映画『パピヨン』 あらすじと見どころ
パピヨン(1973年) - Papillon
監督 : フランクリン・J・シャフナー
主演 : スティーブ・マックイーン(パピヨン)、ダスティン・ホフマン(ドガ)
パピヨン-製作30周年記念特別版- [DVD]
amazonプライムビデオで視聴する
あらすじ
胸に蝶の入れ墨をもつ囚人『パピヨン』は、終身刑の判決をウケ、南米ギアナ等のデビルズ島の監獄に送られる。
過酷な強制労働で痛めつけられながらも、パピヨンは何度も脱獄を試み、その都度、独房に入れられた。
それでもパピヨンは自由を諦めず、仲間のドガを誘って、断崖絶壁から海に飛び込もうとする――。
見どころ
スティーブ・マックイーン主演の映画『パピヨン』(1973年)は、実在の囚人、アンリ・シャリエールの自伝小説をベースに製作されました。
絶海の孤島、南米ギアナのデビルズ島に流され、死ぬまで強制労働が科せられる運命だったが、パピヨンは脱獄を計画し、偽札作りの天才ドガと組んで、刑務所を抜けだそうとする。
だが、ドガは足に大怪我を負い、パピヨンとは異なる運命を歩むことになる――。
物語に複雑なプロットはありませんが、人が人として扱われなかった時代の話、過酷な強制労働、刑務所の劣悪な環境など、当時の凄まじさが伝わってきます。
そして、このような状況に何十年も置かれたら、普通は諦め、生きる気力もなくすものですが、パピヨンは最後まで諦めず、運命の潮流に己の人生を賭けます。
スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの名演もさることながら、ラストのダイビングは映画史に語り継がれるもので、実際に人が飛び込んでいるのだから、迫力が違います。
どこかもの悲しい主題曲と相成って、今なお語り継がれる70年代の名作です。
ドガは本当に負け犬なのか?
映画『パピヨン』は、『風と共に去りぬ』と同じく、世界中の誰もが結末を知っている名作なので、それを前提に書きます。
本作は、殺人の濡れ衣を着せられた『パピヨン(蝶)』の入れ墨をもつ男(スティーブ・マックイーン)が、何度も脱獄を図っては失敗し、ついには断崖絶壁から海に飛び込んで、自由を得る物語です。
映画の感想となると、十中、八九は、海に飛び込んだパピヨンが英雄視され、その場に残ったもう一人の囚人ドガ(ダスティン・ホフマン)は、海に飛び込む勇気のない、負け犬のように言われますが、果たしてそうでしょうか。
私も、10代、20代の頃なら、「パピヨンが格好いい! やはり人間はかくあるべし」と単純に賞賛していたかもしれません。
しかし、年を重ねてから見ると、その場に残ったドガにも、ドガなりの矜持と諦観があるような気がしてなりません。
ラスト、断崖から飛び降りることを決意したパピヨンと、それに気圧されるように付いて行くドガ。
しかし、寸前になって、ドガはこの島に留まることを決意します。
前回の脱獄で足に大怪我を負い、今も不自由な身であるドガにとって、断崖から海に飛び込むなど、それこそ自殺行為だからです。
パピヨンはドガの心情を理解し、今生の別れを告げます。
命がけで海に飛び込み、椰子の実の筏にしがみつくパピヨン。
それを見届けるドガ。この微笑みは友の勇気と幸運を心から祝福している。
だが、次の瞬間、ドガの微笑みは涙顔に変わる。
この表情を、「パピヨンのように飛べなかった自身への悔い」と取る人もあれば、「友と別れた悲しみ」と感じる人もあります。
あるいは、これからも延々と続く孤独と貧窮に対する絶望。
自身の無力を恥じる涙、等々。
解釈は人それぞれです。
しかし、ドガはパピヨンのように、遠くまで泳げる体力も気力もなく、自身で「ここまでが限界」と知っています。
パピヨンと同じように断崖から飛び込んでいたら、大海原のど真ん中で力尽きたかもしれません。
そう考えると、ドガはドガなりに自分を貫いたと言えるし、死ぬまであの島で暮らしたとしても、それはそれで納得したのではないでしょうか。
一般論では、パピヨンの方が勇ましく、理想的な生き方と語られますが、ドガにもドガの考えがあり、ドガらしい人生があります。
どちらが勝者、どちらが負け犬という訳でもありません。
どんな人生であれ、最後まで生き抜いたなら、ドガも「悲運に打ち克った」と言えるのではないでしょうか。
飛べない蝶にも意味がある。
それはダスティン・ホフマンの演技を見れば分かります。
amazonのレビューに「ダスティン・ホフマンが演じる意味があったのか」というコメントがありますが、ラストのあの表情は、ダスティン・ホフマンでなければできない演技でしょう。
ちなみに、断崖から飛び降りるスタントは、人形ではなく、伝説のスタントマン、ダー・ロビンソンです
スティーブ・マックイーンがラストに叫ぶ、Hey, you bastards, I’m still here! (お前ら、くそったれども、オレはまだ生きてるぞ!)という台詞がいいですね。
「You」の意味は、意地悪な看守や、逃げ出す勇気のない囚人ではなく、「試練を与えた神や運命に対して」という見方もあり、私も大いに共感。
また、こんな風に、10代20代とはまったく違った解釈ができる点が、年齢を重ねることの面白さかもしれません。
※ 社会(現実)の囚われ人となっても自由を諦めないパピヨン