医療と人間– tag –
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渡辺淳一の医療小説『光と影』 ~手術の順番が二人の患者の明暗を分ける
手術時の患者の取り違いをテーマに人生の光と影を描く直木賞受賞作。まさに運としか言い様がない二人の男の栄光と挫折を渡辺氏らしい流暢な筆致で描く。 -
死を受容する必要なんか、ない 渡辺淳一の医療小説『無影灯』
難病に苦しむエリート医師と看護婦の恋を描いた『無影灯』は渡辺淳一氏の死生観や医療観が色濃く反映された医療小説。がん患者に告知することは正しいのか。優しい嘘をつくことが患者の救いになることもある。末期医療の在り方に一石を投じる傑作。医療コラム『がん告知 ~優しい嘘が患者を救うこともある』 -
江戸川乱歩の『芋虫』~現代の老人介護を想う
時子の夫は戦争で負傷し、手足を失って、芋虫のような寝たきりになってしまう。時子はかいがいしく世話していたが、やがて疲れ切り、暗い感情を抱くようになる。発作的に夫を傷つけた後、時子が目にしたものは……。現代の介護者の苦悩を思わせる壮絶な心理描写と結末が衝撃的な乱歩の傑作。作品をモチーフとした介護コラムを掲載。 -
善人には善人の運
医療や福祉の現場にいると、「なんで、こんなにいい人が、こんなに苦しまないといかんのかなー」と思うことがよくあります。 ほんと「善人の上に光り差さず、大欲、これ王の如し」で、病院でも婦長や院長にネジこんで要求する人が、他よりいい待遇をされて、この世はほんと、不条理の塊ですワ。 でもね、じーっといろいろ見てると、やはり善... -
ミス・ゼロ ~働くということ~ 臨床検査技師のアルバイトから
二十歳の時、臨床検査センターで検査技師のアルバイトをしていた。扱うのは、主に血液。他には尿や便、喀痰や臓器組織など。取引先の病院や診療所などで採取された検体を営業部員が回収し、検査結果を通知書に打ち出して、病院に提供するのがメインの業務だ。 私が所属していたのは、放射性同位元素を使ったRI測定室。 部屋中、微細な放射線... -
延死 ~医療が引き延ばす死~
命を延ばすというよりは、死を引き延ばすような医療の在り方について。人間としての思考も意識も完全に停止し、自分で自分が誰であるかも分からない、ただ呼吸するだけの肉体として存在するに過ぎないなら、それも人間として尊厳のある「生」のうちに入るのだろうか? -
死ぬことと生きること 『病院は社会の縮図、そして人生の縮図』
分娩に立ち会った次の日の朝、 いつものように白い洗面器にぬるま湯をはり、一番最初に洗面介助をした重症のおばあちゃんの個室に運んで行くと、すでに名札が外され、部屋は空になっていた。 「あの……あの方、部屋を替わられたんですか?」 と看護婦さんに聞くと、 「ああ、**さんね、夕べ、亡くなったのよ」 私はワゴンを押してユティリテ... -
ヒポクラテスの誓いと良心の呵責 『殺意の誓約』(2016年)
優秀な外科医フィンヌルは娘アンナの恋人がヤクの売人であり、娘も薬物依存症であることを知って、別れを迫るが、逆に手切れ金を寄越せと脅される。切羽詰まったフィンヌルは、恋人を拉致し、殺害することを計画するが、意外なところからアリバイが綻び始める。 -
パンデミックの脅威を描く 映画『アウトブレイク』 ~なぜ感染症は水面下で拡大するのか
ダスティン・ホフマン主演の医療サスペンス。医療機関の監修に基づき、感染症が拡大する様子をリアルに描いている。陰謀あり、駆け引きありで、娯楽としても楽しめる良作。医療コラム『なぜ感染症は水面下で拡大するのか』と併せて。 -
ブラックジャックの診療報酬 ~患者さま時代の医療
ブラックジャックの診療報酬 手塚治虫氏の医療マンガ『ブラックジャック』は、無免許の天才外科医でありながら、患者に法外な診療報酬を要求する。 常識で考えれば、「人の弱みにつけこんで、なんたる外道!」と思うが、ブラックジャックはあえてダーティーな要求を突きつけることで、患者にこう問いかけているのだ。 「君は全力をかけて自分... -
死刑囚に手術をする、ということ ~手塚治虫の『ブラックジャック』より
凶悪犯でも治療する意義 2019年7月、日本を代表するアニメ制作会社『京都アニメーション』の第一スタジオに容疑者Aが侵入し、室内に大量のガソリンをまいて放火、36名が死亡し、33人が重軽傷を負う事件がありました。 Aもまた瀕死の重傷を負い、病院に運び込まれましたが、現行の法制度においては、死刑は免れないと言われています。 多数の... -
人類滅亡と昭和の男社会 ~女性の皆さん、子供を産んで下さい 映画『復活の日』
生物兵器MM-88を強奪したテロリストの小型飛行機が雪山に墜落し、容器から漏れ出したウイルスが雪解けと共に爆発的に増殖を始める。人類滅亡の危機に瀕して、最後の希望は、ウイルスが無力化する南極に取り残された人々だった。興行的には大コケだった角川最後のSF大作について女性の視点から解説。 -
医療現場の十人十色 人の生き様と死に際
生き様と死に際も人それぞれ。どれも人間らしくて、最後には許されるのではないかと。そう頑張らず、立派を目指さず、自分らしく死んでゆけばいいのです。何を得たかよりも、何を為したかに重きを置く方が、結果的には魂の充足に繋がります。 -
医療と呪術 ~ジュール医師とエルメイン
最高評議会の後、アドナはジュール医師の心中を思いやり、少女の死因が未知の微生物による感染症と推測する根拠を問う。水循環システムの老朽化が原因なら、直ちに対処しなければ、市民全員が命の危険に晒されるが、設計図はいまだ復元できず、評議員も当てにはならない。アドナは何故エルメインのような人間がVIPの支持を得るのか訝るが、ジュールは「医療も突き詰めれば呪術だよ」とエルメインの不思議なカリスマ性について説く。 -
作品のあとがき ~性転換手術を受けたAさんのエピソード
私がAさんに出会ったのは、新米看護婦として外科病棟に勤務していた頃のことです。 Aさんは二十代男性で、外国で膣形成術を受けたものの、膣と直腸の間に瘻が生じ、腸の内容物が膣に漏れ出すなど様々な問題が生じた為、手術目的で外科病棟に入院されました。 幸いAさん自身は健康で、既往歴もなかったことから、瘻を縫合すれば、すぐに軽... -
山崎豊子の医療小説『白い巨塔』 あとがきに記された作家の社会的使命とは
貧しい地方出身の財前五郎は浪速大学の教授に上り詰めるが、ガン転移を見逃し、患者を死に至らしめる。悲しみ憤る遺族は裁判を起こすが、財前は政治力を駆使して叩き潰そうとする。医学界のヒエラルキーと権力に翻弄される人間模様を、確かな医学知識を元に描く医療小説の金字塔。本作のあとがきに記された作家・山崎豊子の社会的使命を紹介。
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