ネーデルラントはネーデルラント人が作った ~オランダ建国の精神を思う

God schiep de Aarde, maar de Nederlanders schiepen Nederland.
世界は神が創り給うたが、ネーデルラントはネーデルラント人が作った。

一つの土地、一つの技術に恋することは、時に人生まで変えてしまうものです。

私にとっては、オランダの干拓技術とアフシュライトダイク(締め切り大堤防)がそうでした。

本著の「あとがき」にも書いていますが、私がオランダの干拓技術とアフシュライトダイク を知ったのは、1995年頃、海洋都市のモデルを探して、図書館で手当たり次第に専門書を読み始めたのがきっかけです。

小学校の頃から、鎖国政策の間もオランダとは交易があったこと、医学や土木など多くの知識と技術がオランダからもたらされたこと(『蘭学』『ターヘルアナトミア』『杉田玄白』あたり。ガラス、コップ、デッキ、ペン、といったオランダ由来のカタカナ語も多い)を知ってはいましたが、実際、オランダがどれほど優れた技術を有しているか、具体的にはほとんど知らなかったので、初めてアフシュライトダイクの存在を専門書で知った時、なんと素晴らしい構造物があるのかと、目を見張ったものでした。

とりわけ、心を動かされたのが、オランダの諺でもある、

God schiep de Aarde, maar de Nederlanders schiepen Nederland.
世界は神が創り給うたが、ネーデルラントはネーデルラント人が作った)

Nederlandは、その名の通り、『海より低い土地』。

国土の大半が海抜数メートル、もしくは海面より低い位置にあり、もしオランダの排水設備が三日間停止したら、西部の1/3が水没するといわれています。

いわばオランダの歴史は水との闘い、堤防と運河こそ国民の生命線なのです。

そんな危険な土地にも関わらず、人が水の流れを変えてでも住みたいと思うのは、やはり水と緑の美しさ、広大な海、国土の大半が水路に接し、交通や農業に適していることがあげられます。

また『東インド会社』に代表されるように、オランダは自由と共和の気風から近代的な通商システムを作り上げ、フランス、イギリス、スペインといった応酬列強に囲まれた小国にもかかわらず、空前の繁栄を遂げることができました。それは現代にも受け継がれ、独特の文化をつくりだしています。(大麻、安楽死、飾り窓、同性愛、日本人にはびっくりするような価値観もありますね)

『洪水多発だから危険。みんな逃げろ』ではなく、『だったら知識と技術で水の流れを変えてやろうじゃないか。ついでに自然のパワーを利用して、豊かな国を作ろうぜ!』がオランダの精神なのです。

自らの国土と幸福は、自らの手で作り出す。

その最たるものが、アフシュライトダイク(締め切り大堤防)です。

全長32キロメートルに及ぶ巨大な堤防が、ハイテク重機もパーソナルコンピュータもない時代、人の手によって作られたとは、なんという英知であり、意思の力でしょう。

彼らはみな、奴隷のように酷使されたのでしょうか。

そんなことは断じてありません。

この堤防が数百年の未来にわたって国土の生命線になると信じて、一つ一つ、人力で石を積み上げ、ついには海の水を堰き止め、堤防の内側に豊かな干拓地を作り出したのです。

まさに『ネーデルラントはネーデルラント人が作った』のです。

その威容は今も北海に広がり、堤防建設を指揮したコルネリス・レリーの彫像に見守られながら、沿海の干拓地を守り続けています。またこの堤防は北と南を繋ぐ主要な交通路でもあり、堤防の中程には、カフェや展望台、記念碑も設置されています。

将来の地球温暖化による水位上昇に備えて、今後もいっそう堤防強化されると共に、観光資源としての開発も計画されています。

オランダの精神は、21世紀も、22世紀も、さながら紅海を分かつ奇跡のように、水害から国土を守り、緑の美しい大地を創出することでしょう。

オランダの正式な国名はネーデルラント、英語で「Netherlands(ネザーランド)」です。

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筆者が実際に訪れ、写真に撮った印象を綴っています。
この堤防をモチーフにした小説のパートと合わせて。
オランダの締め切り大堤防(アフシュライトダイク) | 海洋小説 MORGENROOD -曙光

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