毒にも薬にもならない正論

既にご存知の方もおられるかと思いますが、『eclipse』は『蝕』の意味。
月蝕、もしくは日蝕を表す言葉として、映画・小説のタイトルや商品名などによく使われています。

私がこのメルマガに『蝕』を意味する『eclipse』と名付けたのは、常識や社会通念で『正』とされることにあえて疑いを持ち、自分なりの視点で
本質に迫ってみたいから。

「一度、思い込みの光を消し、何も無い、真っ暗な状態から自分の思考を立ち上げる」という意味と、「誰が定めたかわからない正論なんか蝕っちまえ」という思いの『eclipse』です。

私たちって、案外、

『大新聞の論壇が述べてたから』
『権威ある学者が言ってたから』
『世間では、こう思われているから』
『みんな、そうだと言ってるから』etc

権威やマスの言うことを鵜呑みにしがちですよね。

だけど、それは本当に『正しい』のでしょうか?

そもそも『正しい』とは、何を基準に決定付けられるのでしょう。

そして『正しい』ことは、本当にあらゆる問題を解決し、人を救うのでしょうか。

私たちは、何の疑いも無く、『正しい』と語られていることを信じ、そこで思考停止に陥りがちです。
『考える』とは、すなわち、独自の視点を持って、物事の本質を見極めること。
他人の意見や知識を鵜呑みにするだけでは、自分で本当に考えたことにはなりません。
どんな時も、他人の意見や情報に振り回されることなく、常に自分自身の目と想像力で答えを探ろうとする姿勢が大切であるように思います。

かく言う私も、一昔前は、世間で語られていることを鵜呑みにし、「かくあるべき」という思いにとらわれていたんですよ。
でも、ある体験を通じて、世の中で『正』と語られていることが必ずしも真実ではなく、人間が「正論」や「倫理」や「常識」の枠内に収まるものではないということを知りました。 そして、『鵜呑み』がいかに多くの誤解を生み、自分の視野を狭めてしまうかを。

人間は、一つの視点にとらわれると視野狭窄を招き、視野狭窄は思考停止をもたらします。

思考停止とは、
「『○○』を倒産に追い込んだ××会長は悪い経営者だ。社会的に糾弾されて然るべきだ」
「人を殺すなんてとんでもないワルだ。こんな人間には重罰を与えるべきだ」
「○○なんて許せない。世の中はこうあるべき」
当たり前のことを当たり前に受け止め、それ以上、考えたり、分析したり、疑ったりしないことです。

いわば、心の目が閉じている状態ですね。

*

興味深い喩え話があります。

生まれてから一度も世界を目にしたことのない人が、ある人に、「白、って、どんな色ですか?」と質問しました。

「白というのは、白鳥みたいな色です」

「白鳥って、どんな鳥ですか」

「首が長くて、少し曲がった鳥です。私の肘のような感じです」

その人が肘を差し出すと、質問者は軽く曲がった肘を撫でながら、

「ああ、これが白鳥ですか。白のイメージが何となく理解できました」

*

は? と思うかもしれませんが、人の誤解や曲解ははそういうものです。

誰かが自分の知らない人について噂話をした時、他人が喩えに差し出した肘を撫でながら、「これが白鳥か。許せないですね」と、訳も分からず意見して、「白鳥とは肘みたいなものだ」と思い込むのと同じです。

心の目が開いていれば――どんな物事も、自分の目で見定めようという気持ちがあれば――たとえ「白鳥は黒い」と教えられても、自分の目で確かめるまでは鵜呑みにしないでしょう。図書館で調べたり、他の人の話を聞いたり、少しでも真実に近づく努力をすると思います。

全ての物事には、背景があり、経過があり、表面に現れる部分と現れない部分があります。

それこそ数え切れないほどの要因が複雑に絡み合い、一つの事象を織り上げるものです。

人は目に見える事柄だけを追い、すぐに審判したがりますが、私たちが知り得ることなど、物事のほんの一部に過ぎません。
にもかかわらず、多くの人は、「白鳥とは肘みたいなものだ」と思い込み、誤った観念に振り回されて生きていくのです。

これだけ多くの情報が飛び交う時代、誰の言うことが正しいのか、何が間違いか、判断するのはいっそう難しくなっています。

それでも物事を正しく理解しようとする姿勢があれば、少なくとも他人の言動に惑わされることはないし、世の中の見方も変わって、面白くなると思います。

一歩でも前に進み、視野を広げる為にも、一度、思い込みの光を消して、真っ暗な中から自分らしい思考を立ち上げてみませんか。

皆様が常識や正論にとらわれることなく、いろんな物の見方が出来るようになってくだされば嬉しいです。

(一部、修正)

初稿 2000年9月14日

誰かにこっそり教えたい 👂
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次 🏃