映画『ドリームガールズ』の魅力
作品の概要
ドリームガールズ(2006年) - Dreamgirls
監督 : ビル・コンドン
主演 : ジェニファー・ハドソン(エフィ)、ビヨンセ(ディーナ・ジョーンズ)、ジェイミー・フォックス(プロデューサー・カーティス)、エディ・マーフィー(人気歌手・ジミー)
カーティスの売り出しが功を奏し、三人は『ザ・ドリームズ』としてヒット曲を連発するが、カーティスは最も歌唱力のあるエフィをセンターから外し、容姿の美しいディーナをリードヴォーカルに抜擢する。エフィは心を傷つけられ、何かと反抗的になり、とうとう『ザ・ドリームズ』を脱退する。
ディーナをメインとした『ザ・ドリームズ』は世界的人気となり、ディーナとカーティスは結婚するが、エフィは一人娘を養うシングルマザーとして生活苦に喘いでいた。
そんなエフィを昔から知るマーティー(ジミーのマネージャー)は、エフィを励まし、エフィは再びナイトクラブで歌うようになる。
だが、エフィの復帰を警戒するカーティスは、エフィの曲を横取りし、ディーナに歌わせて、エフィの心を傷つける。
真相を知ったディーナは、ようやく自分を取り戻し、もう一度、『ザ・ドリームズ』の原点に戻ることを誓うのだった……。
『ザ・ドリームズ』は、1960年代から1970年代にかけて世界的人気を博したアフリカ系女性ソウル・グループ『スプリームス』をモチーフにしており、ディーナのモデルは、ダイアナ・ロスと言われている。ちなみに、日本では『シュープリームス』の愛称で親しまれている。
ダイアナ・ロスといえば、日本のトレンディドラマ『想い出に変わるまで(内館牧子・脚本)』の主題曲として使われた「If We Hold On Together」が有名。
ちなみに『想い出に変わるまで』の主演は今井美樹、恋人役は、当時、人気ナンバーワンだった石田純一で、松下由樹が演じる妹と純一の取り合いになるという、私生活を彷彿とするような三角関係ドラマだった。本当にそれでいいのか、純一? と問い質したくなるようなエンディングである。
本作、『ドリームガールズ』も、エフィとディーナのセンターの取り合いがベースになっており、実際に、シュープリームスでも、似たようなことがあったらしい。(Wikiを参考に)
歌唱力で差を付けられるならともかく、『顔』が理由というのは、誰だって怒る。
本作も、ぽっちゃり体型で、声の太いエフィより、見た目が美しくて、声の繊細なディーナの方が大衆受けするという理由で、リードヴォーカルを交代させられた。
エフィの気持を考えれば、怒って当然だし、皆がエフィを「我が侭」と責めるのも納得がいかない。
それでも最後はハッピーエンドだし、エフィを演じたジェニファー・ハドソンも、挿入歌『Listen』が大ヒットとなったビヨンセも、歌唱が素晴らしいので、ソウル系が好きな人は一見の価値あり。
一方、人気シンガージミーの凋落を通して、ショービジネスで使い捨てにされる現実も描いており、見応えのあるドラマに仕上がっている。
映画の見どころ
リードヴォーカルは歌より『顔』で決まるのか?
上記にもあるように、
『顔がイケてないから、リードヴォーカルを降ろされる』
そんな理不尽な目に遭ったら、誰でも怒り狂うし、馬鹿らしくやってられないのが人情だろう。
いよいよ世界ツアーに向けて、大勝負に出るという時、カーティスは長年リードヴォーカルを務めた実力派のエフィをバックコーラスに回し、美しいディーナをリードに据える。
これにはディーナも戸惑い、「今まで通り、エフィを中心に」と辞退するが、カーティスは頑として譲らず、スタッフも「ザ・ドリームズを売り出すため」とエフィを説得する。
若者の間で人気が出ればいい。
(エフィーは)個性的過ぎるんだ。大衆には軽い声の方がウケる。
僕たちはファミリーだ。助け合おう。
「ツアーの間だけ」という約束で、エフィはリードをディーナに譲るが、ディーナばかりが女神のようにもてはやされ、エフィはいっそう心を傷つけられる。
録音中にわざと甲高い声を出したり、生中継中にステージを去ったり。
エフィの我が侭に、ついに堪忍袋の緒が切れたカーティスは、エフィを「ザ・ドリームズ」から外し、新しいシンガーを迎え入れる。
エフィは仲間とも決裂し、カーティスもエフィに別れを告げる。
去って行くカーチェスに、エフィは「あなたを離さない 何があろうと あなたなしでは生きていけない」と全身で訴えかける。
この時、ジェニファー・ハドソンは、若干24歳。
本作の代表曲、『And I Am Telling You I’m Not Going』を熱唱する。
I am changing ~ジェニファー・ハドソンの熱唱
その後、ディーナを中心に、『ザ・ドリームス』は世界的スターとなるが、エフィは貧しいシングルマザーに。
歌うこともやめ、日々の暮らしにも困窮している。
そして、ようやく有名クラブのオーディションのチャンスを得たものの、拗ねて、文句ばかり言うエフィ。
そんなエフィに、ジミーのマネージャーで、駆け出しの頃を支えてくれたマーティーは言う。
実力を出すのを恐れて言い訳をするのは止めろ。
全力でぶつかれ。
みな、そうやって生きてる。
それともカーティスの言う通りか。
いいとこ取りして、責任を果たさない人間か。
叱咤されたエフィは心を入れ替え、力を振り絞るように『I am changing』を熱唱する。
この場面はカメラワークも素晴らしく、オーディションから本番のステージに、自然に切り替わる演出が素晴らしい。
今のあたしは昔とは違う女
そう努力したから
今のあたしは昔とは違う
心を入れ替えたから
もう過ちは犯さない
自分に誓ったの
しっかり立ち直る自信がある
だけど支えて
あなたの手で あたしを支えて
愚かだった
今までのあたし
一人で突っ張って
大勢の友だちを失った
一人で眠れぬ夜を過ごし
誤った道を歩き続けた
空しい思いを抱えて
暗闇の閉ざされた 長い年月を過ごし
ものを見る目を失った
でも 今 目が開いた
今のあたしは昔と違う
そう努力したから
でも誰か友だちが欲しい
その支えで 最初からやり直せる
お願いだから力を貸して
今度こそ 立ち直ってみせる
そう 今度という今度こそ
今のあたしは 昔とは違う女
今度こそ人生の再スタート
自分を変えてみせる
そして すべてをやり直す
今までのことは すべて過去に葬って
今日から生き方を変えよう
そう誓うわ 心の底から
もう誰もあたしを止められない
Listen ~ビヨンセの熱唱
一方、ディーナは、カーティスと結ばれ、世界を代表するシンガーになるが、『カーティスの人形』のように、生き方も、芸能活動も束縛され、何一つ自由にさせてもらえない。
カーティスは、ようやく再起したエフィの持ち歌まで横取りし、活動を妨害する。
真相を知ったディーナは、共に歌っていた頃のことを思い出し、私の心の声を聴いて欲しいと熱唱する。
本作では、大スターであるビヨンセが新人のジェニファー・ハドソンを盛り立て、決して出しゃばらない点が好感がもてる。
『Listen』は、ビヨンセの持ち歌として大ヒットしたが、映画中でも非常に印象的。
【音楽コラム】 ソウルな歌唱とは自我の発露
ジェニファーの歌は、とにかくソウルフル。
全身から絞り出すような歌唱で、妥協とか、計算とか、一切感じさせない実力派シンガーだ。
ホイットニー・ヒューストンの追悼コンサートでも、その他の大スターを差し置いて、ホイットニーの代表曲『I’ll always love you』を熱唱し、世界中に称賛された。
(参考 アメリカ人に「ホイットニー・ヒューストン」と言うと爆笑される理由)
世界には「ソウルフルな歌い手さん」は大勢いて、「あぁあ~」と力強くシャウトすれば、ソウル! みたいな雰囲気だが、「本物のソウル」と「表面的なソウル」は雲泥の差で、何が違うかと言えば、「どこまで自我を発露できるか」ではないだろうか。
誰でも、怒ったり、悲しんだり、振りは出来るし、野太い声で「あぁあ~」とシャウトしておけば、下手なカラスでも上手に聞こえる。
しかし、もう一歩、踏み込んで、耳を傾ければ、上っ面で歌っている人と、魂で歌っている人の差は歴然としている。
前者はカラスのように通り過ぎるが、後者はジェニファーの I am changing のように、ぐっと引き込まれるからだ。
24歳のジェニファーに、エフィのような過酷な体験があったとは考えにくいが、それに近い感情を掘り起こして、我が事のように表現することができる。
怒りも、悲しみも、隠そうとしないし、自分が自分であることを恐れない。
いわば、自我の袋を完全に裏返して、全て見せるような、強さと激しさがあるのだ。
その源泉は何かといえば、想像力に他ならず、たとえ自分が経験しなくても、あたかも経験したように歌って聴かせるのが歌手というもの。
「お洒落に見られたい」とか「大勢に気に入られたい」とか、感情よりも計算が先立つようではダメなのだ。
ジェニファーの歌は、さながら自我が発露するように、純粋で、力強い。
シャウトではなく、喉の強さがそれを支えているのが味わい深い。
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