寺山修司の詩『ダイヤモンド』~ほんとに愛し始めた時だけ淋しさが訪れる

木という字を一つ書きました

一本じゃかわいそうだから

と思ってもう一本ならべると

林という字になりました

淋しいという字をじっと見ていると

二本の木が

なぜ涙ぐんでいるのか

よくわかる

ほんとに愛しはじめたときにだけ

淋しさが訪れるのです

愛さないの、愛せないの (ハルキ文庫)

人は、独りで居る時は、孤独を感じない。

他者の存在を意識した時、初めて自分が独りであることを痛感する。

二本の木のように、歩み寄ることも、立ち去ることもできず、無言で立ち尽くすしかないから。

愛のない心に、誰かが入り込む余地はなく、独りで居れば、傷つくこともない。

だが、それが、人間らしい生き方かと問われたら、ちょっと違うような気がする。

淋しさを感じたら、人を愛し始めた証し。

二本の木は、互いに涙しながらも、その水を糧に生きていく。

独りぼっちの木が、いつか立ち枯れるのは、誰かの為に泣くことも、泣かされることもないからです。

ダイヤモンドについて ~『夢見るジュエリ』より

岩田祐子氏の宝石エッセイ『夢見るジュエリ(東京書籍株式会社)』によると、

数億年の昔、地底の岩石に含まれた炭素が、数千度という高温にあぶられ、計り知れない高圧にしめつけられて結晶したのが、ダイヤモンド。あるとき火山が爆発し、地表近くにふきあげられたのです。古くは「アダマス(「征服されざる石」というギリシャ語)と呼ばれ、その硬さから不屈の精神の象徴として、兵士の護符とされました。ナポレオンも自らの剣に有名なダイヤモンド「リージェント」を飾り、戦場に出掛けたといいます。

それほどに純度の高い宝石ですから、二人の気持ちに少しでも嘘が混じっていたら、必ず邪魔をするほど強いパワーを秘めています。

結婚指輪として需要の高いダイヤモンドですが、裏切りにはそれ以上の報いがある魔法石なので、心が離れた時には、寺山修司の詩のように、人間関係の厳しさと淋しさを思い知らせるのかもしれません。

岩田氏も言及されていますが、実はダイヤモンドほど結婚指輪に不向きな石もなく、美しければ美しいほど、純粋であればあるほど、人間の裏切りを決して許さないのです。

書籍案内

『ダイヤモンド』は、寺山修司の詩集『愛さないの、愛せないの』の「宝石館」の章に収録されていますが、現在、この本は入手困難になっています。
『ガーネット』は寺山修司の『少女詩集』で読むことができます。

愛さないの、愛せないの (ハルキ文庫)
愛さないの、愛せないの (ハルキ文庫)

こちらもおすすめ

私の最愛の詩です。寺山修司らしさがぎゅっと凝縮された、宝石みたいな詩です。

なみだは にんげんのつくることのできる 一番 小さな海です ~寺山修司の海の詩

宝石の詩シリーズの中から、婚約の悦びを綴った『ガーネット』もおすすめ。

寺山修司 宝石の詩『ガーネット』 ~婚約の指輪

誰かにこっそり教えたい 👂
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次 🏃