「楽しいことだけ考えて、安らかに暮らしたい気持ちは俺も同じだ。何かあっても、見て見ぬ振りができたら、どれほど楽か知れない。だが、それは俺の生き方では断じてないし、父の教えとも違う。そこから離れたら、自分が自分でなくなってしまう」
「それも分かるけど、その為に不幸になったら、本末転倒でしょう。あなたは新しい価値観を恐れてるんじゃない? 幸せになるということは、新しい考え方を受け入れることよ。『こうあるべき』という先入観を手放して、今まで考えもしなかった生き方を選ぶの。それは一時期、あなたを不安にするかもしれないけど、もしかしたら、その中にこそ本当の救いがあるかもしれない。あなたのお父さんも、洪水の記憶にがんじがらめになって、一生不幸に過ごすことは望んでないはずよ」