2月14日は、バレンタイン・デーですね。
ポーランドでも、この日は『Walentynki – Dzień Zakohanych』(バレンタイン-愛の日) として、花束やチョコレートをプレゼントする習慣があります。
日本と異なるのは、女性から男性に愛を告白する日ではなく、男性から女性がメインで、親子、友人、同僚など、あらゆる人間関係が対象という点。
相手が誰であれ、日頃、口にしない愛の言葉を、カードや贈り物に添えて相手に伝えるのは、とても有意義だと思います。
そんなバレンタイン・デーにもっともふさわしいラブソングと言えば、ジャズ・スタンダードの名曲『マイ・ファニー・ヴァレンタイン(My Funny Valentine)』。
1955年に映画化されたミュージカル『ジェントルメン・マリー・ブルーネット』の挿入歌として作曲されたこの曲は、マイルス・デイビス、サラ・ヴォーン、オスカー・ピーターソンといった古今東西の一流どころがこぞって演奏し、ヴォーカル、ピアノ・ソロ、オーケストラなど、様々な名演を残しました。有名な曲なので、歌詞は知らなくてもメロディは知っているという方が大半ではないでしょうか。
しかし、この曲の主人公である『ミスター・バレンタイン』は『Funny(おかしな)』と表現されるように、決してお洒落な二枚目ではないし、「Is your mouth a little week?(口元にもしまりがない)」なんて言われて、頭の切れるタイプでもありません。いわば『ヘンな人』なのですが、「You make me smile with my heart(心から笑わせてくれる)」、ユーモラスで気持ちの優しい男性です。
だから、彼女は言います。
「Don’t change a hair for me, Not if you care for me, Stay little valentine, Stay…」
私を愛しているなら、私の為に髪の毛一本変えないで。いつまでもそのままでいて……と。
「Each day is Valentine’s day(毎日がバレンタイン・デー)」で結ばれたこの曲は、愛する悦びに満ちあふれた素敵なラブソングなのです。
ベルばらにはラブソングの似合うキャラクターがたくさん登場しますが、この曲は、マリー・アントワネットからルイ16世紀にぴったりだと思いませんか?
本編ではフェルゼンに圧倒されっぱなしで、影の薄かったルイ16世ですが、ベルばらKidsでは、アントワネットとのほのぼのした掛け合いが魅力的。
お世辞にもハンサムとは言えないルイ16世ですが、優しくて、大らかな人柄は、他のイケ面キャラに勝るとも劣らず、アントワネットも心和むことが多かったのではないでしょうか。
ルイ16世の処刑が決まった夜、アントワネットは神の前にひざまずき、「激しい恋愛感情はなかったにせよ、わたしはあの人を愛していたのだと……これもまた愛であったのだと……体にしみわたる長い夜をアントワネットは思いつづけていた」と一身に祈りを捧げます。
魂ではフェルゼンを求めながらも、心ではルイ16世を敬い、親しんできたことは、口に出さずとも、十分に伝わっていたのではないでしょうか。
愛された思い出は月日と共に薄れていきますが、「心から愛した」という実感は一生輝き続けるもの。
もし想う人があるならば、勇気をもって愛を告白してはいかがでしょうか。
コミックの紹介
ベルばらにマリー・アントワネットの祈りの場面を挿入したのは非常に意義があると思います。
マリーとフェルゼンの恋は美しいですが、不倫は不倫、夫・ルイ16世にとっては、決して幸せではなかったからです。
この場面を描いたのは、一つの救いであり、人間としての良心と感じます。
私も、幼心に「ルイ16世の立場はどうなるの?」と疑念を抱いてましたので、この場面で納得がいった、という感じです。
第9巻『いたましき王妃のさいご』では、ヴァレンヌ逃亡の失敗により、引き裂かれる国王一家の悲運を描いています。
オリジナル表紙はこちら。デジタル版の扉絵は、連載初期のイラストです。
名曲『マイ・ファニー・バレンタイン』
この曲が永遠のスタンダードとなったのは、格好や憧れではなく、本物の愛を謳っているからでしょう。
歌の主人公である女性も、まさかこんなファニー(おかしな)タイプの男性に夢中になるとはゆめ思わなかったはず。
だから、余計で、彼が愛おしくてたまらない。
いつまでも、このままでいて欲しいと願う。
この曲は、愛の悦びに満ち溢れたバラードである一方、ジャズ・ミュージシャンの力量を示す、試金石のような楽曲でもあります。
なぜなら、天上界の大物が、すでに数多くの名演を録音しているからです。
先人の演奏を真似すれば、二番煎じと嘲られ、新しすぎても大衆が追いつかない。
スタンダードの難しいところは、スタンダードであるが故に、その他大勢の名演に埋もれやすく、また聴衆の耳も肥えている点でしょう。
とりわけ、『マイ・ファニー・バレンタイン』は、全体にスローテンポで、音域も狭いため、下手な演奏すれば退屈でしかありません。
歌詞はスイートだがだが、奏者は決してスイートじゃない、なかなかハードルの高い曲です。
My funny Valentine
Sweet comic Valentine
You make me smile with my heart
Your looks are laughable
Unphotographable
Yet you're my fav'rite work of art
Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?
Don't change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine
Stay!
Each day is valentine's day
Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?
Don't change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine
Stay, oh stay!
Each day is valentine's day
私のお茶目なバレンタイン
優しく 可笑しな バレンタイン
あなたは心から私を笑わせてくれる
あなたの見かけはおかしくて
とても写真向きとは言えないけれど、
あなたこそ まさに私の愛する芸術作品
ギリシャ彫刻には程遠いし
口元にもしまりがない
口を開けば
とても知的とは言えないけれど
私の為に髪の毛一本 変えたりしないで
私のことを愛しているなら
いつまでもそのままで
愛しのバレンタイン
私には毎日がバレンタインデー
おすすめ動画 ~ミシェル・ファイファーの歌唱
こちらは私のおすすめ。
ミシェル・ファイファーがデイヴ・グルーシンのアレンジで歌う『マイ・ファニー・バレンタイン』です。
映画『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』のエンディング曲です。
詳しくは、売れない芸人の夢と悲哀を描く 映画『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』で解説しています。
ジャズの名唱 ~カーメン・マクレエ
スタンダードジャズなら、カーメン・マクレエの歌唱がおすすめ。
クリームみたいにしっとりした歌声が魅力です。