パンデミックの脅威を描く 映画『アウトブレイク』 ~なぜ感染症は水面下で拡大するのか

この記事はネタバレを含みます。未見の方はご注意下さい。

目次 🏃

映画『アウトブレイク』 あらすじと見どころ

作品の概要

アウトブレイク(1995年) ーOutbreak

監督 : ウォルフガング・ペーターゼン
主演 : ダスティン・ホフマン(サム・ダニエルズ大佐)、レネ・ルッソ(元妻ロビー 感染症対策チームメンバー)、モーガン・フリーマン(フォード准将)

アウトブレイク (字幕版)
アウトブレイク (字幕版)

あらすじ

アフリカのモタバ川流域で、多くの住民が正体不明のウイルスに感染し、体中から出血して死んでいく異常事態が発生する。
現地調査に赴いたアメリカ軍医学研究所のリーダー、サム・ダニエルズ大佐(ダスティン・ホフマン)は、軍に警戒態勢を進言するが、却下される。
しかし、その後、アメリカに不法に持ち込まれたサルから同様のウイルスが拡がり、大勢の市民が全身から出血して命を落とす。
エリア一帯がパニック状態になる中、サムは独自に調査を進め、ついに感染源であるサルの存在を突き止めるが、全米壊滅を恐れた軍部はエリア一帯を焼き払う、恐ろしい計画を遂行しようとしていた。
果たしてサムは軍の暴走を食い止め、血清を手に入れることができるのか――。

見どころ

本作は、致死率が高いことで知られる『エボラ出血熱』とエボラウイルスをモチーフにしており、パンデミックに至る感染経路、医療者の対応、軍の動員、病人の隔離など、現実に起こりうる事態をリアルに描いています。(映画では『モターバ・ウイルス』)

コロナ禍においては、改めてこの映画を見直した人も多く、現存の医療技術や生物学に基づいた内容が再評価されました。

バイオハザード(微生物災害)の作品ながら、軍事作戦や政治的駆け引きなど、サスペンスの要素も盛り込んでおり、最後まで目が離せません。

冷静沈着な軍医大佐を演じるダスティン・ホフマンをはじめ、モーガン・フリーマン、ケヴィン・スペイシー、ドナルド・サザーランドなど、渋い俳優が脇を固め、見応えのある社会派ドラマに仕上がっています。

【画像で紹介】 未知のウイルスとの闘い

密売人の男はサルをペットショップに持ち込むが、ペットショップのオーナーは買い取りを拒否する。
しかし、サルにバナナを食べさせる際、サルに指を噛まれ、モターバ・ウイルスに感染する。

アウトブレイク

アメリカ陸軍伝染病医学研究所では『モターバ・ウイルス』の存在を確認するが、その対応に動く前に、どんどん感染が広がっていく。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

買い取りを拒否された密売人の男はサルを公園で手放すが、その前に自身も感染し、移動中の飛行機の中で発症する。

空港には恋人が出迎えに来るが、男はそこで倒れ、彼女も汗や唾液に接触したことで感染してしまう。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

病院に運び込まれた密売人の男は身体中から出血し、死の床にある。
ダニエルズ大佐の妻で、専門医であるロビーは男から「最近、動物に触ったことは?」と聞きだそうとするが、答える前に絶命してしまう。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

さらに映画館では、彼らに接触した客(ウイルスのキャリア)がホール内でゴンゴンと咳をし、その唾液から場内の観客に一気に感染が広がる。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

さらに病院では検査技師の不注意からウイルスを含む血液が拡散。
重大な事態を引き起こす。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

感染した患者が次々に病院に運ばれ、町中がパニックに。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

道路は封鎖され、町中に軍隊が派遣される。
ウイルスのキャリアを一人でも町の外に出せば、アメリカ全土に感染が広がる恐れがあるからだ。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

感染した母親は、子供や夫と別れのキスを交わすこともできない。
家族に見送られながら、一人、隔離施設へと送られる。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

独自に調査を進めるダニエルズ大佐は、ついに密輸されたサルの存在をつきとめ、TVニュースを介して市民に危険を呼びかける。

このサルは、ウイルスの抗体を有する、唯一の『治療薬』でもある。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

感染の拡大を恐れる軍の上層部は、町に爆弾を投下し、患者ごと焼き払う作戦を実行する。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

一方、サルの捕獲に成功したダニエルズ大佐は「モターバ・ウイルスの治療方法が見つかった。爆弾を投下するな」とパイロットに呼びかける。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

キーファー・サザーランドが冷酷な上官を、モーガン・フリーマンが良心的な将校を演じています。

アウトブレイク ダスティン・ホフマン

映画の見どころ

ジャンルとしては「災害パニックもの」に分類されるのですが、医療や防疫の知識に基づいて忠実に描かれているため、非常にリアリティがあり、予備知識としても役立ちます。

それでいてエンターテイメントの要素もあり、話もテンポよく進むので、気軽に鑑賞できる、良質な作品に仕上がっています。

ダスティン・ホフマン&レネ・ルッソという組み合わせも意外ですが、それはそれで面白いかと。

脇で、モーガン・フリーマンとドナルド・サザーランドが共演しているのも、映画好きには興味深いです。

なぜ感染症は水面下で拡大するのか

※ 筆者は正看護師です。医療機関での臨床経験に基づいて、下記のコラムを記述しています。

「感染」は、一般人が考える以上に、身近に存在するものです。

決して表沙汰にならないだけで、世の中、これほど感染症例があるのかと、驚かされるほどです。

流感のように、社会的に認知され、治療法や予防法も確立している感染症なら対処もしやすいですが、中には性病のように沈黙の中で拡がっていくヒト-ヒト感染も存在します。ウイルス性肝炎も、決して遠い海の向こうの話ではなく、知らない間に感染し、いつの間にか抗体が出来ていた、みたいな人も少なくありません。マダニやネズミが媒介するウイルス性感染も、決して未開地に限った話ではありませんし、洪水や水遊びを通して、水中に生息する病原体を身体に取り込んでしまうケースもあります。

病原体がどれほど凄まじい感染力や増殖力をもつか、普通一般には想像しにくいですが、私たちはみな、細菌やウイルスにまみれて生活しているようなもの。

例えば、食パンを放置していると、いつの間にか青カビが発生しますね。

自分から食パンに青カビの胞子を擦り付ける人など皆無だと思います。

なのに、どこからともなく付着して、条件が整えば、あっという間に増殖してしまう。

それが人間の体内でも同じように起こります。

多くの人は、病原体に接触しても、自身の免疫機能によって打ち勝ってしまうので、発症しないだけ。

たとえ発症しても、「喉がイガイガするなぁ」ぐらいで終わってしまうので、気づかないケースが大半です。

だからこそ、知らず知らずのうちに、キャリアから病原体をうつされる危険性があるのです。

*

感染症について理解する上で、一番大切なのは、「感染」「陽性」「発症」の違いを知ることです。

メディアでも、一緒くたにして語られることが多いですが、それぞれに状況は異なります、

簡単にいえば、

『陽性』・・臨床検査において、(+)の陽性反応が出ること。あくまで化学的反応であり、病原体の有無を決定づけるものではありません。たとえば、臨床検査技師の操作ミスや、検体の保存状態によって、陽性反応が出ることもあります。また自己免疫疾患など、特殊な病気が原因で、陽性になることもあります。
臨床においては、患者の症状と併せて、総合的に診断します。

『発症』・・発熱、腹痛、発疹など、病原体に特有の症状が現れることです。

『感染』 ・・ ヒトや動物などから病原体に接触し、体内に取り込むことです。多くの場合、発症とペアで用います。たとえば、バスの中でインフルエンザにかかった人がゴンゴンと咳をすれば、周りにいる多くの人がインフルエンザのウイルスに接触します。でも、皆が皆、同じように発症するわけではなく、免疫機能でウイルスに打ち勝つ人もいれば、軽い喉の痛みぐらいで済む人もいます。臨床で、「感染ですね」と言うのは、高熱や咳嗽など、特有の症状が出た時です。

*

恐らく、一般人が感染症を甘く見るのは、「無症状の感染」について警戒心がないからだと思います。

「無症状=病原体が存在しない」ではなく、「ウイルスは持っているけど、発症しないだけ」という状態が想像できないんですね。

インフルエンザでも、「喉がイガイガする」ぐらいだと、自分も「喉の粘膜が腫れるほどのウイルス」を保持して、他人に感染させる危険性があると認識する人は少数でしょう。

確かに、「喉がイガイガする程度」であれば、他人に感染させる危険性は低いかもしれません。

しかし、赤ん坊や高齢者、基礎疾患のある人など、相手によっては、わずかなウイルス量でも、重篤な症状を引き起こすケースもあります。

自分が喉の痛みで済んだから、相手も大丈夫……とは限らず、たとえば、満員バスで、隣に座っている人が心臓や腎臓病の治療中であれば、自分の咳やくしゃみが原因で、重篤な感染症を引き起こす可能性は十分にあります。

感染症の恐ろしさは、自分自身も媒介者になり得る点で、「症状が無いから」というのは理由にならないんですね。

*

さらに怖いのは、性病のように、患者のプライバシーに直結する病気の場合、水面下で拡大しやすい点です。

特に、性病などは、ただちに高熱が出たり、出血したり、重篤な症状を引き起こすわけではありませんから、誰もが甘く見て、性的パートナーにも黙っているケースが大半です。

「股ぐらが痒いけど、まあいいか」ぐらいの考え方で、次々に性行為を繰り返し、感染を拡げていきます。

性病の有無は、場合によっては、結婚や就職に差し障ることもあるので、なおさらです。

中には、病原体を保有しても、まったく症状の見られない無症候性キャリアも存在しますし、検査をしても陰性で、スクリーニングをすり抜けるケースもあります。

医療機関が公表する数値は、あくまで病院で検査を受けて、正式に診断が下ったケースに限定されますから、実際には、それ以上の感染者が存在するものです。

皆が皆、発症するわけでなく、また、寄生主を即座に死に至らしめるわけではない――という点で、どんな感染症も決して甘く見てはならないのです。

*

インフルエンザでも、性病でも、「感染した」という事実は恥ずかしいものです。

仕事に行けない。

結婚が破談になった。

入院治療でお金もかかるし、生活もめちゃくちゃになる。

様々な理由から、症状を隠し、治療や定期検査を拒否する人も少なくありません。

しかし、その人が秘匿することで、何人、何十人が、感染の危険性にさらされ、最悪、死に至ることもあります。

「身体がおかしい」と感じたら、ただちに医療機関を受診して、指示を仰ぎましょう。

そうすることで、救われる命がたくさんあります。

隠せば、その人の生活は一時期、守られるかもしれませんが、何年も経ってから重症化するケースもあることを考えれば、早いうちに適切な処置をすることが、自身の為でもあるし、周りの為でもあると、お分かり頂けるのではないでしょうか。

細菌も、ウイルスも、人間から見れば、非常に微細な存在ですし、消毒液を振りかければ瞬く間に死滅する種類が大半です。

それでも彼らは生き物であり、自らが生き残る術を持っています。

人間は、居心地のいい培養器であり、増殖のスピードも、犬や猫の何百万倍です。

彼らが一度、暴れ出したら、人間の身体など美味しい食パンと同じ。あっという間に食い散らかされて、ボロボロにされます。

過度に恐れる必要はないけれど、「もしも」の時は、適切に対処することを心がけ、薬で治せるうちに、しっかり治療することをおすすめします。

初稿: 2014年10月10日

ダスティン・ホフマンとモーガン・フリーマンはこちらの作品にも出演しています
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  • 監獄島から脱出を試みる伝説の囚人『パピヨン』をスティーブ・マックイーンが好演。ダスティン・ホフマンは物静かな友人のドガを演じています。別れの場面が有名な70年代の傑作。

  • 神への回帰と殺してもいい権利 映画『セブン』と七つの大罪 
  • キリスト教『七つの大罪』をモチーフとした連続殺人事件に挑むベテラン刑事をモーガン・フリーマンが好演。ブラッド・ピットの出世作でもあり、トラウマ級のエンディングが有名。殺人犯ジョン・ドウはケヴィン・スペイシーが演じている。

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