ジェット・リーが熱い リュック・ベッソン監督の傑作『キス・オブ・ザ・ドラゴン』 

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映画『キス・オブ・ドラゴン』

作品の概要

キス・オブ・ザ・ドラゴン(2001年) - Kiss of the Dragon (分かりやすく喩えれば、経絡秘孔の一つ)

監督 : クリス・ナオン
製作 : リュック・ベッソン
主演 : ジェット・リー(中国の麻薬捜査官・リュウ)、ブリジット・フォンダ(下町の娼婦・ジェシカ)、チェッキー・カリョ(麻薬組織の元締め・リチャード)

キス・オブ・ザ・ドラゴン(字幕版)
 キス・オブ・ザ・ドラゴン(字幕版)

あらすじ
中国の捜査官リュウは、麻薬捜査に協力する為にパリに赴き、仏警察の麻薬捜査官リチャードに協力して、高級ホテルで密売人の逮捕に挑むが、逆にリチャードの罠に嵌められ、密売人の殺害容疑で追われることになる。リチャードこそ、麻薬密売の影の大物だったのだ。
リュウは命からがら同志の中華食材店に逃げ込むが、リチャードの情婦でもある下町の娼婦ジェシカがトイレを借りに来たことから顔なじみとなり、しばしば接触するようになる。
だが、ジェシカの監視者であるリチャードの部下ルポと争いになったことから、リチャードは警察の総力を挙げてリュウとジェシカを追跡する。
果たしてジェシカはリチャードから逃れ、リュウはリベンジすることができるのか――。

ジェット・リーが熱い! 熱い! 熱い!

『キス・オブ・ザ・ドラゴン』は私が大好きな映画の一つだ。

ミッション・インポッシブルやジェイソン・ボーン・シリーズのように、スターが競演する大作ではないが、リュック・ベッソンらしい、湿気たパリの町並みや妖しげな娼婦たち、映画『LEON』の悪徳警察官ノーマン・スタンスフィールドを彷彿とする、イカれた麻薬捜査官リチャードに、とても警官とは思えない凶悪な部下たち(よく就職できたな)。

何より、火の玉が炸裂するようなジェット・リーのアクションが素晴らしい。他のアクション映画でも、キレッキレの武芸を披露しているが、本作は、まさにジェット・リーの為に作られた、ジェット・リーを輝かせるための、生涯の一作という感じ。リー・リン・チェイの時代の『少林寺』も素晴らしいが(お師匠さま~~と叫びながら、タッタラタッタラ、馬で駆けつけるシーンが良い)、本作では、リュック・ベッソンらしいアダルトな雰囲気に溶け込んで、東洋人らしい魅力を発揮している。

かといって、エロはなく、女性(=ジェシカ)に媚びることもない。

ほのかな憧れはあるが、決してそれを表に出すことはなく、むしろ照れくさそうにしているところが、好感が持てる。

そして、それは本作を成功させる上で必須だったと思う。もし、リュウとジェシカが下手に絡んでいたら、作品の持ち味は大きく損なわれていただろう。

こんな風に言ってはなんだが、絵に描いたような金髪美女で、パリのイケイケ・ネーチャンであるジェシカ(=ブリジット・フォンダ)と、典型的なアジア人男性であるリュウ(=ジェット・リー)の、あまりに異なる容姿と身長差が、かえって文化の違いを際立たせ、二人の逃避行に緊張感をもたらしているからだ。(もし、彼らが道ばたでチューチューするような関係なら興ざめだろう)

プロットも複雑そうに見えて、あっという間に話が展開するし、アクションに次ぐアクション――特にセーヌ川遊覧船での、突然の銃撃はよかった――も非常に見応えがある。

リュック・ベッソンのアクション作品の中でも、珠玉に位置づけられる傑作ではないだろうか。

ちなみに、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』は、北斗の拳風に喩えると、経絡秘孔の一つである。

リュウは、武術の達人であると同時に、針の使い手でもあるのだ。(鍼灸師の使う針)

その針を、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』に刺せばどうなるか――

答えは、ぜひ動画を見て、確認して頂きたい。

*

警察署に乗り込む場面もよかった。中国人のリュウが、フランス国旗をぶんぶん振り回すのは、歴史的に意味があるのか??
でも、政治をいっさい持ち込まないのが、本作のよい所。
素直に応援したくなる、良作である。

この作品は、音楽のチョイスもよい。ハードビートなラップを随所に取り入れ、スピード感を醸し出している。
また、音楽とリーの容姿が似合ってないから、余計で面白いのだ。

enjoy yourself(自分自身を楽しめ) ジェット・リーの名言

私は本作の北米版DVDを所有していて、その中には、ジェット・リーのインタビューが収録されている。

私も完全に聞き取れるわけではないが、インタビューでは、中国からハリウッドに渡った頃の苦労が語られ、アジア人であるというだけで、理不尽な思いをされたこともあるようだ。(お前にやれる役はない、みたいな)

それでも、自分は、自分以外のものにはなれないし、どうせ、他の米国俳優のようになれないなら、enjoy yourself(自分自身を楽しもう)と回答されたのが印象的だった。

当時、私も海外移住して間もない頃だったので、ジェット・リーの『enjoy yourself』 という言葉が、どれほど励みになったか分からない。

スティングの『イングリッシュマン・ニューヨーク』で謳われる、Be yourself no matter what they say(他の誰が何と言おうが、自分らしくあることだ)に匹敵する名句だと思う。

今でこそ、アジア系俳優がハリウッドで活躍するのは珍しくないが、皆、それぞれに苦労して、戦い抜いて、今の地位がある。

そんなアジア系先駆者たちの土台となったのは、野心でも、憧れでもなく、enjoy yourself(自分自身を楽しめ)の精神ではないだろうか。

誰かにこっそり教えたい 👂
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