The Rah Bandについて
『The Rah Band(ザ・ラー・バンド)』は、イギリスの音楽プロデューサー、リチャード・アンソニー・ヒューソンが結成したシンセポップ・グループである。
1970年代後半から1980年代前半にかけて英国で活躍し、最も有名なヒット曲は、女性ヴォーカルが美しい『Clouds Across the Moon』だ。
ロンドン市立の名門音楽院、ギルドホール音楽演劇学校でクラシック音楽を学びながらも、マルチな才能を発揮し、映画『スカイハイ』や『ザナドゥ』の音楽にも携わっている。
日本ではほとんど知られていないが、欧州ベストテンでランク入りした『Clouds Across the Moon』は、日本でもカヴァーした歌手がいるとのこと。そういえば、メロディが、どこか80年代の歌謡曲っぽい。
恋人同士のスイートなやり取りと、昭和の黒電話を思わせる演出がお洒落。
これを聞いていると、宇宙赴任も悪くないな……というか、恋人同士は離れている時が一番楽しいんじゃないかと思ったりもします。
The Rah BandのSpotifyのリンクはこちら。
ほぼ全てのアルバムを全曲視聴できます。
https://open.spotify.com/artist/7MDoXA8Kfykq3gkBkDBLtH?si=ExJXrZycTe-ZrkAlRSccsA
記事後方に私のおすすめをピックアップしています。
【音楽コラム】 火星赴任とThe Rah Band の宇宙的魅力
21世紀の終わりか、22世紀。
恋人や配偶者が当たり前のように宇宙植民地に出張する時代になれば、遠距離恋愛も夫婦生活もずいぶんハードルが高くなると思う。
「火星に単身赴任? 冗談じゃないわよぉ? 結婚はどうなるの? あたしのキャリアは?!」
「えっ、火星に出張? いつ帰ってくるの? 片道だけで、10年? 子供はどうすんのよ!!」
子育てや恋愛しながら、宇宙開発なんて、絶対に無理。
行くなら、家族そろって、月面や火星に宇宙赴任するしかない。
奥さんと子供が同意してくれたらいいが、そうでなければ、離婚 → 家庭崩壊。
水も酸素もない、ましてパンパースもない月面基地に、どこの物好きが幼子連れて、一緒に宇宙赴任するんだよ?
まして、二度と戻れなさそうな、火星とか。
*
恋人の選択肢は、別れるか、見送るか、二つに一つ。
「仕事が終わるまでの辛抱だ。プロジェクトを終えて、二年経ったら、必ず君を奥さんにするから」なんて絶対に有り得ない。
彼氏の火星行きが決まったら、その時点で、別れるしかない。
彼が火星でのミッションを終えて、帰って来るのを待っていたら、冗談抜きで、おばあちゃんになっちゃう。
未来の宇宙飛行士も大変だ。
おちおち恋愛もできないぞ。
それでも行くか?
Yes, Of Course.
同乗する女性宇宙飛行士が、自分の好みであれば…
NASAが全面バックアップの ミッション to マリッジ。
それはそれで楽しそうだが、火星行きの宇宙船の中で子供が生まれたらどーすんの?
ミルクはともかく、パンパースは必須だよ。
布おむつでも、ベビー用の洗剤必須だし。
というより、宇宙船の中で、布おむつが干せるのか?
やっぱ、無理だろ、ミッション to マリッジ。
*
かくして、置いてけぼりをくらったミス・エイジアは、毎晩、輝く月夜を恨みの目で見上げながら、「やっぱ、付いて行けばよかった」とほぞを噛む。
あんないい男と出会うのは、一生に一度きり。
妥協して、地上で代わり映えのない毎日を過ごすよりは、苦労してでも、アイツと火星を目指し、宇宙船の中で無重力○○でも楽しんだ方がよかったんじゃないか、と。
*
そんな中、宇宙の果てから、久々に恋人から電話を受け取った様子を描いているのが、The Rah Bandの『Clouds Across the Moon』だ。
歌詞はまったく違うが、そんな雰囲気。
『Clouds Across the Moon』というヒット曲も、The Rah Bandというバンドも、知っている人の方が少数だろう。
私もSpotifyを通して、つい最近知った。
Googleで調べてみたけれど、日本語の情報もほとんど見つからない。
唯一、松竹剛さんのブログに詳しい解説が上がっていた。
松茸さんいわく、
The RAH Bandはストリングスのアレンジャーとして60年代から活躍するRichard Anthony Hewsonというイギリス人の一人バンド。RAHは名前の頭文字です。アレンジャーとしての仕事で一番有名なのはビートルズのアルバム「Let It Be」で、「The Long and Winding Road」「I Me Mine」「Across the Universe」が彼の手によるものです。他にもJigsaw「Sky High」なんかも彼の仕事です。
ジグソーの『Sky High』! ・・何と懐かしい。
シンフォニック、かつドラマティックな曲調で、一世を風靡した70年代の代表的なヒット曲だ。(YouTube公式はこちら https://youtu.be/avhYvgvT5I8)
あれを手がけた人なら、これほど美しく個性的なメロディが書けるのも納得。
The Rah Band も宇宙的な広がりのあるテクノポップではあるが、旋律の美しさとアレンジメントにおいては一線を画している。
だから、何度聴いても飽きない。
たとえるなら、宇宙神がジュークボックスに乗って降臨した感じ。
サウンドは機械的だが、和音の一つ一つが丁寧に作られ、BGMとして聞き流すにはもったいないほどだ。
アルバム『Something About the Music』のジャケット。ヘッドホンした宇宙人みたいなのがカワイイ
The Rah Band の名曲
Rock Me Down to Rio
私のお気に入りは、『Rock Me Down to Rio』。
リオのカーニバルを思わせるブラジリアンなノリが可愛い。
音楽に理屈は必要ないのだ。
さびの「ロック・ミィ・ダウン り~お」の部分がたとえようもなく脳天気で嬉しい。
Shadow of your Love
80年代、こういうノリのヒット曲がたくさんありました。
一度聞いたら忘れられない主旋律に、繰り返されるサビ。
The Rah Bandの魅力は、メロディとメロディの追いかけっこみたいなアレンジメントにあります。
音の重層感とでもいうのですか。
合いの手となる裏の旋律も丁寧に作り込まれていて、さながらテクノの交響曲のようです。
女性ヴォーカルも透明感があって、とってもキュート。
Performed Garden
いきなり「カム・ウィズ・ミィ~」で始まるメロディが素敵。
これもStrings入りとか、Asid風Remixとか、いろんなバージョンがあるけど、やはり、このオーソドックスなサウンドが一番好き。
一世紀、二世紀後の若者はどんな音楽を聴いているのかしれないけど、こういうのは口コミで受け継がれ、ずっと残るんじゃないかな。
【コラム】 音楽にもシナリオは必要
思うに、The Rah Band の楽曲にはストーリーがあるんですね。
クラシックの交響曲みたいに「起承転結」があって、「はい、ここがサビ。これが掴み」と、よく練られたシナリオが見える。
淡々と流れ、淡々と終わる、あまたのヒット曲と異なり、「さあ、ここで盛り上がりますよ。皆さん、用意はいいですか」というシナリオに添って曲が展開するので、聴く方も安心です。
以前、交響曲のゴーストライターの設計書うんぬんという話がありましたが、実際、曲作りにもシナリオが存在するのでしょう。
では、その大本になっているのは何かと問われれば、やはり基礎的な知識と音楽センスでしょう。
鼻歌なら誰でも作れるけど、レイヤーのある楽曲を作るには、詳密な設計図が不可欠です。
The Rha Band の、リチャード・アンソニー・ヒューソン氏も、名門音楽院で、アカデミックな教育を受けた人だけに、設計図を書くのは得意なのかも知れませんね。
東京芸大出身の坂本龍一みたいに。
POPSも、シンセも、クラシック音楽に比べてラフな感じがするが、美しいものには神の設計図が存在するのは、サブカルチャーも同じと思う。
The Rha Bandの宇宙的な広がりは、音楽神ヒューソン氏そのものかもしれない。
初稿 2016年7月27日