国家の安全保障か、ネットの自由か 映画『スノーデン』と『シチズンフォー スノーデンの暴露』

目次 🏃

映画『スノーデン』 あらすじと見どころ

スノーデン(2016年) - Snowden

監督 : オリバー・ストーン
主演 : ジョゼフ・ ゴードン=レヴィット(スノーデン)、シャイリーン・ウッドリー(恋人リンゼイ)

スノーデン(字幕版)
スノーデン(字幕版)

あらすじ

卓越したコンピュータ・スキルを有するエドワード・スノーデンは、CIAに採用され、スイス・ジュネーブに派遣される。
しかし、そこで目にしたのは、対テロ諜報活動として、世界中のメール、チャット、電話、SNSを監視し、個人情報を収集すると共に、要人にトラップを仕掛け、意のままに操る現実だった。
NSA(米国国家安全保障局)の在り方に疑問を抱いたスノーデンは、機密を盗み出し、ジャーナリストの協力を得て、真実を告発する。

見どころ

スノーデンの告発を元に作られているので、8割は「そうであろう」と納得するような内容。
情報の盗み見やハッキングなどは、告発がなくても、皆、うすうす気づいていること。だが、「国家の安全と、個人の自由、どちらをとるか?」という話になれば、多くの人は「国家の安全を選ぶ」というのが本作の肝だ。ネット利用者の9割は、財産も権力も持たない無害な市民であり、人間関係や書き込みの内容が国家に知られたところで、大して影響はない、それよりテロから守って欲しい、というのが本音と。

シリアスな社会派ドラマであるが、最新のIT技術を取り入れた演出は、情報系に興味のある人なら、近未来SF感覚で楽しめると思う。
オリバー・ストーンらしい、皮肉と批判の利いた作りで、一見の価値あり。
機密を盗み出す場面も非常にスリリングで、映画としても上質のエンターテイメントである。

国家の安全か、個人の自由か

スノーデンの告発

2013年、アメリカ国家安全保障局(NSA)および中央情報局(CIA)の職員であったエドワード・スノーデンが、GoogleやYahooやMicrosoftといったインターネット・サービスを介した、政府による情報収集活動の内実を暴露した時、「あ、やっぱり」と思ったのは私だけではないだろう。

個人の住所や氏名は言うに及ばず、交友関係、気になるキーワード、購入履歴、メールアーカイブなど、いわば全人格をデジタル化したような情報を有する企業が政府や捜査機関と何の接触も持たず、透明性を貫けるはずがないからだ。まして、それらを無料で提供して、企業として採算が取れるわけがない。もし「友だちの誕生日や歯科医の予約をメールでお知らせ」みたいな機能を企業の好意と受け止めるなら、よほどお目出度いか、一度も社会で働いた経験がないか、どちらかだろう。昔から「タダより高いものはない」というけれど、誰がどう考えても、あまたのIT企業は余りにも多くのものを気前よく提供しすぎている。Googleアカウントにしても、Twitterにしても、普通に考えれば、月額数百円の課金は当然の内容だ。にもかかわらず、かなりの部分を無料で提供できるのは、効率よく元手を回収できる道筋があるからなのだ。合法、違法にかかわらず。

だが、一方で、次のような考えもある。

もし、電話やチャットの傍受によって、大規模なテロや組織的犯罪が事前に分かったら、多くの人々の安全が守られるではないか、と。

そうした観点から、NSAも、CIAも、スノーデンいわく、超法規的にこれらのデータにアクセスし、危険人物を監視している……というわけだが、他人の通話やメールの内容を覗き見るには、当然のことながら、司法の許可がいる。本当にその相手が危険な思想を持ち、反社会的な行動を取っているという証拠だ。

しかし、スノーデンいわく、監視は無許可に行われ、その範囲は、対象となる人間以外にも幅広く行われている。それは完全に逸脱した行為であり、国家権力の暴走である、と。

そして、誰もが、捜査令状もなしにメールや検索履歴をチェックされ、日々の行動、購入した物、”いいね”した投稿や交友関係まで、洗いざらい調べられ、ある日突然、嫌疑をかけられるようになれば、何かを自由に発言したり、社会運動に参加したり、興味ある事を学んだりする事ができなくなってしまう。

そうした個人の自由よりも、国家保障が優先されるべきなのか。

そして、監視する側の監督は誰が行うのか、何をもって違法・合法を判断するのか……というのが、スノーデンの告発の主旨だ。

では何が問題だったのか。

まずはオリバー・ストーン監督の映画『スノーデン』から見ていこう。

スノーデンと国家安全保障

卓越した情報工学のスキルをもつエドワード・スノーデンはアメリカの国家安全保障局(NSA)にスカウトされ、その後CIAの職員としてコンピュータセキュリティに関わるようになる。

しかし、2007年、スイスのジュネーブに赴任した際、スノーデンは超法規的な個人情報収集システムの存在を知る。

たとえば、「攻撃」「殺し」「ブッシュ」といったキーワードを入力すると、そうした発言をしているアカウントがすぐさまリスト表示される。

NSAはメールや通話、ウェブサイトやメッセンジャーなどを介して、膨大な個人データを蓄積しており、いつでもターゲットの洗い出しができるのだ。

キーわードから危険人物を検索

それなら、良識ある市民には何の関わりもないと思うかもしれない。

だが、このシステムは、犯罪とは全く無関係な人間を陥れることもできた。

ジュネーブで知り合った世界貿易機関のデ・ラ・ホーヤは、ビン・ラディンに出資しているサウジ関連の金融関係者を狙っている。

スノーデンも様々な金融関係者に接触を試みるが、皆、警戒して、何も話そうとしない。

そんな中、善良なマルワン氏はスノーデンに好意を示す。

スノーデンに司令が下る

善良な事業家マルワンに接近するスノーデン

さっそく、マルワン氏の身上調査が始まる。

「クリーンなパキスタン人だ。政府とも軍統合情報局とも関係ナシ。腐敗に関わってなくても私的な弱点が分かればいい」

最初に調査員が目を付けたのは、マルワン氏の義理の妹。

さっそく彼女のラップトップPCにアクセスし、遠隔操作でウェブカメラとマイクを起動させる。そこには全く疑いもせず、着替えを始める女性の姿があった。

個人情報を洗い出すスノーデン

次に調査員はマルワン氏の15歳の娘のFacebookにアクセスする。本来、非公開の投稿まで丸見えだ。

親と喧嘩してないか、恋愛トラブルを抱えていないか、弱点を探る為だ。

Facebookの非公開記事も丸見え

スノーデンは不審に感じ、「裁判所の許可は?」と尋ねるが、

「エックスキースコアに令状は要らない。検索はメールアドレスやキーワードで行い、検索した理由はこう記しておく:サウジの仲介役と関係あり。父親が協力者ってことにしておけばいい」

裁判所の許可もなく個人情報にアクセス

次いで、調査員は娘のボーイフレンド、ナディムのFacebookにアクセスする。

「娘は結婚を希望。親には言えてない。娘は知らないが、彼には”ニコラス”という別名も。他の女ともエッチしてる」

調査員は、彼と母親が不法滞在者であることを突き止め、それがサルマン氏の弱みとなる。

交際相手のプロフィールも丸見え

こうした個人情報がNSAにダダ漏れで、利用されているとも知らないサルマン氏は、家族の窮状をスノーデンに訴える。

「君と会ってから私の人生はメチャクチャだ。だが君の同僚が助けてくれた。君らに感謝してる」

不法滞在者であることがバレたボーイフレンドと母親が強制送還され、サルマン氏の娘は睡眠薬自殺を図った。そこで政府関係者がボーイフレンドと母親にビザを発行し、手助けする。恩義に感じたサルマン氏は、ますます心を許し、協力的になる、という筋書きだ。

しかも、深酒したサルマン氏にわざと車を運転させ、こっそり飲酒運転で通報する。一週間、警察に収監されるとなれば、喜んで取引に応じるからだ。

いくら何でもそれはやり過ぎではないかとスノーデンは異議を唱えるが、「これも昇進の為」と政府関係者は割り切り、良心の痛みも感じない。

次いで、スノーデンは日本に派遣され、システムにマルウェアを仕掛ける。

NSAが日本人を感心させるために見せたのはドローンからのライブ映像
日本国民への監視への協力依頼は断られました
国民の監視は違法だとね でも監視は実行した
日本の通信システムの次は物的なインフラも乗っ取りに
ひそかにプログラムを送信所やダム、病院などに仕掛けた
もし日本が同盟国でなくなった日には彼らは終わり

同盟関係が終わればインフラも破壊される

さらに監視を続ける中でスノーデンは悟る。

マルウェアは日本だけじゃない メキシコ ドイツ ブラジル オーストリア
各国の首長や企業のトップも追跡するよう指示されます
貿易協定、性的不祥事、外交公電
G8で米国が優位に立つためです
またはブラジルの石油会社を操るか
非協力的な第三世界の首長を失脚させるためか

結局は信じるに悩みました どう考えてもテロには関係なかった
テロは口実で目的は経済と社会を支配すること
僕が守っていたのは政府の覇権だけでした

世界各国に同様のマルウェアを仕掛ける 

テロを監視する仕事に任命された時はうれしかった
毎日出勤すると無線諜報を始めるよう指示されました
多くは米国人なのが妙でしたが
爆弾を防いで大勢を救うのだと自分に言い聞かせました

問題は悪党だけでなく彼らのメタデータも追跡すること
つまり彼らがかけた全電話番号です
標的がベイルートで働くイラン人銀行かだとします
彼を監視するとともに彼の通話相手も監視する
バファローに済むいとこの歯科医も含めてね
歯科医の接触相手も監視
最初の標的から三人目になる頃には
バーテンダーが母親としわ取りの話をしてる
通話相手が40人いて3人先までいくと
総勢250万人になるんです
そして その規模に気付き 愕然とする瞬間が来る
NSAは世界中の携帯電話を監視しています
誰もがデータベースの中にいて 日々監視される可能性がある
テロリストや国や企業だけじゃない
あなたもです

全世界のネットワークを追いかける

新事実を知り 無視できなくなりました
例えば3人のNSA高官のビニー、ルービス、ウィービー
彼らは監視の悪用と範囲について政府内で問題だと訴えていました
それだけでFBIが家宅捜索に
トーマス・ドレイクもNSA内から変えようと試みましたが無理とわかり報道機関へ
彼がスパイかつ同法違反に問われ、僕らは衝撃を受けました

なぜ告訴されたと 脅すためです
他の内部告発者や政府の人間が真実を言わないように脅してる
”潰すぞ”とね

そんなスノーデンに新たな指令が下る。

「オアフにあるNSAの支部で新しいプログラムを開発中だ。任務は中国のサイバー・チーム対策。給料は高くないが 国に貢献できる重要な仕事だ」

だが、スノーデンは「まさか世界中を監視するとは……」と躊躇する。

「第二次大戦から60年 まだ第三次大戦が起きてない。なぜだと? 我々が世界のために尽力してきたからだ。繁栄と秩序のために。核戦争やテロ攻撃。サイバー攻撃は防げん。世界中の集中情報施設がなければな」

「だから大勢の生活を覗けと?」

「今では皆 生活をさらけ出してる」

「各々、一部を見せているんです ぼくらは全部を覗いてる」

大抵の米国人は自由より安全を望んでる。単純な選択だ。安全に遊びたかったら入場料を払って当然だ」

「ですが誰も選択をしたとは……」

多くの国民は個人の自由より国家の安全を望んでいる

ここで重要なのは、「安全に暮らしたければ、プライバシーも差し出すのが当然」が国民の義務として語られていることだ。

テロを防ぐ為なら、メールを読まれても仕方ない。

犯罪を防ぐ為なら、交友関係や買い物の中身を知られても構わない。

危険に巻き込まれて今の暮らしを失うか、防衛の為にプライベートな情報も差し出すか、どちらを選ぶか、という二者択一。

スノーデンは「意図してそうしている人はない」と反論するが、上部はそれが正義と信じて疑わない。

その後、スノーデンは通称『トンネル』と呼ばれる、ハワイ・オアフ島のNSA工作センターに派遣される。

厳重に管理されたデータセンターではドローン攻撃の様子も監視することができた。

「ぼくらは攻撃にどんな協力を?」

「無人機のアンテナがハードウェアIDを拾ってる
俺たちは位置を特定
空軍のターシャが爆弾を落とす
追跡と攻撃 大成功」

「誰を追跡したんです?」

「標的は悪党の携帯電話かSIMカードだ」

「攻撃時に、その携帯を悪党が持っていることの確認は?」

「できない。確認は地上部隊がしてる」

つまり、携帯電話そのものが攻撃目標に設定されているのだ。

しかし、その携帯電話を、テロとは全く無関係な子供や知人が所持していることも考えられる。

地上部隊が確認しているというが、どこまで正確かは誰にも分からない。

メールやスカイプも監視の対象

そうして、世界中のインターネットから個人情報を収集し、分析しているわけだが、実際には、米国から収集されるデータ量は敵国とされるロシアの二倍であり、本当にテロや犯罪を前提とした情報収集なのか疑わしくなる。

スノーデンは言う。

「ニュルンベルク裁判を? ナチスの大物を処刑した最初の裁判は大物でした 
その後の裁判では裁判官や弁護士 警官 警備員を含む 仕事をしてただけの凡人も裁かれています
ニュルンベルク裁判の諸原則はその後国連が国際法としてまとめ仕事でも犯罪なら処罰されることになりました」

最初は大義の為に始まった裁判や法律も、いずれ都合よく解釈され、無関係な市民も巻き込んでいくわけだ。

しかし、スタッフの大半は、違和感を感じながらも、それを日常と受け止め、いずれ何の疑問も感じなくなっていく。

日に日に疑問がつのる中、決定的な事が起きる。NSAの上官が、彼と恋人のプライバシーを監視していることに気付いたのだ。

もはや彼の人生に発言や交友の自由はない。そこでスノーデンは告発の決意をする。

米国が手を出しにくい香港に逃れたスノーデンは、ホテル「ミラ香港」の一室で、ドキュメンタリー制作で定評のあるローラ・ポイトラス、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドと面会し、告発ビデオの撮影に挑む。

盗聴や盗撮を防ぐため、携帯電話は冷蔵庫へ、自身は毛布をかぶってPCにパスワードを入力する。

告発を始めるスノーデン

そして、2013年6月8日、英国のガーディアン紙に第一報が報じられる。

ジャーナリストのグリーンウォルドは力説する。

「彼は思ったのです
秘密主義の機関お行いは脅威だと
世界中のプライバシー権とネットや政治の自由にとって脅威です
そして人として暴露する義務を感じた」

個人情報の監視は脅威である

またスノーデンはTV番組のインタビューに次のように答える。

「力のある彼らに抵抗するのは不可能に近い
国民を抑圧する構造を作り 範囲を拡大しています
国民に監視の是非を判断してほしい
なぜなら犯罪とは無関係でも監視されてるのです

僕は全情報機関にアクセスできた
米国を痛めつけたければ全監視システムを停止させることもできたのです

ですが目的は違った

僕の意図をあれこれ言う人は考えてほしい
もしあなたがハワイの楽園に済み高給取りとしたら
何のためにすべてを捨てると思いますか?

この暴露で米国がどうなるかを考えて最も恐ろしいのは
何も変わらない場合です

数ヶ月 数年で 事態は悪化します
そして どこかの時点で新しいリーダーが選ばれるでしょう

その人が方針転換をしたら 
その時には国民は誰も反対できない状態になっています

独裁になります」

スノーデンはネット中継を通じて、世界中のユーザーに呼びかける。

字幕では「ネットに自由を」になっているが、原文の「I support online ritghts」は、自由ではなく、「正当な権利」という意味である。

自由に発言する権利、自由にアクセスする権利、自由に繋がる権利。

もはや、これらの権利は完全に侵害され、メールも、チャットも、ログも、購入履歴も、行動範囲も、全てがダダ漏れになっている。

それでも国家安全保障のため、この事実を許容しますか、というのが、スノーデンの告発の真意だ。

*

本作は、最後まで、「どちらが正しい」というジャッジは行わない。

スノーデンの真意である「国民自身に判断して欲しい」を尊重して、NSAを徹底的に悪役にするような演出は避けている。

ただ通常の感覚の持ち主なら、調査員が勝手に一般人のPCを起動して、着替えの様子を覗き見るとか、本来非公開であるFacebookの個人ページにアクセスし、性的関係まで探り出すなど、有り得ないと思うだろう。

実際、Facebookから個人情報が流出し、大統領選などに流用された事は周知である。

それ以外にも、ユーザーが信用して提出した個人情報が、どこで、どのように使い回されているのか、ユーザー側からは知る術もない。

それでも、あなたは「利用規約」に同意して、サービスを使い続けますか?

それでもあなたはネットを使い続けるか

ドキュメンタリー 『シチズンフォー スノーデンの暴露』

ホテル『ミラ香港』で行われたスノーデン告発のドキュメンタリー映画がこちら。

元NSAの数学者で、1990年代には大量のデータ分析方法を開発し、冷戦中は核の脅威を分析していたウィリアム・ビニーは、世界ハッカー会議で次のように証言する。

リアルなドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』の予告編。

パズルを解く仕事は楽しかった 問題を解くんです
私の仕事は基本的にはデータシステムの構築でした
分析のコンセプトを開発して 電子的に実行されるようにするのです
つまり分析の自動化です メタデータとその関連性を使います

ところが9・11がおこり
一週間もしないうちにNSAは国民を監視することに決めたのです
我々のプログラムを使って監視しようとしました
そして通信デターを収集し その後範囲を拡大
AT&Tは日々 3億2000万件の記録を提供していました
このプログラムは45日ごとに再認可されました
当時のNSA長官ヘイデンとCIA長官テネット司法省によってです
名前は”ステラーウィンド”です

そこで私は個人的な知人がいる下院情報委員会に行き
彼女が委員長や院内総務のペロシに話しました
全員がステラーウィンド等 NSAとCIAのプログラムについて聞きました

私とNSAの他の4人が何年もかけて政府内での解決を目指しました
憲法に合致する形で
裁判所の監視も受けるようにね
当時はそうできると無邪気に信じていたのです

ですが無理でした。

そして そんな試みをしたのち 私たちは黙るようにと脅されました
4人が同時に襲われたのです
私の場合はなぜか銃を突きつけられました

NSAは国民を監視することに決めた

2006年には、アメリカ大手の通信会社AT&TとNSAを相手取り、顧客のジュエル氏が提訴をする。
主訴は「NSAがAT&Tの通信網に違法に侵入した」ことだ。しかし、数年経っても予備審査の段階である。

ジュエル氏の弁護士は次のように主張する。

「原告の主張によると 彼らの通信とその記録を政府が収集しています
ですが地方裁判所の判決によれば 
原告が受けた被害と他のAT&Tの客が受けた被害は同等で
政府は両方の情報を収集
よって誰にも原告適格はないとのことでした
しかし 皆同じだからと その被害を無視すれば 
有害な政府の行動を許すことになります」

裁判官 「証拠はありますか。原告の特定の通信が傍受されたという証拠です」

弁護士 「AT&Tとその他の北カリフォルニアの通信網
その間の全通信が傍受された証拠があります
原告のインターネット通信も必然的に含まれます」

それに対して、政府の被告側弁護士は次のように弁明する。

「本訴訟は連邦裁判所で扱う必要はありません
NSAに関しては立法府と行政府が責任を負い
彼らがよりよい方法で問題の簡潔を図るはずです
この度の訴状にある”監視”に関する国家政策についてです」

裁判官 「国の安全保障上何ら関係ないのに原告のメールや通話が傍受されていたとしても?」

AT&T裁判における裁判官の質問

被告側弁護士 「この件で申し立てをする資格がある者がいるかは疑問です。裁判所ではなく、被告に対するこのような申し立ては議会で解決するほうが的確かと思います」

判事 「あなたの考えが採用されたら司法の役割はどうなります? 司法は黙ってろと言うんですか?

被告側弁護士 「非常に狭い分野の稀なケースではありますが、口を挟むべきではないこともあるかと思います」

判事 「司法にも役割はある。我が国にはね」

被告側弁護士 「当然です。軽んじる気はありません」

判事 「あなたは我々に(司法の)役割を捨てろと言ってる」

被告側弁護士 「違います。裁判所がどう判断するかの問題です。訴訟が進めば極秘情報が明るみに出るリスクがあります。国家情報長官がご説明したように、明るみに出れば国家の安全が脅かされます

ここで重要なのは、司法よりも、国家安全保障の考えが優先される点だ。

もし、この理屈がまかり通るなら、国家安全保障は、個人の自由よりも、司法の役割よりも、人権よりも、何よりも、超法規的に振る舞うことが許される、ということになる。一見、もっともな理屈に聞こえるが、その為に、まったく無関係な人間まで拘束され、メールや携帯電話を監視され、私生活の一から十まで暴かれることになる現実も意識しなければならない。

次いで、J・アッペルバウムの、デモ隊へのセキュリティ講習での発言。

常に監視されていると感じている者は?

逮捕されて公判日に携帯電話を没収された者は?

網膜スキャンをされた者は?

ある意味 君たちは”炭鉱のカナリア”だ 危険な状況にある

メトロカードとクレジットカードのリンクは?
オートチャージだ
この概念がカギで”リンカビリティ”という

二つのデータを結びつける
メトロカードとクレジットカード

その二つを繋げる
これ自体は怖くない

だがクレジットカードは全行動に関係する
買い物をすれば居場所が分かり、必要なら君の全行動を把握できる
メトロカードとクレジットカードでね
どこで何を買ったか 同じ場所にいる他の人に そのデータを繋げれば
君が誰と会ったかも分かる

携帯電話の位置の記録とメトロカード、クレジットカード
買い物のデータを繋げれば 
君の生活を示すメタデータができるわけだ

総合的なメタデータには意味がある
事実から君の人生が読める
だが真実とは限らない
データ上はそうでも 君が罪を犯したとは限らない

だが君が罪を犯したと思われれば
疑いは一生 君につきまとう

例えば指紋を取られるとどうなるか
網膜スキャンや写真もだ

今話した状況が将来的に起きる

政策への抗議活動をした際にね

J・アッペルバウム デモ隊へのセキュリティ講習にて

スノーデンはインタビューに次のように答える。

では なぜ今回の行動に出たのかな?

僕が気になったのは、国家権力が国民の反対する力を潰している点です

僕は毎日 NSAで報酬を得て 方法を設計していました
国家権力を増幅する方法です

そしてあることに気付いたのです
国家を抑制する唯一のものである政策が変われば
国民は国家権力に反対できなくなります
世界一 頭脳明晰な技術者でもなければね

国の全機関 全ての優秀な人々になど 実際 どんな天才でもあらがえないでしょう 凡人にさえです

国はあらゆるツールを備えています
オバマ政権が国民に約束したことが果たされず裏切られたことも今回の行動に一因です
縮小すると約束したことが実際は推し進められて悪化した

特にドローン攻撃です
NSAではドローンの映像をPCで見られます
リアルタイムで解像度の低い映像がPCに配信されてます
たいてい見るのはドローンの監視映像で、攻撃映像ではありません
ですがドローンが何時間も家を監視してる
誰の家か分かりません
背景もわからない。
ただ資料として、様々な国での様々なコード名のドローン映像のリストがあって、好きな映像を見られます。

プライバシーが尊重される世界に住みたいなら、今回の行動は逆の結果を生む。
刑務所送りになり、プライバシーがなくなるかも。それでも行動する価値があると?

監視される前のインターネットは史上類を見ない画期的なものでした
世界中の子供たちが誰にでも対等に意見を言えた
彼らの発想も話も分け隔てなく、十分に尊重されていました
遠い場所にいる専門家たちとも意見を交換できたのです
自由に何にも抑制されずにです

それがやがて変わってしまい、人々は発言を自戒するようになった
”監視対象”になると冗談を言い、政治的な寄付にも注意するようになりました

監視されてることが前提になったのです

検索ワードに気を遣っている人も大勢います
記録されるからです
これは人々の知的探究心を制限するものです

ですから僕は刑務所に入れられることもその他の悪い結果も個人的にいといません
それよりも避けたいのは僕の知的自由が侵されることです
自分と同じぐらい大事な周りの人々の自由も守りたい
これを自己犠牲だとは思っていません
自分が人々のために貢献できるのですから
人として満足しています

インタビューに応じるスノーデン

TV番組のインタビューに答えるグリーンウォルド。

「国民は9・11の後にできた愛国者法の下に、監視されています
この法律は政府に広範な権限を与え、疑いが薄い者の記録の収集をも可能にしました
ですから愛国者法の下では、犯罪やテロへの関与の疑いが少しでもあれば、情報を収集できます
ですが今回の裁判所命令では対象が変わりました
対象は犯罪やテロ関与の疑いがある者ではなく、なんとベライゾン社の顧客全員です
全ての通話記録を収集します
無差別に全部です
全米国民の情報を収集するのです
犯罪の疑いがある者だけではありません」

TV番組の続報

「今度はワシントンポスト紙で、米国政府の監視プログラムの報道がなされました。
同氏とガーディアン紙によれば、NSAとFBIはインターネット企業9社のサーバーに直接侵入、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、AOL、YouTube、スカイプ、アップル等です。
彼らは音声、動画、写真、メール、文書、接続ログを収集し、人の移動や連絡先を追跡可能にしているようです」

TV討論では「テロの脅威は油断できません」という意見も聞かれるが、スノーデン側は反論。

市民は人権を犠牲にしてもいいと
それなら自由はどうなるんです。
秘密法廷や秘密の監視プログラムがあって、全米国民の生活を覗く秘密捜査がなされ、国民が知る由もなかったら?

ブラジル上院公聴会での陳述。

「まず9・11以降、米国は全てにおいてテロを正当化の理由にしています
すべて”国家の安全のため 国民を守る為”です
ですが実際は真逆です
存在する多くの資料がテロとも国家の安全とも何ら関係ありません
内容は国家間の競争や企業や財務 経済に関係することばかりです

次にエックスキースコア

私たちが最初に記事を発表した頃は、米国政府は通信内容までは傍受していないと弁明した
あくまでもメタデータだけだと 
つまり通信している人物の名前と誰が誰に電話してるか 通話の長さです

ですが通話の相手が全員分かって、その相手の通話相手まで分かる
どこでいつ通話しているのか
通話の長さと場所
これでその者の人格 行動 生活まで分かります
重大なプライバシーの侵害です

しかも彼らの弁明は嘘です

米国政府はメタデータ以外の他の情報も収集できます
メールの実際の内容や電話で話した言葉
グーグル検索で使用したワード
訪問したウェブサイト
会社の同僚に送った資料まで
個々人がオンラインでしていることはほぼ全て追跡できるのです

あなたが米国政府を調べるジャーナリストなら?
あなたが米国企業の競合会社に勤めていたら?
米国政府に関係する人権関連の仕事をしてたら? 

そのたなんでもいい
彼らは簡単にあなたの通信を傍受できます
米国在住の米国人の盗聴には裁判所の許可が要りますが、必ずおります
対象が米国人以外なら盗聴には特別な許可も一切何も必要ありません
プライバシー侵害の結果は予測しづらいものですが、
私たちに大きく影響することは間違いありません。
人々がデモを行ったり集結する力は大幅に抑えられるでしょう
プライバシーがなくなれば当然です

さらに、NSAによるEU監視に関し、欧州議会で公聴会が開かれる。

暗号化メールサービス外車の創設者、レヴィンソン氏の証言。

「弊社のサービスは人のプライバシーを侵害しないように作りました
ラヴァビットは人を介さないサービスです
サーバーにログは残らず、ディスク上のメールにもアクセス不可
監視の可能性の排除ではなく 私を一連のプロセスから外したわけです
監視するならメッセージの送信者か受信者を狙わねばできません

ですが先日 FBIから連絡があり
ある特定のユーザーの情報を渡せないのならSSLキーを出せと言われました
不透明な通信はFBIが収集すると

もちろん控えめに言って私は不満でした
そんな状況を誰にも話せないのもイヤでした
それで決めました 彼らに抵抗できないのなら
何が起きてるかを人に話せないのなら
倫理上会社を閉鎖するしかない

考えてください
法律は守るべきだし 時には捜査も必要でしょう
ですが捜査は困難であるべきです
人のプライバシーを侵害するのですから
捜査とは人生に立ち入り壊すものです

プライバシーがなければ自由に議論できません
守られなければ言論の自由も無意味です
異なる意見を持つことに関して人と話し合うこともできません
皆萎縮するからです
プライバシーがない国での萎縮効果を考えてください

次いで、アップルバウム氏の証言。

「かつての自由を今はプライバシーと呼んでます
そしてプライバシーはなくなった
私の世代が心配なのはここです
何があっても驚かない世代です
実際はプライバシーを失えば自由を失うのです
自由に意見を言えなくなる

皆、”監視は受動的だ”と
ですが監視は管理です

NSAが受動的なんてバカげてる
彼らは積極的に攻撃しているんです

欧米の市民や有益なら誰でもです」

EU監視に関する公聴会にて アップルバウム氏の証言

【ITコラム】 スノーデン告発とIT教育について

無知なコンシューマーの増加

2000年頃、デスクトップやラップトップPCがいっそう身近なものになり、「一人に一台」が浸透することで、世の中のITに対する意識やスキルは向上するかに思えたが、現実には逆だった。モバイル端末の登場で、「PCなど無くてもいい」という環境になったからである。加えて、様々なSNSサービスが台頭することで、ネットの発信者は小難しいHTMLタグやFTPの使い方を習得する必要がなくなったし、レンタルサーバーも必須ではなくなった。既存のサービスにアカウントを開設して、テキストボックスに入力、送信して終わり。画像も、テキストも、見栄えよく整形され、次々に新しい機能が追加される。

それでもウェブサイトの作り方を一から覚えよう、手間のかかる作業を効率よく進める為に高性能のPCを買おう、みたいな好奇心旺盛なユーザーは一部に限られ、大半は既存のサービスで済ませてしまう、そんな感じだ。

そして、いろんなサービスを使いこなせることが、IT上級者の証と錯覚してしまう。

現実には、サービスに踊らされるだけの、無知なコンシューマーの一人に過ぎないのに。

たとえば、多くのウェブサイトにはバナー広告が配信される。
それらの広告が、誰によって、どんな手法で配信されているのか、内容は誰が決めているのか、正しく答えられる人はどれくらいいるだろう。

またFacebookには毎日のように「あなたの知り合いではないですか?」と人物リストが表示されるが、自分や知人が友だち登録しているわけでもない、この数年、個人的に連絡を取ったこともない、遠い親戚のアカウントが、どうして自分の「おすすめ」に表示されるのか、不思議に感じたことはないだろうか。

20年前のダイヤルアップ回線の時代ならともかく、今は、あらゆるアカウントが、あらゆるデバイス、あらゆるサービスに紐付けされ、その人の行動を記録している。どこに行ったか、誰と話したか、何に興味があって、昨日コンビニで何を買ったか、今やサービス側に知られてない事の方が僅かだ。

そんなデータを集めて、私の何が分かる……と思うかもしれない。

だけども、あなたが毎月、阪急宝塚線の定期券を購入し、毎日のように「独女通信」や「MERY」にアクセスし、SNSでは誰のアカウントをフォローして、どんな発言に「いいね」しているか、最近検索したキーワードは「減量 運動」「小じわ おすすめクリーム」、ショッピングサイトでサプリや化粧品を購入し、たまにOnetの婚活サイトも覗いている……といった事実が分かれば、どこの誰かが分からなくても、かなり明確に個人像を割り出すことができるし(”美容と結婚が気になる30代女性”みたいに)、スマホの電子マネーやクレジットカードを使用していれば、簡単に個人を特定することができる。

それが即ち、「テロ容疑」に繋がるわけではないが、何かを売り込もうとする側にとっては、あなたのデータは非常に興味深い。

「美容と結婚が気になる」と分かれば、あなたのアクセスする先々に、興味にマッチした広告を露出させれば、効率よく購買に繋げることができる。

あるいは、「最新の美容のトレンドはコレ!」といった情報を毎日のようにプッシュすれば、それが本当にトレンドだと思い込むし、一度意識に刷り込まれた情報は、次に買い物する時に大きな影響を与える。

こうした個人情報を収集する仕組みは、これまでも「読者アンケート」や「懸賞プレゼント」などで行われていたが、アナログ時代は、ハガキを集計するのも、アンケート用紙を発行するのも一手間で、効率も悪かった。ところが、今では、検索キーワードや閲覧履歴などから、瞬時に人の興味や行動を把握することができるし、コンビニでドーナツ一個買った程度のことでも記録として残ってしまう。こんな便利な情報を商用利用しないはずがない。企業は、ありとあらゆる手を使って、個人の好みや行動を追跡しようとするし、蓄積された顧客データは、貴重なビッグデータとして高く売れる。ネット時代においては、個人の存在そのものが金のなる木であり、便利なサービスを使えば使うほど、誰かの収益に繋がるわけだ。

IT教育の本質は、WordやEXCELの使い方を覚えることではなく、こうした仕組みを熟知した上で、ネット上における個人の自由や権利とは何か、こうしたシステムとどのように向かい合っていくべきか考察することである。その上で、さらなる安全と進歩の為に何を成すべきか、明確な理念を持ち、それを実現する為のツールやサービスを開発することが真の創造性であり、無知なユーザーを騙して小狡く稼ぐことがイノベーションではないのである。

しかしながら、ツールが便利になればなるほど、裏の仕組みを知る機会は失われていく。

以前は、ウェブサイトに一枚の画像を表示するだけでも、FTPを使い、サーバーの仕組みを理解し、ディレクトリを構築して、二つも三つも手順を踏んだものだが、今はアカウントを開設するだけで数分後には画像でも動画でも何でもアップロードすることができる。便利といえば便利だが、その分、ウェブサイトがサーバー上で表示される仕組みについて知る機会は無くなる。仕組みが分からなければ、自分達が利用しているサービスの実体を理解する機会も失われるし、何をどうやって仕込むかというアングラ的な知識を学ぶ機会も無くなる。手先は起用だが、無知なコンシューマーばかりが増えて、広告配信のからくりやデータ収集の手法、個人データの紐付けや売買に対する関心も薄れていくだろう。そして、それが誰の得になるかを考えてみればいい。『無料』『便利』と喜ぶが、実際にはそれ以上のものを誰かの利益の為に差し出しているのである。

今ではGoogleにもSNSにも慣れきって、それが日常と化している人が大半だろう。

竹宮恵子の『地球へ』は、「人々は日常の些細な事までマザーコンピュータに知られることに何の疑問も感じなくなる」という未来社会を描いているが、実際、毎日、Googleで検索したり、気になるニュースを眺めることで、”あなたの日常”がデータ化されることに、何の抵抗も覚えないはずだ。それがどのように流用され、収益化されているとしても、日常が平和であれば、それで問題ないと思っている。

そして、それで問題ないのかもしれない。

だが、もし、あなたが何らかの理由で、政府、もしくは管理側にとって、不都合な存在になった時、この状況は一変する。

あなたが頻繁に連絡を取り合う相手、メールやSNSに書き込んでいる内容、購入履歴や閲覧履歴が逐一、覗き見られ、あなたと繋がる人にまで、監視の対象となる。

PCのカメラが勝手に起動することもあれば、家電のマイクが家庭内での会話を盗聴するかもしれない。

それは決して疑念や妄想ではなく、「実際に行われている」として、スノーデンや、その他の関係者が声を上げているのだ。

それを国家安全保障のためと受け止めるか、権利の侵害とみなすかは、あなた次第である。

自由や権利は、失った時に分かる。

捜査とは人生に立ち入り壊すものです』という言葉が重く響く。

IT教育にはウェブサイトの制作・運営が一番

学校でもIT教育の重要性が盛んに言われているが、ネットの裏側まで知りたければ、ウェブサイトを制作・運営が一番早道と思う。

「はてな」や「アメーバブログ」のように”アカウントを開設すれば、5分で自分のウェブサイトが開設できる」のとは異なり、ホームページビルダーみたいに、ゼロから自分でカスタマイズして、FTPを使ってアップロードするようなオーソドックスなウェブサイトだ。もちろん、自分たちでレンタルサーバーも契約するし、独自ドメインも取得する。サイトを開設したら、Google AnalyticsやGoogle Adsense、Search Consoleにも登録する。運営のコツが分かったら、A8ネットやamazonアフィリエイトもチャレンジすればいい。
小学生でも、教諭の監督下で、これぐらいは出来るだろうから、世の中のウェブサービスがどのように構築され、どうやってアクセスログやユーザー情報を収集するか、裏側をしっかり見れば、いかがわしいネット詐欺から身を守ることもできるだろう。

テキストや写真、動画もアップして、どんな訪問者がアクセスするか、端末の種類や時間帯、訪問回数、キーワードからプロファイリングするのも勉強になる。

中学生や高校生なら、変態に遭遇することもあるだろう。
「中学生 水着 画像」「女子高生 エッチ 動画」「体育祭 パンチラ」等々、気持ちの悪いキーワードでウェブ検索している人間も大勢いる。
そういう現実を知れば、人間の実態も分かる。

「見知らぬ人に住所や電話番号を教えてはいけません」「出会い系サイトや自殺サイトに注意しましょう」等々、くどくど言って聞かせるより、実際にウェブサイトの制作や運営を経験した方がはるかに多くを学べる。

たった一行のスクリプトを仕込むだけで、これだけデータが収集され、解析されて、それらが全て大企業の営利や国家安全保障に利用されると分かれば、世の中に対する見方も変わるだろう。

それを積極的にやっているのがIT先進国と目される諸外国の学校だ。

なぜか?

セキュリティ教育の目的もあるが、一方で、ITは巨大な富を生み出し、未来社会の生命線になることを肌で実感しているからだ。

いまだに書類に印鑑をついて、FAXや郵送でやり取りしている日本社会には想像もつかないだろうが、少なくとも、私の居住国や欧州の隣国では、ものすごい勢いでIT化が進んでいるし、国民の生き残りをかけて教育に取り組んでいる。なぜって、IT+言語能力(主に英語)があれば、国境をまたいで、どこでも働ける世の中になっているからだ。というより、そのスキルがなければ、国内での就職もままならない。

日本のIT教育との決定的な違いは、ビジネスも日々の暮らしもITを前提に機能しており、商機も弱点も理解した上で学んでいるのと、EXCELやプログラミングを特技か何かと勘違いし、「とりあえず使いこなせればいい」みたいな発想で止まっていることだ。

既に多くの有識者が指摘していることだが、オーブンの使い方が分かったところで誰もが一流の料理人になれるわけではないし、コンピュータ支援設計アプリケーションのの使い方を習得したところで誰もが卓越した都市設計の概念を構築できるわけではない。

EXCELやプログラミングもそれと同じで、「このスキルを使って、何を成したいか」という明確なビジョンがなければ、ただの器用貧乏で終わってしまう。そして、この世の中に、命じられたようにプログラムを書き、EXCEL入力のできる人なら、掃いて捨てるほどいるし、経営者も割高な日本人ワーカーを使うより、人件費の安い中進国にアウトソーシングした方がはるかに安上がり。「仕事をもらう側」ではなく「プロジェクトを創出する側」に立たなければ、とうてい勝てないところまできていることを考えると、悠長に「手に職付けて」みたいな感覚でやってる場合ではないと思うのだ。

どんな分野でも未来への展望は欠かせないものだが、ことITは社会設計に深く関わる分野でもある。まして、それが世界中で連動するとなれば、水準の引き上げは必至だ。その事を教育関係者はどれくらい理解しているのだろうか。

日本のIT教育は遠からず失敗する

2018/05/28 追記

このままだと、日本のIT教育は遠からず失敗する……というのが私の見解だ。なぜなら、国策としてIT化を推し進める諸外国は「インフラ」と考え、日本はいまだに「コンテンツ」として消費することに重きを置いているからである。

いやいや、日本も通信網の拡充に力を入れ、世界最高水準のレベルを誇っているではないか、と思うかもしれない。
だが、それは「ハードウェア」としての話であって、水道管やガス管を増設するのと変わらない。
IT化によって、公務やビジネスの合理化を図り(人員やコストの削減、手続きの簡素化など)、知識を共有し(教育や研究での有効なデータ活用、デジタル化による記録や閲覧の効率アップ)、ビッグデータを商業や安全保障や生活術に活用し(この点は問題も多いが、メリットもある)、知識や技術での格差をなくして(過疎地の遠隔教育や自宅学習、社会人教育の充実)、国民一人一人の生き残りをかけた施策に比べれば、「山奥でも○○が繋がるようになった」程度の話は、電話機が一台増えたぐらいのものでしかないからだ。

問題は、充実した通信網を使って何をするかであって、回線の速さがすぐさま世界に通用するようなコンテンツを生み出したり、スティーブ・ジョブズも超えるような起業家を生み出す訳ではない。繋がりやすさが倍増しても、その高速回線を、違法漫画の閲覧や、YouTubeの視聴や、身内のメッセージ交換に使うだけで終わるなら、そこそこの品質で十分だろう。YouTubeやSNSが悪いとは言わないが、日本よりはるかに通信環境の劣る国々で、世界に通用するようなコンテンツやアプリケーションを生み出し、せっせと配信&課金に精を出す使い手を見ていると、回線ばかり磨いても、肝心な事にはほとんど役に立ってないような気がするからだ。

ちなみに、日本の売り手は、同じ日本人から金をむしることしか考えない人が大半だが、海外の売り手は、世界に何億と存在する英語(中国語)ユーザーを対象にしており、その点でもマーケットの幅や発想の質が違う。

言語的にも完全に隔離・閉鎖された中で、似た者同士が頷き合って、果たして世界に通用する人材など輩出できるのだろうか。日本もだんだんユーザーが減少するだけでなく、国際的な影響力も弱まれば、日本語を勉強する人も減っていく。日本語を学んだところでビジネスにも政治にも使えない(金にならない)と分かれば、よほどの日本オタクでない限り、ひらがな・漢字・片仮名、三種が入り乱れた複雑な言語を学ぶ気にならないからだ。それなら中国語の方がはるかにチャンスが多いだろう。

プログラム教育を導入するなら、英語もセットでやらないと、到底、IT先進国には追いつけない。

ついでいうなら、法律、経済、政治、等々、社会学の基礎も必要。働き方も風習も異なる人を相手にしようと思ったら、社会的もしくは文化的センスがなければ、到底上手くやれないから。

教育者や関係者にそうした展望はあるのだろうか。

誰かにこっそり教えたい 👂
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