「落ちこぼれが世界を救う」を主題に、ウィル・スミス、ジェフ・ゴールドブラムらが好演した前作『インデペンデンス・デイ』(1996年版)から20年後。民族間で対立を深める現代において「人類が一丸となって」のメッセージは遠いものとなった。
両作の見どころを画像付きで紹介しています。
『インデペンデンス・デイ』(1996年)の魅力
作品の見どころ
ディザスター・ムービーの傑作『インデペンデンス・デイ』は、1996年7月2日、アメリカの独立記念(7月4日)に合わせて公開されました。
超大型円盤が黒雲の合間からぬ~っと現れ、ホワイトハウスやロサンゼルスが吹っ飛ぶCMは、TV等でも繰り返し放送され、全世界で空前の大ヒットとなりました。
本作は、ウィル・スミスの出世作でもあり、メジャー級のアクション映画で初めて主演を務めたアフリカン系俳優として記憶しています。
物語は単純明快。
アメリカの独立記念を控えた7月2日、突如として直径24キロメートルに及ぶ超巨大円盤が世界中の大都市の真上に現れ、一斉に攻撃を仕掛けます。
ワシントンも、ロサンゼルスも、パリも、ロンドンも、大都市という大都市が灰になり、人類は死滅したかに見えましたが、かろうじて生き残った人々が、(なぜか)米国大統領に導かれて反撃し、人類の独立を取り戻す――という話です。
本作の魅力は、とにかく、「デカい」「激しい」「馬鹿馬鹿しい」と三拍子揃った面白さでしょう。
一つ一つが、「そんなアホな」と白目を剥くような設定にもかかわらず、主演のウィル・スミスはスマートで格好いいし、旗頭となる米国大統領を演じたビル・プルマンも、当時、現職であったクリントン大統領を彷彿とさせ、甘いマスクが少女漫画の王子さまのように素敵。
また、スティーブン・スピルバーグの映画『ジュラシック・パーク』で天才数学者マルコムを演じ、大スターの仲間入りを果たしたジェフ・ゴールドプラムも、真っ先に宇宙人の脅威を警告するMIT卒のエンジニア、デイヴィッド・レビンソン役をユーモラスに演じ、シリアスも娯楽もやれる演技派であることを強く印象づけました。
ローランド・エメリッヒ監督といえば、古代エジプト的な砂漠の星を舞台に、宇宙人の建造物の謎に挑む『スターゲイト』 、2012年に世界は滅亡するというマヤ文明の預言をモチーフとした『2012』、地球全土が凍結する『デイ・アフター・トゥモロー』など、荒唐無稽な筋書きで、世界中の映画ファンを呆れさせるので有名ですが、『インデペンデンス・デイ』(1996年)は、役者らの好演もあって、満員御礼の大ヒット。クリントン大統領も私邸で鑑賞し、「僕も戦闘機に乗らないとね」という冗談も飛び出すほどだったそうです。(当時の週刊誌)ただし、『スターゲイト』は面白かったですけど。
しかし、それ以上に本作が話題になったのは、1996年で、ノストラダムスの大予言に基づく世界滅亡が間近に迫っていたこと。
冷戦が終結し、今度こそ本物の世界平和が訪れるのではないかという期待があったこと。
世の中全体にまだ勢いがあり、脳天気なドンパチ映画がヒットする精神風土があったこと、などが挙げられます。
では、どこで変わったのかと問われたら、やはり、2001年9月11日のNYテロだと思います。
あの日を境に、ハリウッド映画の仮想敵はソ連やエイリアンからアラブのテロリストに、ドンパチ映画も『ハートロッカー』や『ブラックホークダウン』のような、事実に基づく、リアルな物語が求められるようになりました。
『インデペンデンス・デイ』は、いわば冷戦終結からNYテロの合間に訪れた、つかの間の希望の火花――。
一瞬、地上から『共通の敵』が消え去り、世界全体が新世紀に向けて、どこかお祭りムードだった時代の徒花みたいなものです。
今、同じテーマで作り直しても、あまりの馬鹿馬鹿しさに、誰も見向きもしないでしょう。
2016年の『インデペンデンス・デイ : リサージェンス』が肩透かしに終わったのも、本作の花形であるウィル・スミスが出演せず、 脚本も荒っぽい理由が大きいですが、 世情的に、『エイリアンVS人類』のお祭り総攻撃が流行るような時代でもない、という理由もあると思います。
そう考えると、ローランド・エメリッヒのようなおバカ・パニック・ディザスタームービーが大衆に受ける時代は幸せなのかもしれません。
■ 作品情報
ローランド・エメリッヒ監督の毎度の大仕掛けは、観客に夢を魅せるには最高だ。特に本作は、ベトナム戦争上がりの大統領スピーチや農薬散布オヤジの復讐劇、環境オタクの社会幻滅、職業の貴賤思想やレイシズム、科学者の独り善がり、出来過ぎる女性との離婚、宇宙飛行士の狭き門等の印象的な小ネタが豊富で、良い意味でどうでも良い脇役がいないのが好きな点だ。(Aamzonレビューより。私も同感です)
落ちこぼれの総攻撃
amazonレビューにもあるように、本作は社会的落ちこぼれが一丸となり、無敵のエイリアンに総攻撃をかける、シンデレラ物語でもあります。
たとえば、主演のウィル・スミスは、ハリウッド史上初めて、アクション大作で主役を務めたアフリカン系で知られます。(私が読んだ映画誌にはそのように紹介されていました)
今でこそ、アフリカン系の役者がメジャー大作の主役を張るのも当たり前ですが、1990年代は、まだまだ社会的偏見も強かったですし、2009年、バラク・オバマ氏が米国大統領に就任するまで、こうした問題は見て見ぬ振りされてきました。(もちろん、それ以前も、アフリカン系の役者が重要なキャラを演じることはありましたが、『主役』として表看板に立ったのはウィル・スミスが初めて)
エイリアンの襲撃を警告するデイヴィッドも、『ジュラシック・パーク』から引き続き、異端の天才博士で、真実を口にしても、周囲からはまともに相手にされず。
若くて経験の浅い米国大統領、ホワイトモア氏も支持率は今ひとつだし(当時のクリントン大統領を意識したキャラ)、唯一、エイリアンと遭遇した農薬散布のオヤジは町の住人からキチガイ扱いされ、家族にも馬鹿にされる鼻つまみ者です。
また、ウィル・スミスが演じるスティーブン・ヒラー大尉は、凄腕のパイロットながら、恋人はストリッパーのシングルマザーで、出世も難しいアフリカン系。
他にも、秘密基地に追いやられた(?)マッド・サイエンティストや、米国社会では少数派のユダヤ教徒、シングルマザーに育てられる貧しい少年や、出世競争に敗れた下っ端など、いわゆる『ルーザー』が主要キャラを占めている。
ところが、エイリアンの総攻撃により一掃されるのは、都会でハイソな暮らしを楽しむ都会人であり、政府の高官であり、「エイリアンは友達」と浮かれはしゃぐナチュラリスト、等々、いわば、イケてる人々だ。
逆に、家も持たず、ろくに稼ぎもない、トレーラー暮らしの地方民が生き延びて、次代の担い手となる。
『インデペンデンス・デイ』がウケたのも、底層民にとってはクソみたいな現実が一掃され、ルーザーが勝者となるからだろう。
ある意味、超巨大円盤は、クソみたいな現実を吹き飛ばし、本当の意味で自由な世界をもたらして欲しいという、当時の人々の願望が結晶化したものといえるかもしれない・・。
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本作の特徴は、とにかくテンポがよくて、脳天気な点。
巨大UFOが降臨する場面は、公開前から繰り返しTVCMで流れていたので、皆、何が登場するのか、よく知っています。
だから、変に気を持たせることなく、物語の冒頭で、早々と登場して、あっという間に攻撃が始まる。
リサージェントが前半でもたつくのとは対照的です。
今でこそ「ホワイトハウス襲撃」もポピュラーですが、20年前はインパクト大でした。
あの頃はまだまだアンタッチャブルな存在だったからです。
ちなみに、当時の米国大統領は、「不適切な関係」でお馴染みのビル・クリントンです。
この巨大円盤を目にする度に、「アカウニの尻の穴」を連想するんですよね。
うちの親戚が漁師で、ウニが大きな収入源だったのです。
どうやってウニの身を取り出すかというと、最初にナタみたいな裁断包丁で横分割して、耳かきみたいな器具で身をほじくり出すんですね。
ウニの身は非常に柔らかく、崩れると商品にならないので、「私もやりたい」と言っても、絶対にさせてくれませんでした。
ウニ一つ、けっこうな値段がするそうです。
エイリアンの秘密の信号にいち早く気付くITの天才、デヴィッド。
ジェフ・ゴールドブラムも『ザ・フライ』で一躍有名になり、『ジュラシック・パーク』で不動の地位を築いて、その勢いで、この大作に出演しています。
天才エンジニアとして登場したのは、ジュラシック・パークのマルコム博士のイメージが強かったからだと思います。
ちなみに、チャールズ・ブロンソン主演のアクション映画『狼よさらば』で、娘を暴行するチンピラ役で登場します。
これが最初のキャリアみたいです。
まさに大出世。努力されたんでしょうね。
本作で一躍スターダムに上り詰めたウィル・スミス。今観ても、魅力的。
彼を見出したエメリッヒ監督も慧眼ですね。
もしかしたら、エメリッヒ監督の最大の功績は、ウィル・スミスを世に送り出したことかもしれません。
「宇宙人に誘拐された」という過去のために、ずっと笑い物にされてきた農夫のラッセル・ケイス。
家族は貧しいトレーラー暮らし。ゆえに生き延びる……という設定も、エメリッヒ監督が言うところの「落ちこぼれが世界を救う」なのでしょう。
それにしても、農薬散布のセスナ機しか経験のないオヤジが、どうやって一夜で最新鋭の戦闘機の操縦をマスターしたのでしょう。
このあたりが無茶苦茶なのだけど、それも笑って許せるのが本作の魅力
ここぞという時に「ミサイル発射装置の不具合」というのも、非常にわざとらしい演出ですが(アクション映画のあるある大百科みたいな)、けっこう泣ける場面です。
一人、突撃するオヤジ。けっこう泣けます。
私には今にも○○しそうな、ケツの穴にしか見えませんが。
イラン、イラク、イスラエル.
様々な民族が一丸となって……という設定も、1996年にはまだ説得力がありました。
2016年になると、現実があまりに重くて、洒落にもなりません。
デヴィッドのお父さんはユダヤ教。
ゆえに息子の名前はデヴィッド(=ダビデ。古代イスラエルの王。ペリシテ最強の戦士ゴリアテを打ち倒す英雄)。
細かな所まで設定にこだわっています。
『インデペンデンス・デイ : リサージェンス』(2016年)
『インデペンデンス・デイ』から20年後。
「やつらが帰って来た」のノリで制作されたのが『インデペンデンス・デイ : リサージェンス』です。
確かに特撮は向上し、カメラワークも洗練されましたが、肝心のウィル・スミスは出演せず、「ヒラー大尉が事故死して、その息子が活躍」というご都合主義で、1996年版のファンは、ここで既に冷めるのではないでしょうか。
エイリアンの造形も、真新しいものは何も無く、どうせジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』みたいに、エイリアン・クイーンが存在するんだろうと思っていたら、本当にその通りで、前作のようなワクワク感はありませんでした。
1996年の熱狂を知っている観客は、ヒラー大尉の再登場を願い、前回よりさらにパワーアップしたエイリアンの逆襲を受けて、人類が再び目覚めるストーリーを期待していたと思うのですが、ごちゃごちゃした家族物語に終始して、前作のようなカタルシスもありませんでした。
Wikiによると、
低評価・興行的な失敗に対して、後に監督のローランド・エメリッヒは「僕は『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』を作るのをやめるべきだった。なぜなら、僕たちの手にはずっといい脚本(=ウィル演じるヒラー大尉をメインに据えたバージョン)があったんだ。だが、ものすごく急いで別の脚本を形にしないといけなくなった」「僕はただ『ノー』と言うべきだった」と製作を後悔していることを語った[14]。
全く、その通りです。
制作サイドは『インデペンデンス・デイ』というブランドで客が呼べると思ったのかもしれませんが、派手な特撮も、何度も目にすれば飽きますし、エイリアン・クイーンも、既に本家本元がやってるので、真新しさはありません。
それに、一匹狼型テロに翻弄される時代、ソ連の大戦車隊みたいに押し寄せてくるエイリアン軍団にも、さほど恐怖に感じないのが本音でしょう。
人類が脳天気に一つに結ばれた時代は過ぎ去ったのです。
疑心暗鬼と暴力が荒れ狂う現代において、エイリアンの襲撃にどれほどの説得力があるのか。
私たちの世界も大きく様変わりしたことを思い知らされるのみです。
それでも、唯一の救いは、マッドなサイエンティストが、前作と変わらぬ笑顔を見せてくれたこと。
まさかこのオヤジに心を癒やされるとは思いませんでした。
もう一つの救いは、ジェフ・ゴールドプラムは、20年経っても素敵という事実です。
果たして三作目は作られるのでしょうか。
その時には、第一作目で宇宙船のケツの穴に突っ込んだオヤジが、スーパーウンコ人になって還って来る、「インデペンデンス・デイ : リターン」を、是非ともお願いします。
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人類がエイリアンとの壮絶な死闘に勝利を収めてから20年後の2016年7月、エイリアンがアフリカに残した宇宙船が密かに覚醒する。それは地球に仲間を呼び寄せるSOS信号だった。まもなく人類が建造した月面基地を粉砕し、地球にやってきたエイリアンは想像をはるかに超える進化を遂げ、重力を自在に操ってニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、ドバイといった各国の主要都市を次々に破壊する。
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