SF医療ファンタジー『TOWER』を書くに至った経緯を紹介しています。
創作の背景
『TOWER』は中学生の時に思いついたキャラクターの『アドナ』と『スティーブ』をメインに創作しています。
当時、アドナは「クールな無性体の天才科学者」、スティーブ(スティン)は天衣無縫なジャズピアニストという設定でした。研究所の実験ポッドで生まれ、ほとんど感情に動かされることがないアドナと、生まれながらの野生児で、思いのままに生きるスティーブとの微妙な恋愛感情が物語のテーマだったのです。
「半閉鎖式空間」と「超高層ビル」の概念は、20代前半に生まれました。80年代、『摩天楼ブルース』という曲が人気で、タイトルに強く心惹かれたからです。
それから数十年を経て、SF医療ファンタジーに生まれ変わったわけですが、執筆前は特に医療に関心もなく、「半閉鎖式空間でパニックが起きるなら、パンデミックが最適解だな(小説の題材として)」と考えたのが始まりでした。そして執筆中にパンデミックが起き、今また性病感染が問題になっているのは、何とも言えない偶然です。
愛と性に関しては、個人の価値観に依るところが大きいので、何が正解、何が誤りということは一概には言えませんが、『作品のあとがき ~性転換手術を受けたAさんのエピソード』にも書いているように、安易に本人の希望に基づくことが幸福に繋がるわけではない――というスタンスは今も同じです。作中でも、ジュール医師がアドナにそう言い聞かせます。医学に心得のある者なら誰もが頷く話ですが、衣類を取り替えるように、あるいは、美食家から菜食主義に移行するように、『性』というのは簡単に変えたり、決めつけたり、していいものではないんですね。
実はこのストーリーには続きがあって、セスが次代のリーダーとして生き残りの市民を導くことになります。しかし、アドナとスティンがTOWERのメインフレームに行くことを禁じられたように、その実体は誰にも分かりません。
TOWERは人間界であり、ガーディアンはそれを司る神です。
と考えるなら、彼らの未来も自ずと導き出されるのではないでしょうか。
読んだ人がどうにでも解釈できる物語を書きたかったので、この話に続編はありません。
誰が何のためにTOWERを作ったのか、理由は分からなくても、今、この瞬間を生きている者たちは、最善を尽くすのと同じです。
存在に意味もなければ、結末にも大して意味はないのです。
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