スネーク・プリスキンにカルトな愛を捧ぐ ~映画『ニューヨーク1997』(ジョン・カーペンター)

1980年代に製作され、今なおカルトな人気を誇る『ニューヨーク1997』。「スネークと呼べ」が決め台詞の犯罪の帝王をカート・ラッセルが好演。B級感あふれるセットとカーペンター感得が自ら手掛けたチープな音楽が味わい深いカルトアクションの魅力を紹介。

この記事はネタバレを含みます。未見の方はご注意下さい

目次 🏃

ジョン・カーペンターの『ニューヨーク 1997』

カート・ラッセル主演の近未来アクション映画『ニューヨーク 1997』は、1981年、低予算のB級ホラーを撮らせたら天下一品のジョン・カーペンターの監督で製作されました。

1997年、巨大な監獄と化したニューヨークに大統領専用機が不時着し、24時間以内に、犯罪の帝王・スネーク・プリスキンが大統領の救出を試みるアクション映画です。

ニューヨーク全体を高い塀で取り囲み、町全体を刑務所とするアイデアや、荒廃した町中を闊歩するパンクな囚人たちが人気を博し、そこそこにヒット。

とりわけ、中世の海賊みたいなスネークのコスチュームと、「スネークと呼べ(Call me, Snake)という決め台詞が人気を博し、コナミの人気ゲーム、『メタルギア』の主人公、ソリッド・スネークのモデルにもなっています。

21世紀の今となっては、しょぼいセット、ままごとのようなアクション、全然凄くない犯罪の帝王、ジョン・カーペンターが自分で作曲した変なBGMなど、現代の派手なアクションに馴れきった若い世代にはまるで突き刺さるところのない作品ですが、リアルタイムに視聴した者には、なぜか心に残るものがあり、今なおカルトな人気を誇る異色作です。

ちなみに、原題は、『Escape From New York(ニューヨークからの脱出)』です。

あらすじ

国際会議に向かう途中の大統領専用機がテロリストにハイジャックされ、飛行機はニューヨークの町中に墜落。大統領は専用ポッドで脱出して無事だったが、たちまち囚人たちに取り押さえられる。囚人らは、大統領の命と引き換えに解放を要求。警察本部長ボブ・ホーク(リー・ヴァン・クリーフ)は、元特殊部隊の英雄でありながら、武装強盗の罪で逮捕されたスネーク・プリスキン(カート・ラッセル)を送り込み、保釈を条件に、大統領の救出を依頼する。

だが、途中でスネークが逃亡することを恐れたボブ・ホークは、彼の頸動脈に小型爆弾を打ち込み、「お前の持ち時間は、あと24時間だ」と告げる。24時間以内に、大統領を連れて戻らなければ、小型爆弾が爆発する仕掛けだ。

スネークは、グライダーに乗って、ニューヨーク市内に潜入するが、そこで待ち受けていたのは、ニューヨークの帝王を名乗るデューク(アイザック・ヘイズ)だった。

満身創痍のスネークは、24時間以内に大統領を救出し、小型爆弾を無効化することができるのか。

それなりに手に汗握る、サスペンス風アクションです。

ディスクの案内

『ハロウィン』(78)で大ヒットを飛ばしたジョン・カーペンター監督が名コンビと言われるカート・ラッセル主演で描く近未来SFアクション。
監督デビュー前のジェームズ・キャメロンが特殊効果スタッフとして参加している。
ブックレット付き、日本語吹替え収録。新規字幕収録

ニューヨーク1997 [Blu-ray]
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amazonプライムビデオでも視聴できます

本作については、ついおちょくりたくなるのが愛というもの。

以下、カート・ラッセルにまつわるエピソードと、作品へのカルトな愛を綴っています。

↓ 一応、特殊部隊出身。 『Black Light』。勲章ももらってる。
Cacll me Snake

↓ 私でも開けられそうな最新式の発信器
新型の発信器

↓ 命の残り時間を刻む時計。 Apple Watch マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆ チンチン
生命の残り時間を刻む時計

ここからネタバレです

映画『ニューヨーク1997』への想い

初稿 2009年6月15日

届かなかった英文ファンレター

「B級映画の金字塔」として、今なおカルトな人気を誇るジョン・カーペンター監督の近未来SF『ニューヨーク1997(Escape from New York)』がリメイクされるらしい。
2018年注釈: 1981年の公開当時は”近未来”と言われていた

しかも主演は、『This is Sparta !』のスパルタ王=ジェラール・バトラーとか。

ジェラールさまと言えば、ミュージカル映画『オペラ座の怪人』で世の女性に溜息をつかせ、古代ギリシャ史に残るテルモピュライの戦いをベースにしたアクション映画『300 〈スリーハンドレッド〉』では男臭いスパルタ王を演じ、今後が注目される俳優の一人である。

そんなマッチョでセクシーなお方が、映画史上に残るダーティー・ヒーロー『スネーク・プリスキン』を演じるとあっては、看過できない。

『スネーク』に関しては、高校時代から筋金入りのファンだからだ。

本作の魅力は、なんと言っても、カート・ラッセルを演じる『犯罪の帝王・スネーク』である。

ワイルドな長髪。

思わず頬ずりしたくなるような無精髭に、左目のアイパッチ。

犯罪の帝王という割には、案外、ドジで、すぐ敵の罠に引っかかってしまう。

一体、どれほどの悪事を為して、『犯罪の帝王』と呼ばれるに至ったのか、まったく説明がないのも大きなポイントだ。

そのくせ、情が深くて、相棒のブレインを殺された情婦のマギーが、自分も殺されるのを覚悟でスネークに復讐のピストルを求めた時、ちらりと見せる微笑みがなんとも言えず素敵で、優しい。

ああ、この微笑に惹かれて、高校1年生だった私は、映画誌『ロードショー』に掲載されていた所属事務所のアドレスを頼りに、『英文メールの書き方』という実用書を見ながら、スネークの似顔絵入りファンレターをエアメールで送ったんですよね

返事は来なかったけど、ほんと愛してました。

最愛のブレインが事故死し、スネークに銃を求めるマギー。

最愛のブレインが事故死し、スネークに銃を求めるマギー

ジョン・カーペンターの奥さん エイドリアン・バーボー

一瞬、「命を無駄にするな、オレと一緒に来い」と言いたげな表情を浮かべるが、次の瞬間にはマギーの心中を察し、彼女の望み通り、銃を手渡すネーク。

このやさしい微笑が好きで、ファンレターを書いたのですよ。

スネークの優しさが垣間見える

スネークの微笑

ブラウン管の前で、一目惚れ。
スネークの別れの微笑み

当然のことながら返事は来なかったけど、私がドヤ顔で海外生活ができるのも、女子高生の足らない頭で必死に英文メールを書いた経験があるからです。

そう、人生で初めて英語でコミュニケーションを取ろうとした相手は、スネーク・プリスケン=カート・ラッセルなんですよね。

今はFacebookのファンページやオフィシャルサイトの掲示板に気軽に書き込みできるからいいけど、私の時代はエアメールだったんですよ、エ・ア・メール !!  

↓あまり強そうには見えないアクション・シーン。チューしてるのは元妻シーズン・ヒューブリー。この後、『潮風のいたずら』で共演したゴールディ・ホーンと再婚。
そんなことだけ、よく憶えています。

発泡スチロールとシンセサイザー ~低予算の極意

それにしても、『ニューヨーク1997』はおちゃめなB級映画である。

年に数えるほどしか映画を見ない一般人にも、 金がかかってない ということが一目瞭然だからだ。

有名なテーマ曲、「ちゃ~、ちゃらら~、ちゃちゃ、ちゃらっちゃっちゃー、ちゃらちゃっちゃー」。

作曲は、監督のカーペンター自身。

演奏も自前のシンセサイザー1台でやったと、当時の映画雑誌に書いてあった。

次に、スネークの搭乗する紙ヒコーキのようなグライダー。

大統領救出に向かう割には、設備がチャチだし、そもそもこの程度で空を飛べるのか。

政府の特命を帯びて、颯爽と機内に乗り込むスネークが、まるでデパートの屋上にある100円マシーンに乗る子供のように見えてしまうのは私だけではあるまい。

ちなみに、廃墟となったニューヨーク摩天楼のグラフィックを手がけているのは、当時、まだ無名だったジェームズ・キャメロンである。

銃で壁を撃ち抜き、体当たりで突き破るシーンも同様。

発砲スチロールみたいなのが見え見えだ。

『風雲たけし城』じゃあるまいし、「犯罪の帝王」のアクションなんだから、もうちょっと強そうに見せて欲しい。

↓ 犯罪の帝王という割には、銃の構え方がイマイチ。カートらしくていいけど。
スネークの銃の構え方がいまいち

↓ 機関銃で穴が開くんだが、発泡スチロール感がなんとも……
発泡スチロール

↓ 体当たりで壁を突き破るんだが、これなら小学生でもできそう。まるで風雲たけし城のセット(´。`)
壁が安っぽい

↓ 行動も行き当たりばったりで、すぐ捕まっちゃうし。
あっさりデュークに捕らえられる

こんなトホホなアクションでも、「スネークは犯罪の帝王」と言い切ってしまう押しの強さが、ジョン・カーペンターの最大の魅力です。

セットの安っぽさを忘れさせる名脇役の存在感

本作のもう一つの見どころは、名脇役の存在感でしょう。

ちょっぴりスネークに同情的な警察部長 = リー・ヴァン・クリーフは西部劇の名優ですし、凶悪な犯罪者社会をのらりくらりと渡り歩く、流しのタクシー・ドライバー = アーネスト・ボーグナイン
もアカデミー受賞・男優です。

また、頭の切れる情婦マギー = エイドリアン・バーボーは、カーペンター監督の元嫁だし、ニューヨークの帝王を名乗るデューク = アイザック・ヘイズは、『黒いジャガー』の音楽製作で、アカデミー賞を獲得したプロの音楽家。

ついでに、マギーの恋人を演じるハリー・ディーン・スタントンは、SFの傑作『エイリアン』で、最初の犠牲者となる乗組員です。(ジョーンジィ~と猫を探していたら、シャーっと襲われるあの人)

たとえアクションがしょぼくても、名優アーネスト・ボーグナインが「スネーク! 犯罪の帝王のスネークか!!」と感激すれば、実は凄い人なのだと思えるし、警察隊がしょぼくても、リー・ヴァン・クリーフが登場するだけで、近未来感が漂うんですね。

近々(2009年の時点)、リメイクされるとの噂ですが、果たして、本家のカルト性に打ち勝てるのかどうか。

ジェラール・バトラーのような一流の俳優に、一流のセット、一流のスタッフが勢揃いで、高級感溢れるアクション映画を作り上げたとしても、カート・ラッセルが演じた、もさっりした犯罪の帝王には敵わないだろうし、脇役もあそこまで、いぶし銀の輝きを放たないような気がしてなりません。

アイパッチ・スネークに、カルトな愛を捧げてきた元・女子高生の私としては、カート・ラッセル以外の誰にも演じて欲しくない、というのが正直な気持ちです。

なぜなら、スネークの魅力は、腕っ節の強さではなく、ツンデレ的な情の深さにあるからです。

映画史に残る決め台詞、「Call me, Snake(スネークと呼べ)」も、カートのものであって欲しい。

日本語版では、青野武さんが吹替えを担当して、本当にはまり役でした。

日本でカルトなファンを獲得したのは、TV版で吹き替えされた青野さんの魅力も大きいと思います。

そう考えると、カーペンター監督のファミリー的なムードは、個々の個性を引き出す、心地よいものなのかもしれません。

全体にチープな感は否めませんが、映画の終盤、残り時間をかけたカーチェイスや、デュークとの死闘も、けっこうハラハラするし、大統領へのしっぺ返しも反権力のアンチヒーローはこうでなくっちゃ、という、エッジのきいたエンディングになっています。

サウンドトラックの魅力 : Spotifyのリンク

本作のサウンドトラックは、全曲、ジョン・カーペンター監督が自分で作曲しています。

ジョン・ウィリアムズ指揮&ボストン交響楽団みたいな派手さはないですが(当たり前ダ)、手作り感満載で、「デッ・デッ・デ・デ・デ ちゃーん、ちゃららーん」というユニークなメロディラインも一度聞いたら忘れられません。

シャンデリア付きのキャデラックで『デューク』が現れる場面の曲。ビートの利いたチャカポコ感が秀逸。
こんなのが監督一人で作れるんだなーと思うと感慨深い。

橋の上のカーチェイスで流れる曲。チャカポコ感がたまらん。

この場面だけは、高校生の私にもヒアリングできて、めちゃくちゃ嬉しかったです♥

I’m too tired. maybe later… (疲れてる。後にしてくれ)

I’d like to offer you a job. We’d make one hell of a team. (オレと組まないか。いいチームになる)

The name’s is Prissken.. (プリスキンと呼べ)

いろいろあって、スネークの黒歴史は捨てたらしい。

全曲ききたい人はこちらからどうぞ。

https://open.spotify.com/album/3vRFag7W8G9SY1sbeEMU90

劇場版とディレクターズカットについて

2017年に青野武の吹替版が収録されたブルーレイが再版されましたが、特典に幻のディレクターズカットが収録されてないのが痛い。

ディレクターズカットされたのは、作品のプロローグとして、「連邦銀行に強盗に入る」という場面です。

しかし、連邦銀行に不法侵入する割には作戦がまったく練られておらず、まるで中学生の万引きのよう。

おまけに暢気というか、無防備というか、地下鉄で逃走して、ぐうぐう居眠りするな、っちゅうの。

これでも『犯罪の帝王』だそうですよ・・(泣)

しかし、本作の中盤で、スネークがデュークの知恵袋であるブレイン(本名はハロルド)を訪れた時、

「久しぶりだな、ハロルド。自分ひとりで逃げやがって、あの後、ボブがどうなったと思う? ん?」

と凄むシーンで、

ボブって誰だ?

と首をひねった人は多いはず。

長い間、謎でしたが、ようやく解けました。

一緒に銀行強盗を働いた相棒のことです。

公開前にディレクターズ・カットされてたんですね。

いやいや、カットしたのは正解かも。

ストーリー的に、そこまで必要性は感じないし、どう見ても、中学生の万引きみたいから ^_^;

ちなみに、公開当時、劇場で販売されていたパンフレットには、銀行らしい建物から逃走する3人の男のショットが掲載されていました。

おそらく、この3人が、スネーク、ブレイン(ハロルド)、ボブだったののでしょう。

このワンシーンも、撮影はされたけれど、公開前にカットされたみたいです。

見たかったなぁ・・

*

と、思っていたら、YouTubeにUPされていました。

中学生の万引きにしか見えない、銀行強盗のディレクターズ・カット。
ここにコソっと置いときます。 enjoy !

それにつけても、スネークは大変なものを盗んでいきました。それは元・女子高生の私の【はあと】です♥

スネーク・プリスキンの雑学

わたくし、高校生の時分、京都の有名な洋書専門店で、ノベライズ版『Escape from New York』を購入し、学生向けの英和辞典片手に二日がかりで読破したツワモノです。
今もamazonで購入可能だけど、『中古商品1点¥ 14,211より』ですって!!

Escape from New York by Mike McQuay
ニューヨーク1997 小説

著者のMcQuayさんはアイザック・アシモフの翻訳本などを手がけておられるとのこと。

このノベライズ本によると、

スネーク・プリスキンの本名は、【 S.D.Plissken 】(名前の雰囲気からして、セルゲイ・ドミートリエヴィチ・プリスキン)←勝手にロシア名。

Special Forces Unit(特殊部隊) 【 Black Light 】の Lieutenant(中尉)

これは映画の中でもボブ・ホークが口頭で説明しています。

ノベライズ版では、なぜスネークが特殊部隊の中尉から悪の道に走ったか……という経緯が詳細に描かれていて(今はもう忘れたけども)、その最大の理由が、共産圏との戦争だったんですよ、確か。

だから、エンディング、高圧的な大統領に対して、痛烈なしっぺ返しをするのです。

スネーク 「あんたを助けるために大勢が死んだ。そのことを、どう思ってる?」

大統領 「彼らには感謝しとるよ。本当に気の毒だった(と、上辺だけ。そして、すぐTV中継の準備に入る)」

ちなみに、私がこのノベライズ版で学んだ最大の英単語は、Molotov Cocktail = モロトフ・カクテル (火炎瓶、煙幕弾 )

スネークが特殊部隊の中尉としてシベリアで闘っていた頃、テロリストの放つモロトフ・カクテルに苦しめられ……みたいな記述がありました。
(あるいは、スネークがモロトフ・カクテルを手作りして反撃していたか、どちらか)

しかし、モロトフ・カクテルなんて英単語は、学生向けの辞書には載ってない。

前後の脈絡から「火炎瓶のこと?」と想像はついたけど、実際に意味を知ったのは大人になってからでした。

意味を知った時は嬉しかった。

映画の中でも、アーネスト・ボーグナイン演じるタクシー・ドライバーが町のドブネズミ(ストリートギャングの意味)にモロトフ・カクテルを投げつける場面がありますが、モロトフ・カクテル、シベリア、プリスキンの三者には深い関わりがあるんですよね。

こちらはファンによるリメイク版予告篇。まあ、こんな感じになるんでしょうか。私にはカート・ラッセル以外のスネークは考えられないけれど。

ジェラルド・バトラーのスネークはこんな感じ・・えらい垢抜けてますな。

リメイク版のジェラール・バトラー
引用元:不明 スミマセン

カート・ラッセルはこちらの作品にも出演しています

初稿 2009年6月14日

誰かにこっそり教えたい 👂
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