映画『サタデー・ナイト・フィーバー』 あらすじと見どころ
作品の概要
サタデー・ナイト・フィーバー(1977年) ー Saturday Night Fever
監督 : ジョン・バダム
主演 : ジョン・トラボルタ(トニー)、カレン・リン・ゴーニイ(ステファニー)、ドナ・ベスコウ(アネット)
あらすじ
ニューヨークのブルックリンに住み、ペンキ屋で働くトニーはもうすぐ20歳になるディスコが大好きな青年。
しかし、将来への夢も持てず、家庭内は夫婦ゲンカや親子ゲンカが絶えなくて、毎日の生活にうんざりしている。
そんな彼にとって唯一の楽しみが、ディスコで踊ることだ。
去年のダンスコンテストで優勝した彼は、今年も優勝を狙って新しいパートナーを探している。
そんな彼の前に現れたのが、クールでスタイリッシュなステファニー。
ダンスのセンスも抜群で、元恋人のアンネットにうんざりしていた彼はたちまちステファニーに夢中になる。
しかしステファニーの態度はクールで、ペアを組んでも、それはあくまで「ダンスのため」と割り切っている。
だが、向上心あふれるステファニーとの触れ合いを通じて、トニーは自分の人生について真面目に考えるようになる。
やがてコンテストの夜を迎え、二人は素晴らしいペアダンスを披露するが、その結果はトニーの納得がいくものではなかった。
聖職者だった兄の辞職、暴力事件、仲間の自殺など、やりきれない事が続く中、トニーは一つだけ確かなものを手に入れる。
それは、ステファニーとの「友情」だった……。
空前のディスコ・ブームを巻き起こしたジョン・トラボルタの華麗な踊り
トニーの心の変化を表すような美しいペアダンス
見どころ
本作は、『ダーティー・ダンシング』のような、ダンス・バトルを期待してみると、肩透かしにあう。
ディスコは、トニーという現代青年の象徴であり、テーマそのものではないからだ。
本作は、特に目的もなく、理想もなく、その日暮らしを楽しむ若者が、ステファニーという上昇志向の女性と出会い、自らの生き方を見つめ直す青春ドラマである。
幾多の解説にもあるように、トニーの時代もまた、エリアで区別された階層社会だ。
労働者階級の息子は、一生、労働者階級のまんま。正しく生きたところで、総理大臣や、大会社の社長になれるわけではない。
生まれた時から先が見えているのは、現代も70年代も同じで、トニーもまた運悪く貧乏な側に生まれてしまった一人である。
そんなトニーにとって、ディスコだけが、唯一、輝ける場所だ。
目の前の現実を忘れて、一晩中、踊り、楽しむことができる。
上昇志向のステファニーに対しては、反発もするし、人間としての怖れも感じるが、いつしか彼女の理想に感化され、トニーも真面目に人生と向き合うようになる。
そんな二人の心の交流が、美しいペアダンスとして描かれるのが、ビージーズの名曲『More than Woman』だ。
「女性以上の存在」というタイトルが表すように、それまで女性を性の対象としてしか見なかったトニーが、一人前の男性として、女性を敬い、愛する精神を身に付けた証しでもある。
下手にラブシーンを絡ませないのが本作の長所で、あくまで対等の男女として絆を深める様が素晴らしい。
70年代のディスコ文化も今となっては「おじいさんの思い出」という印象が否めないが、現代の若者が見ても、十分に共感できる良作である。
空前のディスコ・ブームとトラボルタの再起 『パルプ・フィクション』
『サタデー・ナイト・フィーバー』は、世界的なディスコ・ブームを巻き起こし、ジョン・トラボルタを一躍有名にした、70年代のアイコン的作品だ。
映画音楽を担当したビージーズのサウンドトラック盤も大ヒットし、テーマ曲である『Stayn’ alive』はいまだにFMラジオで流れる名作である。
日本では、『フィーバー』という言葉が大流行し、パチンコの777が「フィーバー」と呼ばれるようになったのもこの映画がきっかけだ。
ブームの後、すっかり忘れ去られたようなジョン・トラボルタだが、クテンティン・タランティーノの傑作『パルプ・フィクション』に再び登場し、ユマ・サーマンを相手に例の腰振りダンスを披露して、「この人、まだ健在だったんだ!!」と世界中の映画ファンの記憶が呼び覚まされたのは有名な話。
ちなみに、タランティーノ監督がトラボルタを起用したのは、やはり「サタデー・ナイト・フィーバー」に感銘を受けたからであり、再び映画界で活躍するようになったトラボルタの第二の成功を非常に喜んでいるそうだ。
ひたむきなステファニーと愚かな女アネット
本作の好ましい点は、新しいパートナーであるステファニーとの関係を、決してベタベタした恋物語にしなかったことだ。
この二人に「愛してるわ」「オレもだよ」という台詞を言わせてしまえば、ただのハーレクインロマンスに成り下がる。
あくまで「友情」として描き、ほんの少し、恋の兆しが芽生えたところで物語も終るから、観客もいっそう、その余韻に感銘を受けるのではないだろうか。
この感動的なエンディングで流れるビージーズのラブソング『How deep is your love(愛は静けさの中に)』では、トニーの想いを「Love 愛」という言葉で表現しているが、歌詞をよく見れば、トニーにとってステファニーがどれほど新鮮で、希望にあふれた存在であるかが伺える。
*
ステファニーとは対照的に、とことん醜態をさらすのが、トニーの元恋人で、ダンス・パートナーでもあるアネットだ。
デートの度に結婚の話を持ち出しては、トニーをうんざりさせ、しまいには「退屈」と言われてしまう。重い女の典型である。
男の気持が離れいくのが分かれば、ダンス教室の前で待ち伏せしたり、セックスで気を引こうとしたり。
避妊せずにトニーをセックスに誘い、「生はイヤだ」と断られると、「いいの、愛してるから」と迫って、軽蔑される。
それでもまだ空気が読めないアネットは、「これで大丈夫でしょ」と避妊具をトニーに手渡し、ますます嫌われてしまう。
極めつけは、ステファニーとペアを組んだ当てつけに、トニーの友人とペアを組み、しかもトニーの目の前で、仲間数人に輪姦されることだ。
「これで君も立派な娼婦だな」とトニーに言われるまで、自分の愚かさに気が付かないアネット。
しかし、こういう過ちを犯す女性は、少なくないのではないだろうか。
トニーの仲間からも「バカな女」と嘲られるアネットだが、本人は真剣そのもので、自分の考えは正しいと信じ込んでいる。
こういうタイプの女性は、次も、その次も、同じ過ちを繰り返して、「どうして、誰も私の良さを分かってくれないの」と嘆き続けるだろう。
*
それだけに、自分の人生を真っ直ぐに見つめ、努力を怠らないステファニーの姿が新鮮に見える。
トニーが、ベタベタと情だけで絡んでくるアネットより、仕事に打ち込み、自分を大切に生きるステファニーに心惹かれるのも当然と言えるだろう。
聖職者だった兄が辞職するなど、やりきれない出来事が立て続けに起こる中、しまいには仲間が自殺して、さすがに打ちのめされたトニーは、救いを求めるようにステファニーのアパートに向かう。
そこで二人が交わす、「友情から始めましょう」のひと言は、何にもまさる愛の言葉ではないだろうか。
ビージーズの名曲
自家製フィーリング訳です。本職ではないので、精度は問わないで下さい(^_^;
How deep is your love ~愛は静けさの中に
エンディングで効果的に使われていた曲です。
I know your eyes in the morning sun
I feel you touch me in the pouring rain
And the moment that you wander far from me
I wanna feel you in my arms again
And you come to me on a summer breeze
Keep me warm in your love and then softly leave
And it’s me you need to show
CHORUS:
How deep is your love
I really need to learn
’cause we’re living in a world of fools
Breaking us down
When they all should let us be
We belong to you and me
I believe in you
You know the door to my very soul
You’re the light in my deepest darkest hour
You’re my saviour when I fall
And you may not think
I care for you
When you know down inside
That I really do
And it’s me you need to show
CHORUS
repeat and fade
君の瞳の中に朝陽が見える
降り注ぐ雨の中で 君が僕に触れるのを感じる
君が僕から遠く離れている瞬間
僕はもう一度 腕の中に君を感じたいと思う
君は初夏のそよ風のように僕の側に来たならば
君の愛で僕を温めて欲しい
そして優しく遠ざかっておくれ
君が愛を示すべき相手は 僕なんだよ
君の愛が どれほど深いか
僕は本当に学ぶ必要がある
なぜなら僕たちは愚かな世界に住み
時に打ちのめされる
この世界において
僕たちがありのままの自分でいる時
僕と君はお互いのものなんだ
僕は君を信じるよ
君はまさに僕の魂の扉なんだ
君は僕のもっとも暗い時間において光のような存在だ
僕が落ち込んだ時 君こそが救い主
僕がどれほど想っているか
君は考えもしないのだろう
・・・??・・・
君が愛を示すべき相手は僕なんだ
Stayin’ Alive
映画のオープニングで、トラボルタが肩で風を切って歩く場面に流れる『スティン・アライブ』。
日本語に直訳すれば、「自分の生まれ育った環境を飛び出して、新しい明日を生きよう。誰かオレを助けてくれ。オレはまだイケてるぜ」みたいな歌詞です。
最初にロングショットで労働者階級の暮らす貧しい町並みが映し出され、そこを闊歩するトラボルタの姿が生き生きと描かれています。
いつの時代も、若者は人生が思い通りにならず、鬱屈するもの。
70年代だから、21世紀だから、恵まれている、ということはないです。
More than Woman
こちらは、ステファニーとのペアダンスで流れる曲。
最初のディスコダンス(トラボルタがソロで踊る場面)がキレッキレのアクロバティックな振り付けなので、コンテストもさぞかし派手とと思いきや……
ビージーズのバラードにのって、美しいペアダンスを披露します。
最初のソロダンスを、一人気ままに生きているトニーの心意気とするなら、コンテストのペアダンスは、一人の男として覚醒した、大人の踊りです。
Oh, girl I’ve known you very well
I’ve seen you growing everyday
I never really looked before
but now you take my breath away.
Suddenly you’re in my life
part of everything I do
you got me working day and night
just trying to keep a hold on you.
Here in your arms I found my paradise
my only chance for happiness
and if I lose you now I think I would die.
Oh say you’ll always be my baby
we can make it shine, we can take forever
just a minute at a time.
More than a woman, more than a woman to me
more than a woman, more than a woman to me
more than a woman, oh, oh, oh.
There are stories old and true
of people so in love like you and me
and I can see myself
let history repeat itself.
Reflecting how I feel for you
thinking about those people then
I know that in a thousand years
I’d fall in love with you again.
This is the only way that we should fly
this is the only way to go
and if I lose you I know I would die.
Oh say you’ll always be my baby
we can make it shine, we can take forever
just a minute at a time.
More than a woman, more than a woman to me
more than a woman, more than a woman to me
more than a woman, oh, oh, oh.
僕は君という女性をよく知っている
君は日に日に成長し
同じ姿を見ることはない
だけど今 君は 僕に溜め息をつかせるよ
突然 君は僕の人生に現れて
僕が生きて為すことの一部になった
昼も夜も 君は僕の心を揺さぶり続ける
君をずっと抱きしめたいと
君の腕の中は まるでパラダイスのようだ
幸福へと繋がるたった一つの希望
もし君を失ったら 僕は死んでしまうだろう
君はいつまでも僕の愛しい人だ
二人の愛を輝かせ
この一瞬を永遠にすることができる
君は女性以上の存在なんだ
ここに古いけれど真実の物語がある
僕と君のように 恋に落ちた人々の物語だ
その物語に 僕は自分自身を見出す
そして歴史が繰り返される
僕がどれほど君に惹かれているか
自分でも眩しいほどに感じる時
これらの人々のことを考えるんだ
この千年のうちに 僕は再び君に恋をしたんだよ
この恋だけが 未来へ旅立てる唯一の道
明日を生きるための唯一の道なんだ
もし君を失ったら 僕は死んでしまうだろう
君はいつまでも僕の愛しい人だ
二人の愛を輝かせ
この一瞬を永遠にすることができる
[自家製フィーリング訳]
【コラム】 君は女性以上の存在 : トニーとステファニーの絆
「若い」ということは、抜け道が無い事だ。
明日に続く道が長いからこそ、どこに向かって歩けばいいのか分からなくなる。
目の前に何も無いから辛いのではない。
あり過ぎるから、混乱するのだ。
もし答えが一つしかなかったら、迷うことはないだろう。
この苦しさを閉塞感と呼ぶのは、抜け道の前に「無知」という壁が立ちふさがっているからである。
道はどこへでも続いている。
一歩を踏み出せば、たいていの物事は解決する。
なのにその場でうずくまり、身動きが取れないのは、壁を越えるだけの知識もきっかけも無いからである。
トニーにとって、ステファニーは「扉」だった。
彼女はトニーに、ペンキ屋とは違う広い世界を教え、努力して人生を切り開くことを示した。
それまでもトニーは理屈としてそうした物事を知っていたかもしれない。でも、心を揺さぶるまでには至らなかった。
理屈は理屈に過ぎず、生きた知識として彼自身と一体になることはなかった。
しかし、トニーはダンスを通じて、ステファニーという「女性以上の存在」を腕に感じ、彼女との友情に一つの希望を見出した。
それは、彼女という存在が人生の一部になったように、彼女の持つ知識や向上心も彼の心の一部になったからである。
ステファニーは彼の心を開いたと同時に、無知の壁の前に閉ざされた彼の人生をも開いた。
彼女が「More than a Woman」 ――女性(あるいは恋人)以上の存在――と称えられる所以である。
Spotifyでサウンドトラック盤を視聴する
ビージーズが手がけたサウンドトラック盤はSpotifyで公開されています。
代表曲が全て収録されているので、入門編としてもおすすめです。
初稿 2010年4月24日