』でも使われて、オリジナル・サウンドトラックと思い込んでいる人もあるのではないだろうか。

こちらは、カルミナ・ブラーナよりさらに情熱的で、天の雷鳴を感じさせるような曲調。

CD『怒りの日』

『カルミナ・ブラーナ』やヴェルディの『怒りの日』のファンにおすすめしたいのが、CD『怒りの日』

【収録曲】
1.オルフ:カルミナ・ブラーナ~「おお、運命の女神よ」
2.ヴェルディ:レクイエム 作品5~「怒りの日」
3.モーツァルト:レクイエム K.626~「怒りの日」
4.ドヴォルザーク:レクイエム 作品89~「怒りの日」
5.ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
6.リスト:死の舞踏S.126
7.サン=サーンス:交響詩「死の舞踏」作品40
8.ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14~第5楽章「ワルプルギスの夜の夢」
9.グレゴリアン・チャント~怒りの日(第1旋法)

怒りの日
CD『怒りの日』

上記の商品は、こちらのCDがベースになっています。

1. レクイエムK.626~怒りの日(モーツァルト)
2. 同~同(ヴェルディ)
3. 同op.89~同(ドヴォルザーク)
4. 同op.5~同(ベルリオーズ)
5. パガニーニの主題による狂詩曲op.43~第7変奏-第10変奏(ラフマニノフ)
6. 死の舞踏S.126(リスト)
7. 交響詩「死の舞踏」op.40(サン=サーンス)
8. 幻想交響曲op.14~第5楽章「ワルプルギスの夜の夢」(ベルリオーズ)
9. グレゴリアン・チャント~怒りの日(第1旋法)
10. ソレーム修道院の鐘の音

このCDは私の妹が持っていたが、最後の「ソレームの鐘の音」が異様にコワイと言っていた。

一時期、マーケットプレイスで8000円代で売ってました。……溜め息です。

怒りの日 大全集
怒りの日 大全集

誰かにこっそり教えたい 👂
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この記事を書いた人

MOKOのアバター MOKO Author

作家・文芸愛好家。アニメから古典文学まで幅広く親しむ雑色系。科学と文芸が融合した新感覚の小説を手がけています。東欧在住。作品が名刺代わり。Amazon著者ページ https://amzn.to/3VmKhhR

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