若い人に「何の為に生きるのですか?」と問われたら、私は迷わず「夢を叶えるため」と答えます。
夢を叶えるといえば、アイドル歌手になるとか、人気漫画家になるとか、自分の好きな事で稼いで、なおかつ社会的にも評価されることがそうだと思いがちですが、それはあくまで手段であって、目的とは似て非なるものです。
たとえば「漫画家になるには、どうすればいいですか?」という質問があります。本来、このような質問は有り得ません。なぜなら、描きたいテーマがあって、そのビジョンも明確な人は、漫画家になる以前に描き始めているからです。恐らく、質問者は「漫画家として商業的に成功するにはどうすればいいですか?」という意味で聞いているのでしょう。
しかし、それ以前に大切なのは、「何を描きたいか」というテーマです。
戦国時代をサラリーマン社会に置き換えて、尊敬する武将のスピリットを今に伝えたいとか、サイコスリラーを通じて人間のどろどろした心の闇を描きたいとか、いろんな動機があるはずです。漫画というのは、自分が伝えたいテーマを具現化する手段の一つに過ぎません。油絵が得意な人は油絵で表現するし、ダンスが得意な人は創作舞踊で独自の世界を織り上げます。
手段がどうあれ、自分が伝えたいテーマを理想の形で表現できたら、それこそ夢が叶った瞬間であり、漫画家になれば、プロのダンサーになれば、それで満たされるわけではないんですね。実際、自分より上手な人、たくさん稼いでいる人、世の中にいっぱいいるわけで、評価や肩書きに拘れば、生涯、劣等感に苦しむだけですから。
先にも述べたように、どんな人も、自分の個性や能力を生かして、社会の役に立ちたいという願いを持っています。物作りが好きな人は、自分の作ったもので周りを喜ばせたいと思うし、人付き合いは苦手でも、表計算や文書作成をさせれば誰よりも早くて正確というタイプもいます。
大切なのは、自分の持っている力をどのように生かし、どんな人生を送りたいか、という明確なビジョンです。漫画家に喩えれば、自分が描きたいテーマです。
「俺様の尖ったギャグセンスを仕事にして、社会を明るくする方法はないか」「一人で編み物をしている時が一番落ち着く。自分の好きなことをしながら、なおかつ、人にも喜んでもらえる方法はないか」「世界の過酷な現実と向き合って、真実を世に広めたい。なぜこんな問題が起きるのか、参考になる資料はないか、世間に伝えるにはどんな方法があるか」等々、テーマから方策を見出す過程を勉強といいます。真の創造性は、キテレツなものを見せびらかして、他人との違いをアピールすることではなく、その人らしい方策や表現方法を打ち立てていく中にあるわけですね。
ある意味、「夢を叶える」とは、方法を模索する過程を意味するのかもしれません。実際に夢が叶ったら、試行錯誤を繰り返して、四苦八苦していたあの頃こそが夢だったと気付くでしょう。
この世に生きる意味は、自分の真価と世界がリンクした時に実感するものです。
憧れの職業や肩書きは、あくまで手段に過ぎません。