『やっても悪口を言われ、やらなくても悪口を言われる』というのは、西洋の文化人の言葉です。私も誰の言葉だったか、まったく覚えがないし(英首相・チャーチルか?)、もしかしたら「書いても悪口を言われ、書かなくても悪口を言われる」だったかもしれない。名言サイトで似たような文言を見かけたら、頭の片隅にメモして下さい。
多分、実社会でも、ネットでも、「人に悪口を言われるのが怖い」という人が大多数だと思います。「ぼっちと思われたくない」とか「乗り遅れた奴と見られたくない」とか、他人の目も気になってね。
でもね、人間って、しても悪口を言われるし、しなくても悪口を言われるんですよ。
なぜかと言えば、「どんな人間も話せば解り合える」なんて幻想だから。
『理屈で人を変えることはできない』でも書いているように、どう説得しようと、どんなに優しく言い聞かせようと、人間の感じ方や物の考え方まで自分の思う通りにコントロールすることは不可能です。
変えられるのは、自分自身だけ。
他人の頭の中や心の感じ方まで、自分の都合よく変えることはできない。
相手が「愛せない」と言ってるものを、どれほど説得しようと、どれほど謝ろうと、駄目なものは駄目だし。
生理的に駄目、見た目が駄目、等々、理屈をこえた「なんとなく」に左右される部分も大きいです。
私がどうやっても「綿の国星」を読むことができないのと同じです。
周りにどれほど「あんたは絶対に好きになる!」「大島弓子の名作よ」と勧められても、駄目だった。
あんなに可愛い絵柄でも、信奉者が何十万人と存在しようと、合わないものは合わないんですね。
それと同じで、人間というのは、立っても、座っても、歩いても、飯を食ってても、対岸から悪く言われるものです。
「あの人の悪口だけは聞いたことがない」という人でも、まったく違うコミュニティに行けば、「いい子ぶりやがって」とか、あれこれ言われるものですよ。
どこの世界でも「他人の悪口を言わない人」は一定数存在しますが、「誰からも何の悪口も言われたことがない」という人は、この世には存在しません。
あなたの立つ位置には必ず対岸があり、そちらの住人から見れば、あなたは不可解で、いらつく存在でしかない。
そして、その人たちの感じ方や考え方を、すっかり自分の思う通りに変えることは、たとえ偉人と称えられる人でも絶対的に無理なんですね。
『やっても悪口を言われ、やらなくても悪口を言われる』
そういうものだと思えば、ちぃとは勇気が出ませんか?
人に悪く言われるのを恐れて何もやらなかったら、何も出来ません。
どうせ悪く言われるなら、行動した方がいいでしょ。
一方で、相手の評価が永遠に変わらないということもない。
私も20代から30代にかけて、おじちゃん、おばちゃんに、さんざん説教されてきて、その度に、「この人に私の気持ちは分からない」「あんたに言われとうない」「よくそんなキツイ事が言える」等々、反発してきたものです。
でも、十年、二十年が経って、振り返ってみると、あの時、あの人が、ああいう風に言った理由が分かるようになる。
それが年を重ねる醍醐味です。
言い換えれば、あの時、あの人たちが私に遠慮して何も言わなかったら、私も変わらないですよね。
「この子に言うても、どうせムダや」「口うるさい上司と思われたくない」と、そこで関わりを絶ってしまったら、二十年後、三十年後に実るかもしれない芽まで摘んでしまうわけ。
それと同じで、相手にどう思われるか、悪口言われたらどうしよう、そんな不安や恐ればかりが先に立って何もやらない、何も言わなかったら、自分も変わらないし、相手も変わらない。
奇跡というのは、いつでもリスクと隣り合わせなんですよ。
実社会でも、ネットでも、自分に対する悪口が無くなることは絶対にないです。
「自分が生きる」ということは、対岸に影を作ることだからです。
その度に恐れて、遠慮していては何も出来ないし、「人間というのは、立っても、座っても、歩いても、飯食っても、相手の悪口を言わずにいないものだ」と思えば、少しは気が楽にならないでしょうか。
悪口で、人は死にません。
悪口に耐えられず、自分で自分を殺した時に、人は死んでしまいます。
断言しますが、この世に、一度たりと、誰にも悪口を言われたことがない人は存在しません。
あなただけじゃないの。
みんな、誰かに、陰で何か言われてるの。
だから、恐れず、自分を責めず、落ち込まず、これが人の世と思って、乗り切って下さい。
そして、チャレンジする勇気を。
『やりたいようにやれ。あとは人の語るに任せよ』
これも文化人の言葉ですが、誰だったか忘れた。
悪口をいわれっ放しでいる傲岸さは、けっきょくだれにも「悪口をいわれないような、つまらぬ奴」になってゆく危険があります。しかし、現代にあって、人に悪口をいわれぬような人とは、おそらく無能な人であろう、というのが私の推理であります。
家出のすすめ (角川文庫) 寺山修司