心に残る演奏を ~吹奏楽コンクールの思い出

夏の盛り、全国高校野球大会が始まる季節になると、世間の目は甲子園に注がれますが、同時期、深く静かに高校生のバトルが繰り広げられる世界があります。

それが、高校野球と同じ、朝日新聞社主催、吹奏楽コンクール。

甲子園ほど話題にならず、陸上のインターハイほど華やかさもありませんが、吹奏楽部員にとっては一年で最もテンションの上がるイベントでございます。これに学生生活と学校の名誉を懸けているクラブも少なくありません。(万年銅賞の学校には、そこまでの熱気はないが)

しかしながら、この時期、吹奏楽部員にはもう一つのプレッシャーがあって、ダブルイベントの重圧に苦しむこともあります。

それが野球部の応援です。

たとえ万年Cクラスでも、市内大会に出場し、腕試ししたいのは、どこの野球部も同じこと。

となると、当然、同窓生も応援に駆けつけねばなりません。

まあ、真夏の暑い最中、そこまで律儀に学校のイベントに参加する生徒も僅少ですが(全国区レベルの強豪は別として)、その際、必ずお声がかかるのが「吹奏楽部」。

他校もベンチでどんちゃんやるんだ、お前らも応援に来い! ということで、野球部が勝ち続ける限り、吹奏楽部もお付き合いは必須です。

自分たちもコンクールの練習がしたいのに、野球部の応援もこなさねばならず、まあ、結構な大仕事ですよ。特に打楽器は。女の子が大太鼓やドラムセットをバス駐車場からスタンドまで運んでも、だーれも手伝ってくれないのが日本社会(^^;) 私もいつも腕がちぎれそうな思いで太鼓類を運んでおりましたが、今思い返しても、部活=クロネコヤマトという感じです。おまけに「女の子がドラム叩いてる」ということで、じろじろ好奇の目で見られるしね。

幸い、うちの野球部はあれだったので、二回もお付き合いすれば解放されたのですが、それが終わると吹奏楽コンクールに向けて猛特訓。クーラーもない、騒音防止で窓もしめきった教室で、だらだら汗をかきながら、ひたすらシンバルやロールの練習に打ち込むわけですが、それでも楽しかった。演奏が……というより、あの緊張感と高揚感が、です。

にもかかわらず、今も後悔していることがあります。

それは、高校二年生の時、突如「下手くそコンプレックス」に陥り、全力で演奏できなかったこと。

私の場合、先輩が余りに上手すぎて、どうしてもそれと比較せずにいなかった。

なまじ自身の技量を客観的に判断できる耳があっただけに、「先輩のように演奏できない」プレッシャーに襲われて、最後まで全力を尽くすことができませんでした。自分は下手だ、下手だと思い込み、何をやるにも萎縮して、「みな心の中で嗤っているのではないか」と、そこまで思い詰めてしまったからです。

コンクールの後、録音テープを聴くと、そこまで下手ではなかったのに。

人間の劣等感って、ほんと、罪悪。

悪魔の域だね。

こういう時、鈍感で、脳天気な人の方が強い。

結局のところ、演奏の良し悪しは、自分でどこまで信じられるか、に尽きるのかもしれません。

実際、堂々と演じている人の音には華がある。

多少粗くても、音が掠れても、「この人、ナルシスト?」というくらい、自分で自分の演奏にのめり込める人は上手に聞こえます。(高校生の吹奏楽レベルなら)

そして、そうなるには、下手でも、粗くても、「自分の演奏が好き!」という気持ちが根本的になければダメ。

もちろん、指導者の助言に耳を塞ぐのはNGだけども、必要以上に自分を責めれば、出る音も出せなくなる。

それは本番でも萎縮させるし、萎縮する人は、元々どれほど技量があっても、どこかで失敗してしまう。

どうにか本番をやり過ごしても、不完全燃焼の記憶だけが残って、いついつまでも、あの時の演奏が好きになれずに終わってしまうんですね。

きっと今年も大勢の吹奏楽部員がコンクールに向けて練習中でしょう。

でも、過ぎ去ってみれば、本当に心に残るのは、全力を出した思い出だけ。多少躓いても、思うような結果が出せなくても、「自分の思い描く音楽を伸び伸び演奏できた」という充足感に勝るものはありません。(全国区の常連レベルなら、考え方も違うだろうけど)

萎縮した舞台は、たとえクラブ全体が金賞を取ったとしても、自分の中ではいつまでも苦い思い出として残るでしょう。

自分がその最中にいる時は、「一期一会」、いわばテニスにおける「この一球!」みたいな心髄は分からなくて、ただただ先輩に言われた通り、楽譜通りに演奏するのが全てになってしまうけど、長い人生において吹奏楽で火花を散らせるのも、ほんの二年か三年のこと。ましてコンクールはどう頑張っても三回しか経験できない。悔やんでも、反省しても、二度と帰らぬ日々です。

そう思うと、「上手く演奏する」よりも、自分が納得できる演奏──不安やコンプレックスから心を解き放って、今、自分がこの舞台に立っている悦びを音に表せるような気持ちを大事にすべきだと思いますよ。全国区レベルは別としてね。

私は高校三年の最後のコンクールで挽回して、本当に(自分の中で)素晴らしい演奏ができたし、審査員にも絶賛コメントをもらった事が今もいい思い出です。
また、そういう時の演奏って、オーラが出るというか、大勢の中でも際だって、客席の隅々にまで響くんですよね。

どん底も嬉しい結果も両方経験して、今も吹奏楽やってる高校生が羨ましいです。

皆さんにも、素晴らしい演奏の思い出ができますように。

目次 🏃

演奏リスト

吹奏楽部の思い出といえば、これ。序曲「祝典」(フランク・エリクソン)
私もスネアドラムがやりたかったけど、先輩のお家芸なので、後ろでシュンとしてました。
曲自体もそうですが、今聞いても、切ない。。
でも経験した楽曲の中では一番ロマンティックで、メルヘンな青春時代にぴったりな旋律だと思います。

1978年課題曲のジュビラーテ。これも大好きな曲。
YouTubeのコメントにあった「ホルストの惑星をイメージした」って、なるほど『木星』っぽいところがある。
最初の食いつきも、各楽器のソロも本当に綺麗。
この時も私は手持ちぶさたで、トロンボーンやってる友人の足元でいじけてました。
それを慰めるように演奏する友人の横顔を見上げながら、「高校で吹奏楽部やってよかったな」としみじみ思ったものです。

これのシロホン&グロッケンシュピールを担当して、審査員にお褒めの言葉をもらった。
演奏を劇的に変えたのは、芸大生のOBの一言。「連打はクレッシェンドに叩け」
それで初めて、打楽器の表情の出し方を理解したような。
その時、既に高三。もっと早く聞きたかった。。

吹奏楽部員でこの曲に憧れないヤツはない。大江戸捜査網のOPというよりは、全国の吹奏楽マニアの為に作られたテーマ曲のよう。そんでもって「インヴィクタ序曲」に似てる。インヴィクタはやったけど、大江戸はやらなかった。やりたかったな・・。格好よすぎ。名曲です。

ついでに、これもはっとくわ。『キーハンター』のOP。
スコアないと思うけど、今なら文化祭あたりで耳コピーで演奏したら新鮮じゃなかね?

誰かにこっそり教えたい 👂
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