『届かないセレナーデ』 ~失った恋にさまよって
なくした恋は、元に戻らない
どれほど相手に尽くしても、
一所懸命に「いい女」になろうとしても、
恋は、失う時には失うし、愛されないものはどうしようもない。
相手に何度も頭を下げて、「私のこと、鋤になって下さい!」とお願いしても、一度なくした恋は、元に戻らないものだ。
でも、若い女の子は無知だから、全部「私のせい」と思う。
謝れば、もう一度、振り向いてくれるような気がして、彼と出会えそうな場所、出会えそうな時間にふらふら出掛けて、最後は泣いて帰って来る。
その繰り返し。
泣き出しそうな笑顔を投げかける
私がゆれていたウィンドーごめんなさい 人違いです
逃げるようにして渡る 信号松任谷由実『届かないセレナーデ』
もう会えない、会ってはいけないと、頭で分かっていても、彼の面影を追って、また出かけてしまう。
すれ違う人。遠くに見える人。
もしかしたら、あの人と期待に胸を膨らませ、目を凝らして見るけども、本当に会いたい人はそこに居ない。
もういい加減、諦めればいいのに、ここに居れば、もう一度、やり直せるような気がして、ぐるぐる同じ場所を廻り続ける。
紅く溶けるブレーキランプが
果てしなく続いて見えたまたとない またいつか あるなら教えて
崩れそうな抜け殻でも 歩いてゆけるから きっと
いつになったら、傷つかない恋ができるのか。
いつも、今も、夢見るけれど、思い出すのは雨の夜のことばかり。
だから今も、この場所に立ち尽くす。
戻ることも、進むことも、出来ないまま。
届かないセレナーデ 旋律をなくして
奏でたい日が来ても 愛はふりかえらないあなたと暮らした町で 今年も暮れて行くわ
Coda…
こういう痛みも、いつか、みんな、思い出に変わる。
思い出になった時には、「こういうことを経験してよかったのだ」と心の底から思えるようになる。
永遠に失恋している人などない。
失恋は、死の宣告ではなく、経験の一つに過ぎないのだ。
アルバム紹介
松任谷由実の『届かないセレナーデ』は、ユーミンの21枚目のオリジナルアルバム『LOVE WARS』に収録されています。
LOVE WARSは、昭和バブル期の純愛ブームの走りだったんですね。
クリスマスには、毎年リリースされるユーミンのニューアルバムを購入し、高級ホテルでディナーを楽しんで、彼氏にティファニーのオープンハートのネックレスをおねだりする。
彼氏も、二人、三人と、召し抱えるのが当たり前で、男子も女子も、まあ景気の良かったこと。
そんな中、突然、バブル的恋愛の教祖だったユーミンが『純愛』とか言い出して、そっくり返ったことが今も鮮明に思い出されます。
ところが、その純愛さえも、瞬く間にドラマやファッションで消費される80年代。
本当に呆れ返るほど凄まじい時代でした。
*
それでも、物質的な恋愛ができる時代は幸福なんですよ。
10代20代の若い子でも、ちょっと頑張ったら、ティファニーのオープンハートやカルチェの三連リングが買えた。
「物質は必ずしも精神的豊かさをもたらさない」のは本当だけど、「ちょっと頑張れば、買える」のと、「いつでも買えるけど、あえて買わない」のでは、天地ほどの差があります。