映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
作品の概要
ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 (2019年) - Long Shot(原題の「Long Shot」には「勝つ見込みの低い候補者」や「大穴」などの意味がある Wikiより)
フレッドの卓越した文筆力に着目したシャーロットは、彼を専属のスピーチライターとして雇用し、外遊に同行する。
旅を通して、二人は急接近するが、シャーロットの側近から「大統領の夫としてふさわしくない」と言われ、大統領選挙を前に二人の関係は険悪になる。
そんな折り、環境政策をめぐって対立していた現職のチャンバース大統領は、シャーロットを引きずり下ろすために、とんでもない動画をSNSで拡散する。
果たしてシャーロットは大統領選挙に勝利し、フレッドと結ばれるのか――。
男女平等より、愛が大事
昨今の男女平等やフェミニズム運動に辟易している人も少なくないのではないだろうか。
もちろん、制度の上での不平等は是正しなければならないし、結婚・出産や身体的なハンディに対するケアとフォローも不可欠だが、何でもかんでも、平らにすれば問題が解決するわけではないし、人と人がいがみ合い、損得や優劣にこだわる限り、愛や平和とは縁遠い人生を送ることになると思う。
本作では、容姿も仕事もイケてない独身ジャーナリストのフレッド・フラスキーが、国務長官で、次期大統領候補でもある幼なじみの美女シャーロットに恋をする。
どこから見ても、ありえない組み合わせだ。
しかし、勘違いしないで欲しいのだが、女性の皆が皆、デブとハゲはいや、と思っているわけではないし、キモだ、劣化だとあからさまに差別する人も少数である。
もし、周りにそういう女性しかいないのであれば、よほど辺境の魔界に身を置いているのだろう。
それは男性にとっても同様。
顔が、身長が、とこだわる人の周りには、運も性格も悪い人しか寄ってこない定めになっいて(たとえ見た目が格好よくても)、地雷を踏んで不幸になるから、いっそう容姿にこだわるようになる、その悪循環である。
人の一生を左右するのは、顔でもなく、性格でもなく、『運』だ。
だから、利口な女性はさほど容姿は気にしないし、それより、頭のいい男を選ぶのである。
本作のフレッドも、キモオタ系キャラクターではあるが、決して無能ではないし、見識も高い。
本人や周りが思うほど不細工でもないし、あれほど個性的なスピーチ原稿が書けるなら、十分に魅力的ではないだろうか。
それでも、世間が期待する『大統領の夫』というイメージからは、かなりかけ離れているし、フレッドか、リチャード・ギアか、と問われたら、多くの人は、リチャード・ギアを選ぶだろう。
その点、フレッドとシャーロットは、世間の偏見をどのように乗り越えて、国民を納得させるのか。
それについて、ユニークな回答を用意したのが、本作の最大の見どころだ。
トラブルの原因となるエロ動画も、アメリカらしいジョークで、上手く回収している。
必ずしも男性が自分の理想にこだわる必要はなく、女性を補佐することで、達成できる仕事もある。
ファースト・レディの対義語として、『ファースト・ミスター』という公称を選んだのも、これぞ男女平等の幸福型といった印象だ(つまりは、ファースト・カップル。二人で一つの大統領)
本作は、アメリカらしい下ネタが多く、あのノリが苦手な人には、ちょっと辛いかもしれないが(特に一人顔射はやり過ぎではないかと・・(^_^ ラブコメとしても軽妙だ。
半分、政治ドラマではあるが、(現実にこういう事もあるんだろうな)という陰謀も、コミックみたいに痛快に描かれ、重くのしかかるものがない。
こんなカップルも、女性大統領も、現実にはありえないかもしれないが、一つの理想として楽しむ分には十分ありだろう。
女性の権利がー、ポジションがー、みたいな、フェミ系映画に辟易している人にもおすすめの良作である。