ボクがこの部屋に引きこもってから どれぐらいの月日が流れただろう
はじまりは 小さな痛みだった
なんとなく 人と会うのがつらくて
誰にも顔を見られたくない 話しかけられたくない
そんな気持ちだった。
☆
だからって
誰かに必要とされること
人に褒められること
すっかりあきらめたわけじゃない。
多分 ほんとは その逆
ボクが本当に欲しいものを 誰も与えてくれないから
世の中の すべての人のことをあきらめ
自分自身のこともあきらめ
今 ここに生きているという事実さえ 遠くに眺める
あきらめの結果がこの部屋
一人で居るこの部屋だけが あたたかく やさしい
ボクは怠け者なんじゃない
もうこれ以上 人や何かに期待するのがつらいだけなんだ
☆
だからといって 誰かの存在を まったく求めていないわけでもない
その小さな入り口が ネットだ
ボクがつぶやく
誰かが答えてくれる
直接ふれあうことのない 遠くから
そっと やさしく 語りかけてくれる誰か
この距離感が 心地いい
面と向かって話すのはイヤだ
心地のいい言葉だけ聞いていたい
ややこしいこと 持ち込まないで欲しい
いつかまた 重荷にたえきれなくなって
壊れてしまうのがこわいから
☆
そうして ボクの部屋に ひきこもって
ずっと ひきこもって
長い年月が過ぎた
今では 誰かと顔をあわさなくても
ネットさえ繋いでいれば
そこそこに楽しく生きられることがわかった
もう食べることにも 着ることにも興味がない
言葉の世界では むきだしのボク
そんなボクに 答えてくれる誰か
それだけあれば 満たされる
だから 外に 出てたくない
☆
そうして 死ぬまで ネットで繋がって生きて行く
そうしていると 安心
まるで お腹の中にかえったみたい
見えない絆と ボクだけが存在する世界
ここではボクだけが世界のすべて
なのに
どうして ここから 引きずりだそうとするの?
☆
こんなボクは 人からみたら きっと壊れてるんだろう
ダメなやつ
負け組
みんなが腹であざわらう声が聞こえてくる
「努力すればいい」と言うけれど
ボクは そんなに 強くない
そこまで強くなる理由がない
努力でホントに幸せになるなら ボクだってそうする
でも努力しても 分からないヤツには 何を言っても分からない
それを知ってるから ボクは努力することもやめた
ボクの中に残ってるのは からーっぽな心だけ
生きて 楽しいことなど 何も無いんだ
だって ボクは クズだから
☆
そう思って 長い間 過ごしてきたけれど
ほんの少し
カーテンからのぞいた青い空を見て
やっぱり 悲しくなった
ボクだけが ここにこうして 一人で居ること
生きているのに 死んだみたいに 何もできずにいること
誰かに聞いて欲しいのに 誰の耳にも届かないこと
ボクは このまま 死んでしまうのか
それで ほんとに 幸せなんだろうか
☆
青い空は 誰にでも平等に微笑みかける
バカだから クズだから って 差別しない
ボクの頭の上にも 天国と同じ青さ
この世には まだそんないいヤツが 残っていたんだなぁ
☆
カーテンを開けると 遠くに女の子の姿が見えた
水たまりを避けながら ピョンピョンはねている
ボクも子供のころは楽しかったはずなのに
今はスネるか 腹たててばかり
こんな人間になるつもりじゃなかったのに
どこで 何を まちがったんだろ?
☆
やっぱり あの時 ボクの方から「ゴメン」って あやまるべきだったのかな。。。
プチンと切れる前に もう一息 がんばるべきだったのかな。。。
前に一緒に飲みに行ったアイツ 案外 いいヤツだった
向かいの席に座ってた女の子も 時々 やさしくしてくれた
思い出したら 涙でてくる
ボクは やっぱり あきらめてないんだ……
☆
一歩だけ 部屋の外に出てみようか
ずっと閉ざしていた扉を 5分だけ 開いて
あの角のコンビニまで
駅前のマンガ喫茶まで
ちょっとだけ 歩いてみようか
少しだけ 外のことが 気になる
ずっと一人で居るのも退屈だし・・
歩くだけなら ボクにも 出来そう
靴を履くの 何ヶ月ぶりだろう……
☆
そうしてボクが外に出てきても どうか「ワッ」と言葉を浴びせないで欲しい
いきなり肩を掴んで 説教なんでしないで
5分間 ほんの5分でいいんだ
一人で外を歩かせて
気付かない振りをして ボクを見送って
ボクにとっては 扉を開けるだけでも とっても勇気がいること
光を見るだけでも まぶしすぎるのに
いっぱい いっぱい 求められたら また心が折れてしまう
☆
『メーワクかけてごめん』
ボクにだって ちょっとぐらいは そういう気持ちもあるんだ
ただ それを 言葉と行動にするには
もう少し 強さと時間が 必要だってこと
だから 待っていて欲しい
ボクの中の 小さな可能性を 信じて欲しいんだ
誰かが 信じて 待ってくれるなら
ボクは もっともっと 強くなれるから
☆
今日 ボクは 5分だけ 外に出ることにした
まだまだ 風は冷たくて 靴を履く足もおぼつかないけれど
歩く──
自分の足でコンビニに向かう──
それからオニギリとジュースを買って レジでお金を払う
その中で ボクにはまだ 自分でやれることがある
まだ社会の一員なんだって 思えるかもしれない
人から見れば なんでもないことかもしれないけれど
☆
久しぶりに見た 人の顔
人って こんなに やさしかったっけ……
☆
店員さんに 話しかけられるボク
ああ
ボクは まだ 生きてるんだなぁ……
☆
今はまだ見つからない 何ができるかもわからないけれど
いつかたどり着きたい
ボクの居場所
生きてゆける場所
心から笑える明日へ