思想のないものはせめて方法を持て
酒場がぼくの学校だった
ここはことばの暴力教室だ
思想のボクシングジム
自己の絶壁をのぞく勇気を
思想のないものはせめて方法を持て
怒りをぶちまけてサンドバッグをたたけ
「出会い」と「関係」と「対決」を
人生に退屈してはいけない
すべての疑問についてやりとりを
ぼくが変わったのか読者が変わったのか
おやじを殴り倒せ
きどったあいさつはいらない
投書はことばの爆弾である
ときには酒場や町のほうが効果的な学校だすべての門は開かれてあるぼくは諸君の敵なのだ
1973年5月号新連載スタート「ジ・アザー・ハイスクール」①
自分を知るには「相手」が必要 ~言葉のボクシングジム
寺山修司と現役高校生が本音で語る『ジ・アザー・ハイスクール』の扉の言葉です。
令和の時代に読み返してみると、ずいぶん乱暴な印象がなきにしもあらずですが、若い子たちはこれぐらいガッツがあってもいいのではないでしょうか。
いつの時代も「反抗」「生意気」「挑戦的」が若者の特権。部屋の隅に縮こまっていても、人生は開けません。
そもそも、自分が変わりたければ、他人と交わらなければ。
自分の頭の中で、ああだ、こうだと煩悶しても、それ以上、拡がることはないです。自己啓発や哲学書を100冊読んでも、結果は同じ。いつまでたってもペーパードライバーのまま、人生のドライブは始まりません。
青春期において、一番大事なのは、寺山教官のように、精神的サンドバッグになってくれる人です。
時には怒るし、批判もするけれど、基本的に相手の存在を否定することはない、「まあ、若いから」で適当に受け流してくれる大人です。
そういう大人に、生意気な口を利き、驚かれたり、叱られたりする中で、若者は育っていくわけですね。
その点、現代はSNSの影響か、年寄りが妙に若者に媚びて、どうにも気色悪いし、他に言いたいことがあるくせに、いつも人目を気にして萎縮している若者も、ちっとも幸せそうに見えません。お互いにお互いを監視し合って、疲弊しているように感じます。
それでも、若者は未来を生きるもの。
これから何十年をいかに生きるか、そして自分は何ものか、自分なりに確立する過程も非常に重要です。
そして、「何ものになるか」より、自分が何ものかを知る過程に注力しましょう。
時に「何ものか」は憧れに過ぎず、自分の本質とはかけ離れていることがあるからです。
自分の本質を知らずに、憧れだけを求めても、かえって虚しくなるだけかもしれません。
鳥には鳥の、魚には魚の、生き方がある。
まずはこの基本を理解した上で、自分らしさを追求するのが、真に無駄のない生き方なんですね。
その為には、「相手」というサンドバッグが必要です。
ボクシングでも、一人で練習するシャドーボクシングと、コーチに相手をしてもらって対人的な技術を磨くスパーリングでは大きな違いがあります。シャドーボクシングでも、技術は身につくかもしれませんが、シャドーだけでリングに上がれば、多分、ボコボコにされるでしょう。
人間力も、それと同じ。
若い時分に、どれだけ強い相手に立ち向かうかで、その後の人生も大きく変わってくるわけですね。
現代は、寺山修司のように、精神的サンドバッグになってくれる大人もなく、物を言えば、叩かれるか、揶揄されるか、無視されるかで、意見するのも難しいですが、かといって何も言わなければ、相手にみくびられるだけです。
何事もトライ&エラー。言い過ぎれば謝り、愚かさに気付けば勉強する。その繰り返しで、利口な大人になっていくのではないでしょうか。
とりわけ、言葉のボクシングジムでは、対人的なスパーリングが何よりも重要です。
ちなみに、「おやじを殴り倒せ」というのは、暴力を振るえという意味ではなく、斬新な意見や鋭い疑問をぶつけて、おやじの価値観をひっくり返せ、といった話です(念のため)
思想のないものはせめて方法を持て
まだ「自分の思想」と言えるものが無いなら、絵でも、文筆でも、バイトでも、ボランティアでも、自分を表現する術をもて、という意味合いではないでしょうか。
たとえば、人生について、「こうだ」と言えるものがないとしても、自分らしさを生かす方法はたくさんありますね。
読書や映画鑑賞も立派な方法だし、友だちとおしゃべりするのが好きなら、口を動かすと同時に頭も動かして、自分はどうあるべきかを考えればいいのです(マックシェイクをすすりながら・・・)
最悪なのは、意見もないし、打ち込めるものもないこと。
たった1時間さえ、何をしていいか分からないようでは、何のために生きているのか分かりません。
たとえ馴染みの喫茶店にコーヒーを飲みに行くだけでも、人に笑顔を与え、お店の利益になるのですから、そうした方法を持つことはとても大切です。
今は、周りが唸るような、穿った事を言うのが流行りですが、あなたを待っている人がいる、というのは、それ以上に価値の有ることです。
それこそ、方法に、上も下もありません。
自分らしい方法で、一日一日、前に進んでいきましょう。