プラハ『飢えの壁』 カレル4世とルイ16世の慈悲心 ~仕事の創出が民を救う

寒さで凍てついたベルサイユ宮殿の庭園を視察したルイ16世は「ちょうどよかった。パリから失業している男たちをあつめて、氷かきをやらせるといい。賃金をたっぷりはずんでな」と兵士たちに命じる。プラハではカレル4世が貧困に苦しむ庶民の為に必要のない巨大な壁を建設したといわれている。君主に必要な徳と仕事が人と社会を幸福にするというコラム。
ベルサイユのばら 第4巻 ~黒い騎士をとらえろ!』 にまつわる話です。
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ベルサイユ宮殿の雪かき ~ルイ16世の慈悲心

ずっと以前、超古代文明(注)をテーマにしたTV番組で、有名な考古学者が、「ピラミッドの建造と言えば、何万もの奴隷を鞭打って強制労働させたというイメージがあるが、あれは国家の威信をかけた一大公共事業だった。建設に従事している限り、労働者たちは生活を保障され、ピラミッドの完成という共通の夢もあった。そうでなければ、人力だけで、あのように巨大な建造物を造り上げることはできない」と仰っていたのが今も印象に残っています。
★ TVスペシャル特番『神々の指紋』に出演された吉村作治氏のコメント

確かに、何万もの人間を暴力で支配して、あんな巨大な石をクレーンもトラックも使わず、何十万個も積み上げることはできません。建設を命じた王たちは、栄耀栄華を極める一方で、自らが治める民のことも考え、だからこそ、あんな砂漠の国に高度な文明をもった国が栄えたのではないでしょうか。

東欧屈指の国際観光都市プラハ(チェコ共和国の首都)には、「飢えの壁(Hladova zed)」と呼ばれる、長さ1.2キロメートルにも及ぶ石造りの城壁があります。神聖ローマ皇帝で、ボヘミア王でもあったカレル4世が、貧苦に喘ぐ民を救うため、必要のない壁作りの仕事を与えたもので、善政の象徴として今に伝えられています。

名君と仰がれたカレル4世の統治により、プラハを中心とするボヘミア地方は空前の発展を遂げ、後にカフカやドヴォルザーク、アルフォンス・ミュシャといった名だたる芸術家を生み出しました。その美しさは今なお世界中の観光客を魅了してやみません。

ベルばらでは、冬の庭園を散策していたルイ16世が、樹木の氷を掻き落としている兵士たちに、「ほほう、一面すっかりこおってしまったようだな。ちょうどよかった。パリから失業している男たちをあつめて、氷かきをやらせるといい。賃金をたっぷりはずんでな」と優しく声かけする場面があります。

このエピソードを読んだ時、子供心に「なんて賢い王様かしら」と感じ入ったものです。ただ施すだけなら、人間のプライドを傷つけますが、労働の対価として支払えば、経済的救済のみならず、精神的な充足ももたらすからです。

ルイ16世の言葉に感動した兵士たちは、「まったくかわった王さまだよ。めかけのひとりももたないで、王后陛下が豪華な毛皮を身にまとっておられるときも、ごじぶんは質素なコート一枚で……」と王の善良さを語ります。

こうした国民への思いやりがもっと伝わっていたら、フランス革命の行方もまったく違ったものになったかもしれません。

日本も若い世代の非正規雇用の増大と、それに伴うワーキングプア問題が深刻化し、国の将来に暗い影を落としています。

働く意思があっても、安定した職がないようでは、生活はもちろん、人の心まで荒んでしまうのではないでしょうか。

国力の維持発展を望むなら、誰もが平等にチャンスを掴めるよう、安定した雇用を創出するのは政治経済を担う人の務めだと思います。

国民の生活を顧みず、貴族だけで栄耀栄華を謳歌したルイ16世の治世は、「革命」という最も厳しい形で糾弾されました。

夢も仕事もない日本の行く末が気になるところです。

(注)「超古代文明」とは、四大文明が成立したとされる紀元前4000年頃より以前に存在したとされる、非常に高度な文明を指す呼称で、代表的なものに、「ムー大陸」「アトランティス」などがあげられます。日本では、90年代後半、超古代文明をテーマにしたグラハム・ハンコックの著書『神々の指紋』が大ブームとなりました。

コミックの案内

国を良くするには、どうすればいいか。

それは病める者にも、貧しい者にも、仕事を与えることだと思います。

仕事といっても、人権無視の奴隷労働ではなく、労働法に基づいた正規の仕事、人が人として尊重され、自らの価値を実感できるような仕事です。

カール・マルクスの『人間は社会的存在である』という言葉に象徴されるように、人は社会に必要とされ、また役立つ実感があってはじめて、幸福や自己価値を感じることができます。

困窮した人に安定した仕事を与えることは、経済的にも、精神的にも、社会的にも、最良の策です。

暮らしが安定すれば、飲食やお洒落にお金を使って、経済が回るばかりか、意欲や向上心も強まり、周りを思いやる余裕も生まれるからです。

労働法などという概念が生まれる以前から、カレル4世も、ルイ16世も、肌感覚としてそれを知っていたのが偉大なところです。

ベルサイユのばら ルイ16世

ベルサイユのばら ルイ16世

第4巻『黒い騎士をとらえろ!』では、オスカルのドレス姿、黒い騎士をとらえる為にアンドレが定番の髪型になるエピソードなど、前半と後半の分かれ目になるエピソードが盛り込まれています。

ベルサイユのばら(4) Kindle版
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オリジナルの扉絵は、黒い騎士=ベルナールではなく、黒い騎士に扮したアンドレでしょうね。

ベルサイユのばら 4 (マーガレットコミックス)
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プラハ 『飢えの壁』 Hladova zed

プラハの『飢えの壁』に関しては、下記URLをご参照ください。

プラハの『飢えの壁』(英語で Hunger of Wall)の動画です。

『飢えの壁』は、ペトシーンの丘に存在し、一帯が雄大な公演となっています。展望台やケーブルカーもあり、プラハの観光名所の一つです。

プラハは私も行ったことがありますが、中世の魅力が漂う、素敵な町でした。文学や歴史好きに特におすすめです。

この投稿は、優月まりの名義で『ベルばらKidsぷらざ』(cocolog.nifty.com)に連載していた原稿をベースに作成しています。『東欧ベルばら漫談』の一覧はこちら

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