泣き虫の殺し屋 ニキータ ~不良少女から大人の女へ
映画『ニキータ』について
リュック・ベッソン監督の代表作といえば、圧倒的にジャン・レノ主演の『LEON』が有名ですが、私の一押しは、不良少女の暗殺者を描く『ニキータ』です。
『ニキータ(Nikita)』は、フランス映画界の新星、アンヌ・パリローを主役に迎え、不良少女ニキータを一流の暗殺者に育て上げる秘密警察官に実力派のチェッキー・カリョ、ニキータの恋人となるマルコをジャン=ユーグ・アングラードを配して、1990年に公開されました。
リュック・ベッソンにとっては、伝説的な海洋映画『グラン・ブルー』に引き続きの野心作で、世界的な知名度は今一つでしたが、不良少女が秘密警察の特訓を受けて、華麗なる女暗殺者に転身する設定や、上司や恋人との淡いロマンスがファンの心に深い余韻を残し、後に、ハリウッドやTVシリーズでリメイクされるほどの人気となっています。
本作の特徴は、主演のアンヌ・パリロ-の小悪魔的な魅力はもちろん、映画全体に漂うクラシックな雰囲気や、恋と殺しを絡めたお洒落な演出など、数ありますが、最大の見どころは、往年の大女優ジャンヌ・モローがニキータの教育係として出演している点でしょう。
今となっては、ジャンヌ・モローが誰かも知らない世代が圧倒多数を占める中、ジャンヌが画面に登場しただけで、場の雰囲気がびしりと決まるのは流石。
元女スパイとして、ジャンヌがニキータに教え諭すことは、若き女性に向けたメッセージでもあります。
ニキータが単なるアクション映画ではなく、大人の女の成長物語として記憶されるのは、新旧女優のやり取りと、ジャンヌの圧巻の存在感ゆえでしょう。
ベッソン監督も、すっかり一流の仲間入りを果たし、ニキータのように、『古き佳き時代のフランス』を感じさせる作品はなくなりましたが、本作に描かれるフランスは、まさに我々が夢見たフランスであり、近年のヒット作しか知らない方にもぜひ見て頂きたい良作です。
しかし出口のない暗黒の世界で、真実の愛を知った時、彼女の中で何かが動き始める・・・。
『サブウェイ』(84)『グレートブルー』(88)で若者に圧倒的支持を得たリュック・ベッソン監督が、斬新な映像とパワフルなアクションで描く、エレガントなヴァイオレンス・ムービー。
主演のアンヌ・パリローは1年に渡って格闘・射撃訓練を行い、その身のこしには本物の迫力がある。
またベッソン監督おなじみのジャン・レノは、もうけ役で印象は強烈である。(証拠隠滅する”掃除屋”として登場)
【画像で紹介】 ニキータの物語
ここからネタバレします。未見の方はご注意下さい。
重度の薬物中毒で、町のならず者でもある少女・ニキータは、不良仲間と共に小売店に強盗に入り、警官二人を撃ち殺す。
死刑を言い渡されたニキータは、薬物を注射され、そのまま絶命するはずだったが、気がつけば、殺風景な施設の一室に寝かされていた。
政府の秘密警察官ボブ(チェッキー・カリョ)は、警官二人を殺害した償いとして、ニキータに政府のために働くことを要求。
逆らえば、死刑に処されると知ったニキータは、渋々、ボブの言いつけに従い、柔道や射撃訓練を受けるが、まるでやる気がなく、成績も最悪だ。
このままでは暗殺者どころか処刑所に逆戻りだと諭され、途方に暮れたニキータは、元・女殺し屋で、ニキータの教育係でもあるアマンド(ジャンヌ・モロー)の私室を訪れ、暗殺者としての手ほどきを受ける。
ようやく自らの使命に目覚めたニキータは、めざましい成長を遂げ、ジョゼフィーヌというコードネームで政府の汚れ仕事を引き受けるようになるが、孤独な日々は相変わらずだ。
そんな中、スーパーマーケットのレジ係であるマルコと知り合い、二人は同棲を始める。
素性を隠して、恋人らしい幸福を満喫するが、政府の指令は容赦ない。
恋と暗殺者の狭間で揺れるニキータは、血生臭い事件に巻き込まれ、逆に政府に追われる身となる。
(この時、『掃除屋』として登場する男性殺し屋・ヴィクトルが、後の『レオン』のモデルとなります。同じジャン・レノが演じています)
以前から、ニキータの正体に気付いていたマルコは、ニキータの身を案じて、一計を案じるのだった――。
女は美しさを利用して成長する
特に好きなのが、アマンダ(ジャンヌ・モロー)とニキータのやり取り。
特訓を始めたものの、教官をおちょくるばかりで、ちっとも真面目に学ぼうとしないニキータに、元・女殺し屋でもあるアマンダは、ぼさぼさ頭のニキータに、こう言って聞かせます。
どう振る舞えばいいか分からない時は、微笑みなさい。
知的に見えなくても、相手に好感を与えるわ。テレビ洋画劇場でのセリフです。ここだけ完璧に覚えました。
「好感」よりも「知的」を優先する。
これぞヨーロッパ女性の価値観ですね。
それもジャンヌ・モローのような大女優が口にすると、ひれ伏しそうになります。
私もこのセリフで『ニキータ』の大ファンになりました。(この場面だけ繰り返し見てしまう)
こちらが二度目の邂逅。
ボブから「真面目に取り組まないなら、次はない(今度こそ死刑になるぞ)」と最終通告を受けて、ニキータは再びアマンダの部屋を訪ねます。
その時、ニキータが彼女の手をじっと見つめ、アマンダがこう答えます。
今は皺だらけだけど。
この「手」に、女性の美しさと儚さ、人生の変容、容赦ない老い、思い出、切なさ、生き様、、、いろんなものがギュっと詰まっていて、それを大女優ジャンヌ・モローが口にすると、何とも言えない味わいと迫力があるんですよね。(生身の女としての実感がこもっている)
そして、このセリフの後の、笑顔がすごくキュートで清々しいんですよ。
老いても悔いなし。
若さと美しさを精一杯生きた、充実した女の微笑みだと思います。
その後、ジャンヌはニキータをドレッサーの前に座らせ、口紅を手に取らせます。
ルージュを引くのよ。女の本能のままに。
この世には無限のものが二つある。
女の美しさと、それを利用すること。>DVDの日本語字幕と異なりますが、TV洋画劇場では上記のように言ってました
一度でいいから、こんなこと言っていみたいですよね。
この場面は、女性としても、女優としても、超一流の大先輩から、これから華を咲かそうとする若い女性への美と叡智のエール(あるいは、バトン・リレー)という感じで、ニキータという作品の魅力が凝縮されていると言えます。
リュック・ベンソンが、この作品にジャンヌ・モローを引っ張って、この場面を撮らせたのは英断です。
次の場面で、ニキータは華麗に変身。
この映画は本当に『女性』の描き方が上手いです。
女性にとって「メイクアップ道具が使いこなせる」って、一つの成熟の証ですからね。
二人の男とニキータの恋
本作には、二人の男が登場します。
一人は、ニキータを導く、政府の秘密捜査官ボブ。
もう一人は、レジ係のマルコです。
でも、どちらがニキータを深く愛していたかといえば、やっぱボブの方かな、という気がします。
不良少女の時から、手をかけ、目をかけ、心を注いでいただけに、思い入れも半端ない。
初めての仕事で身も心もボロボロになったニキータと「別れのキス」をする場面。
さらっと口づけを交わして、いかにも「おフランス」な雰囲気がいいです。
カリンチョさまの切なげな眼差しがたまらん..
スーパーマーケットで知り合った恋人のマルコも、まめで、優しくて、私にも譲って欲しいです。
彼氏が朝食を作って、ベッドまで運んでくれるのは、女性の永遠に憧れ(?)ですね。
こちらは、旅先に下された殺しの司令。
隣室にはマルコが居るのに、バスルームから標的に銃を向けるニキータの悲しみと緊張感がたまりません。
もしかしたら・・と、最後の瞬間まで冷や冷やさせられる。
「殺し」の場面も、恋人たちの不安や絆を絡めて、スリリングに描いているのがこの作品の魅力です。
そんでもって、「おフランス」らしく、衣装がファッショナブル。
私もこんな帽子かぶって歩いてみたいです。
終盤も、男二人がしんみり語り合い、傷ついた小鳥をそっと逃がすような、余韻の残るエンディングでした。
私も「アレ」に何が書いてあったのか、知りたいです。
ボブへの愛の言葉?
それとも感謝?
永遠に教えてはもらえない。
それがボブに対する最大の仕返しであり、愛の証……みたいなシナリオが素晴らしいです。
(余韻を残して去って行くのは、女の鑑)
エリック・セラの映画音楽と最初の司令(高級レストランにて)
サヌドトラックを手がけているのは、ベッソン監督御用達のエリック・セラ。
全体にJAZZYな印象で、エンディングの『The Dark Side of Time』、殺しの場面でかかる『MPOLKMOP』も、一度耳にしたら忘れられません。
最初の暗殺司令も、クールかつゴージャス。
皆、このカメラワークに度肝を抜かれたのではないでしょうか。
『誕生日のプレゼント』と差し出され、喜んで開けてみれば……女性にとってホント残酷な展開です。
だからこそ、暗殺者として腹を括ったニキータの強さと、最後の決断に説得力があるんですよね。
『ニキータ』のオリジナル・サウンドトラックは、Spotifyでも視聴できます。