作品の概要
マネーモンスター(2016年) - Money Monster
監督 : ジョディ・フォスター
主演 : ジョージ・クルーニー(司会者ゲイツ)、ジャック・オコンネル(襲撃者カイル)、ジュリア・ロバーツ(番組ディレクター・パティ)
あらすじ
投資番組『マネーモンスター』の生放送中、拳銃を手にした青年カイルが乱入する。
カイルは、人気司会者ゲイツのすすめた金融商品を購入して、大損したのだ。
事件は直ちに米国中に中継され、スタジオも騒然とするが、番組ディレクターのパティは冷静にゲイツと現場スタッフに指示を出し、何とか事態を収めようとする。
一方、企業の株価操作の実態が明るみになり、事件は思わぬ方向に展開する――。
実力派女優ジョディ・フォスターが監督した、金融ドラマの秀作。
オンライン決済が本格化する前の作品なので、若干、現状とのズレはあるが、金融サービスのIT化による弊害を如実に描き、スリリングな社会派ドラマに仕上がっている。
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マネーモンスター(字幕版)
予告編はこちら。
実体のないマネーゲーム ~真面目に働くのが馬鹿馬鹿しくなる庶民
米国の狂気のようなマネーゲームと、それをそそのかす大手メディア。
オンラインでデジタルマネーを操作して、一人ボロ儲けを企む資本家と、それを鵜呑みにして破滅する青年。
IT以前は考えられなかった現代のマネーゲームの本質をサスペンスタッチで描いたのが、ジョディ・フォスター監督の『マネーモンスター』だ。
投資番組『マネーモンスター』の人気司会者リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)は、庶民の人生を左右するお金の情報をまるで歌謡ショーのように演出し、オンラインシステムがはじき出すデータだけを根拠にして、「今が買い時」と個人投資家を煽る。(ゲイツというネーミングは、ビル・ゲイツをもじっているのか? IT時代の象徴として)
その番組スタジオに、拳銃と爆弾を携えて乱入した、貧しい宅配員の青年カイル(ジャック・オコンネル)。
出てきた瞬間、「ダメだ、こりゃ」と先行きが見えてしまう草食系ながら、生放送中に乱入され、本物の銃を突きつけられると、さっきまで景気よく司会を務めていたリー・ゲイツも真っ青になって命乞いをする。
スタジオ中が騒然とする中、一人冷静なのが、ジュリア・ロバーツ演じる番組ディレクターのパティだ。現場スタッフのマイクを通じて、リー・ゲイツやカメラマンに的確な指示を与える。
その模様は、犯人の要求に応じてライブ中継され、米国大好き「劇場型犯罪」に発展。
同時に、スタジオと放送局の周囲はニューヨーク市警に包囲され、カイルとリー・ゲイツは狙撃手の標的になる。
緊張が高まる中、カイルはリー・ゲイツの予想に反して株価が暴落したアイビス社の代表に釈明を要求し、CEOの行動に不信を抱く広報担当アイアン・レスターは独自に調査を開始する。
こうしたやり取りを見るうち、庶民はきっとこう感じるはず。
現代のマネーは単なる「数値」であり、実態のないデジタルデータに生存を脅かされていることを。
では、利率を決め、商品の値段を決め、時給を決め、労働の価値を定めているのは、いったい誰なのか?
作品の冒頭、リー・ゲイツはこんな風に番組の趣旨をアピールする。
皆さんが預けたお金はどこにあるのでしょうか。昔は取引銀行に行って、金庫室を開けると、そこに金塊があったものでした。今は違う。皆さんが汗水たらして働いたお金は、光ケーブルの広大なネットワークの中を駆け巡る、エネルギー粒子でしかありません。なぜでしょうか。スピードを求めたからです。金融取引はスピードが命。他人との競争です。しかし速さだけを求めて突っ走っていると、パンクしてしまうことがあります。
オンライン決済が発達し、もはや「紙幣」や「硬貨」を目にする機会も著しく減った現代、お金に対する庶民の感覚もずいぶん変わった。
以前なら、山のような札束や、ずっしりと重い財布で、その価値を実感することができたが、現代はスマホやレジ台のディスプレイに表示される「数値」が全て。
誰でもクリック一つで、数値=お金を増やしたり、使ったりできるオンライン取引の時代において、人間の労働の価値や、商品の本当の価値は、どうやって測ればいいのか。
何もかもが実体をなくし、数値が全ての現代、人間の存在自体が、薄っぺらいものになりつつある。
本作において、ジョディ・フォスター監督は「こうあるべき」という答えは明示していない。
マネーゲームに興じる人々の本音、破滅した人の嘆き、オンライン取引の裏の仕組み、その為に誰かが人生を狂わされても、TVの前では見世物でしかない現実を淡々と描き出すのみです。
そして、これほどの悲劇があっても、人々はすぐに忘れ、明日からはまた金儲けに奔走する。それが現代だ――と、半ば諦めたような感じで締めくくられる。
私としては、もう少し突っ込んだエピソードが欲しかったし、amazonのレビューでも似たような意見が散見されるので、どこか物足りなく感じるのは共通の印象だろう。
だが、あまりにディープな議論になると、政治色の漂う、思想っぽい作品になってしまうし、ジュリア・ロバーツも宙に浮いてしまうので、これぐらいで丁度いいのかもしれない。(ジュリアも素敵な役者だが、シリアスな社会ドラマには向かない)
何にせよ、真面目に働いているのが馬鹿馬鹿しくなる作品なので、金欠で苦しんでいる人は見ない方がいいかも。
いつかイイ事あるかもしれないと、額に汗して働く庶民は、あっけなく撃ち殺される、カイルと似たり寄ったりかもしれません。
ちょっとばかり大人の恋愛もオリコンで、最後の締めは、さすがベテラン同士と感じました。
エンドロールに「ラップ」を取り込んだのもセンスが良いです。
マネー、メディア、SNS、国際政治と、下手すれば詰め込みすぎで失敗しがちな要素をバランスよく配して、テンポのいい作品に仕上がっています。
ジョディ・フォスターにはまだまだ頑張って欲しいですね。
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