角川映画『里見八犬伝』の魅力
作品の概要
里見八犬伝(1983年) - Legend of the Eight Samurai
監督 : 深作欣二
主演 : 薬師丸ひろ子(静姫)、真田広之(親兵衛)、千葉真一(道節)、寺田農(大角)、夏木マリ(玉梓)、目黒祐樹(蟇田素藤 )
あらすじ
かつて、里見義実に討ち取られた妖婦・玉梓姫(夏木マリ)は100年後に怨霊となって蘇り、里見の家を討ち滅ぼす。一族はすべて皆殺しにしたが、一人、静姫(薬師丸ひろ子)だけが魔の手を逃れ、山村に潜んでいた。
静姫は八犬士のリーダー格である犬山道節(千葉真一)と犬村大角(寺田農)に助けられ、残り六人の八犬士を探すべく、旅を続けるが、報奨金に目がくらんだ荒くれ者の親兵衛(真田広之)にさらわれ、旅は困難を極める。
果たして、八犬士は全員が揃い、玉梓姫の呪いに打ち克つことができるのか……。
見どころ
本作は、主演の薬師丸ひろ子と真田広之をはじめ、千葉真一、寺田農、京本政樹、志穂美悦子、岡田奈々、夏木マリ、目黒祐樹など、錚々たるメンバーが出演し、清純派アイドル・薬師丸ひろ子の初のラブシーンも話題となった、80年代の角川エンターテイメントの集大成のような作品だ。
主演はもちろん、脇を演じた役者も皆が全盛期で、演技はもちろん、容姿、アクションともに最高の姿を収めた奇跡の一本と言える。
今となっては、発泡スチロール系の美術が痛々しいが、かえって映画作りの情熱が感じられて、ほのぼのした気分になる。
思えば、横溝正史のミステリー小説をベースとした名作『犬神家の一族』にはじまって、『人間の証明』『野生の証明』『セーラー服と機関銃』『魔界転生』と、立て続けにヒットを飛ばし、国民的娯楽として80年代を席巻した角川映画が、本作をもって、もてる力の全てが結晶したという感じ。
いまとなっては、映像の古さは否めないが、いずれ美しいカラー映像となって蘇る日も来るだろう。(ばかのKADOKAWAにそれだけの力があれば、の話だが)
「80年代なんて大昔」と思っている若い世代にもぜひ見て欲しい。
昔の清純派アイドルは、「本当に清純だった」ことを実感できるはずだ。
中だるみもなく、手抜きもなく、全てがパーフェクトに作られた、娯楽大作である。
【画像で紹介】 妖艶・玉梓姫と発泡スチロール
深作欣二監督の映画『里見八犬伝』は、曲亭馬琴の名作『南総里見八犬伝』をベースにした時代活劇だ。
仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの霊玉をもつ八人の剣士(八犬士)が、里見家の血を引く静姫を奉じ、玉梓の怨霊を討ち取る。
「里見八犬伝を映画したかった」というよりは、千葉真一、寺田農、京本政樹、志穂美悦子、真田広之など、当代一のアクション俳優にふさわしい作品を作りたかった理由が大きいだろう。
おまけに、夏木マリという、世界最強の玉梓姫もいたし。
時代劇に関しては、戦後を牽引した片岡千恵蔵や萬屋錦之介といった重鎮が第一線を引いて、正統派時代劇からエンターテイメント系時代駅に移り変わる過渡期だったので、制作側も「ハリウッドに引けを取らないような、面白いものを作ろう」という意気込みが強かったように思う。
景気も良くて、エンターテイメントの分野でも、お金がよく回っていたし。
本作の見どころは、なんといっても玉梓姫を演じた夏木マリだ。
ゴージャスかつ妖艶な存在感で、一人で八犬士と闘っている。
特に、血の海に身を浸して、永遠の若さを得る、オールヌードの場面は圧巻だった。
息子の蟇田素藤 (ひきた・もとふじ)とは、ちょっと近親相姦的な母子関係で、妖しいキスシーンも披露。
千葉真一と寺田農が演じる修験者の衣装も似合いすぎて怖い。
志穂美悦子も、この頃が美しさの絶頂。
アクションの美しく、和装の着こなしも見事。
袖や裾のさばき方が綺麗なんですね。
岡田奈々の美しさも神がかっていました。
バブル時代、特有の赤い口紅が印象的。
蛇つかいの妖之介を演じた萩原流行。最近、事故で亡くなられて残念です。
本作は美術や衣装も豪華版。グスタフ・クリムトの名画『接吻』を模した背景が素敵です。
京本政樹も美しいこと。妖怪の美女軍団と太刀を交える演出がいいですね。
日本女性と長刀は、ほんと絵になります。
ひろ子ちゃんの入浴シーンも話題になりました。
女優さんも、大人になったら、一度は通らねばならない道。
真田広之とのラブシーンも頑張りました。
「君も大人の女優を目指すなら、ラブシーンぐらいできないと」という感じの作りで。
覚悟を決めて、演じたんでしょうね。
発泡スチロールの最後の決戦。
80年代の角川映画らしい演出で、殺陣も素晴らしい。
セットも、下手にCGを使うより、重量感や手作り感があって良い。
これぞ東映! 太秦映画村! という感じで大好きです。
確かにセットの古さは否めないが、千葉真一や寺田農の必死のアクションを見ていると、そんなことは全く気にならなくなる。
むしろ、発泡スチロールのお粗末なセット(失礼^^;)の中で、本物の八犬士と見まごうような、真摯で、迫力のあるアクションが出来る方が凄いと思う。
私なら、あんな修験者の格好をして、「はい、千葉さん、そこで斬られて、悶えて下さい」とか言われたら、笑いがこみ上げて、何も出来ないと思う。
小学校の学芸会でさえ、「真剣味が足りない」と先生に叱られた私に、所詮、役者は無理なのだ。(誰も期待してないが)
作り物にもかかわらず、全てが本物に見えてくる。
これぞ役者の力量だろう。
『里見八犬伝』はもちろん、『野生の証明』も『魔界転生』も、本当にいいものをたくさん見せてもらって、角川(KADOKAWAではない)と80年代のスターには感謝の念しかない。
本当に、いい時代を経験することができて、つくづく幸運だったと。
まさか、そんな気持で振り返ることになるとは思わなかった、昨今の日本の現状である。