『ゴレンジャー大全』について
『ゴレンジャー大全』は、1975年4月から1977年3月にかけて放映された、『秘密戦隊ゴレンジャー』の全エピソードのあらすじと怪人、製作秘話などを収録した、ファン向けのムック本です。
秘密戦隊ゴレンジャーは、それまで『1対1』のタイマン型だった子供向けアクション(仮面ライダーやタイガーマスクなど)に、『チーム』という概念をもたらした画期的な設定で『五人そろってゴレンジャー』という決め文句が印象的な戦隊モノの元祖です。
『1対1』のアクションが当たり前と思っていた当時の子供たちにとって、五人もヒーローが出てくるのは衝撃でしたし、「仮面ライダーとゴレンジャー、どちらが強いか? 正解は仮面ライダー。一人で戦うから」という“なぞなぞ”も流行るほど話題になりました。
しかし、最大の魅力は、毎回、趣向を凝らしたユニークな「仮面怪人」でしょう。
最初の10話ぐらいまでは、比較的まともでしたが、だんだん『ストーブ仮面』とか『パイナップル仮面』とか『ピアノ仮面』とか、脳みそが溶けそうな怪人が次々に登場し、またその最後もウィットに富んで、我々、子供たちは、毎回TVにかじりつくようにして楽しんだものです。
Wikiはこちら https://w.wiki/59s7
『ゴレンジャー大全』は、そんなゴレンジャーの魅力と裏話をぎゅっと凝縮した、ファン垂涎の解説本です。
タイトルにも、『仮面怪人大百科』とあるように、とにかく怪人の造形がユニーク。
スタッフ裏話でも、「軽いノリで作ってた」とあるように、電話だの、フォークだの、その場の思いつきで、ぽんぽんと変な仮面怪人を生み出していた様子が伝わってきます。
また、そうした勢いと楽しさが、幼い視聴者にも伝わったのでしょう。
ゴレンジャーは空前の大ヒットとなり、何度も何度も再放送されて、子供たちの心を鷲掴みにしました。
その後、戦隊ものはいくつも作られましたが、いまだゴレンジャーを超える名作はないような気がします。
ここでは、そんな『ゴレンジャー大全』から見どころを紹介します。
戦闘アクションというより、ほとんどギャグとしか思えない、仮面怪人たち。
ゴレンジャーのエンディング。
オリジナルは、土曜日の夜に放送していたので、これが流れたら一週間の終わり、お疲れ様でした。
動画は、amazonプライムのチャンネル『マイ・ヒーロー』で視聴できます。(14日間 無料体験あり)
ユニークな仮面怪人
ゴレンジャーの魅力は、なんと言っても、おマヌケ、かつウィットに富んだユニークな仮面怪人です。
第一話から第十話ぐらいまでは、真面目に「戦隊もの」として制作されていましたが、十話の中程を過ぎた頃から、だんだん怪人が暴走するようになり、ストーリーもシリアスな勧善懲悪から、ドタバタのエンターテイメントに様変わり。
怪人の死に様も、第十話ぐらいまでは、単純に爆発してたのに、だんだん決め技がこり出して、怪人も炎の中で「くやしぃ~」とか「オレの時代は終わった」とか、辞世の句(?)を口にするようになりました。
怪人の名前も、最初は「黄金仮面」とか「武者仮面」とか手堅い感じだったのに、だんだん『パイナップル仮面』とか『蛇口仮面』とか、荒れないようなキャラに進化。
特に、『テレビ仮面』『野球仮面』『機関車仮面』のシュールさは、筆舌に尽くしがたいものがあります。
ピアノ仮面
最後はリカちゃん人形が鍵盤の上を踊りまくり、「うわ~、そんな無茶な弾き方はしないでくれ~」と叫びながら爆発。
電話仮面
途中で公衆電話に変身し、そうとは知らない若いサラリーマンが恋人に電話をかける。その後、怪人に戻った電話仮面が「あ~、もう、デレデレしやがって、ばばっちぃ~」と顔を拭く場面が笑える。
最後は、ゴレンジャーハリケーン・設計図=キック爆弾が変化した設計図が電話仮面の手中に舞い降り、「こりゃ凄い意力の爆弾だ。本部に連絡しよう」とダイヤルを回した途端、「うわ~、苦しぃ~」。
赤レンジャー「ばーか、それはエンドボールの設計図だ」と嘲笑して、爆死。
いくら子供番組でも、「ばーか」はないだろう・・・
ストーブ仮面
公団の一室に身を潜めたところ、外出から戻ってきた夫婦が些細なことで口論に。突然、ストーブが怪人に戻り、「まぁまぁまぁ、夫婦ゲンカはよしなさい」と諭す場面が秀逸。
「そんなことは I don’t know だよ」という台詞も好き。
テレビ仮面
このシュールな目つきが好き。最後はエンドボールが『手』になり、テレビ仮面のチャンネルを回して「お・わ・り」と表示され、爆死。
野球仮面
仮面怪人の中でも、最高峰といわれる『野球仮面』。声は、永井一郎センセイです。
このシュールな眼差し。ボールの縫い目がさりげに『口』になっているのが笑える。
この回では、野球チームを結成。手下にも背番号が付いてます。思えば、あの頃は、少年野球の全盛期でした。
対決も野球。打率10割とのことだが、三球三振で目を回し、「ついに引退の時が来たか~」と叫びながら爆死。
機関車仮面
機関車仮面も、狂気のような造形です。
町中でこんなのがシュッシュポッポ、シュッシュポッポ、と言いながら走ってたら驚愕するわ。胸元にぶら下がっているのは石炭袋です。
走りすぎて、頭が熱くなったと喫茶店に水を飲みに来る。どこまでもシュール。
また親切にお水を出してあげるマスターが優しい。
黒十字軍総統
一番凄いのが、黒十字軍総統を演じた安藤三男さん。
放送当初は、白いKKK団のような頭巾をかぶっていたのに、「役者はTV画面に顔が映ってなんぼ」というポリシーから、顔出し総統に変更。
こんなヒトデみたいな被り物でも、やっぱり顔を映してもらいたいんですね。
自分の父親や旦那がこんなだと、私はちょっと複雑かも^^;
でも、役者さんは、やっぱり凄い。
子供番組における大人の気づかい
私が『ゴレンジャー大全』を読んで、一番感心したのは、当時の制作者(大人)が子供のことをよく考えて番組を制作していた事です。
昔から、子供相手の商売はドル箱ですし、可愛い我が子に「あれ、買って」とおねだりされたら、ついつい財布の口も緩むもの。
子供向けイベントも、キャラクターグッズも、突き詰めれば、営利目的です。
だとしても、「儲け心」と「子供の福祉」に折り合いを付けて、やり過ぎないよう、夢を奪わぬよう、大人も知恵を絞っていました。
子供を欺し、堕落させてまで、がっつり稼ごうという下心は見えませんでした。少なくとも、白昼においては。
『商人の良心』とでも言うのでしょうか。
100円玉で買える節度は保っていたような気がします。
その点、現代は、私の子供時代より、はるかにたくさんのグッズや玩具に恵まれ、サービスやモラルも昭和とは比較にならないほどです。
昭和の頃は、「リカちゃんハウスが二つもある家」とか「オセロゲームも人生ゲームも持っている子」は羨望の的でしたし、そもそも、自宅に「クーラー付きの自室がある」というだけでも贅沢でした。
でも、クラスの大多数は、買えない、持ってないが当たり前だったから、その為に劣等感を感じることはほとんど無かったし、無いなら無いなりに、トランプゲームをしたり、草野球に打ち込んだり、楽しみを見つけるのも得意だったように思います。
その点、今は、スマホも、ゲームも、あって当たり前。持ってない方が白い目で見られるので、欲しいものが手に入らない飢餓感もひとしおだと思います。
また、持ってないことを不憫に思い、無理してでも買い与える親御さんも多いのではないでしょうか。
そうした背景を利用して、近年の子供相手の商売も、だんだん、がめつく、底無しになっているように感じます。
子供相手の商売で食べている人がいるのも現実だけど、「自分さえ儲かればいい。後はどうなっても知らない」で、あまりに無節操ではないかと。
大人相手の商売なら、売るのも買うのも自己責任で、ペラッペラのTシャツにロゴが入って3万円とか、まあ分からないでもないですが、子供相手に、そういう商売はどうかと思います。
また、子供が好きだからといって、必ずしも良質な商品とは限らないし、与えることで、かえって様々な問題を引き起こすケースもあるのではないでしょうか。
その点、ゴレンジャーは、「いかに子供を楽しませるか」が第一義で、「自分が有名になりたいから」「自分の世界観を理解させたいから」みたいな、自分語りとは無縁であったように感じます。
役者さんも、ヒーローのイメージを壊さないよう、撮影外でも気を遣い、変な番組に出演したり、「役者も一人の人間」と開き直って、言いたい放題することもありませんでした。
ゴレンジャーを見ていると、当時の大人の気配りが随所に感じられ、改めて、感謝の気持ちを抱かずにいられないほどです。
商売っ気を抜きにして、大人が子供の将来や気持ちを大切に想う、本当に優しい時代でした。
そんな大人の優しさの中で、ゴレンジャーを楽しみ、公園や校庭でのびのびと遊び回ったことは、本当に幸運だったと、しみじみ思うこの頃です。
制作スタッフのインタビューより
岩佐陽一
「五人揃ってゴレンジャー」なんたる素晴らしい響きであろうことか」
作品が成功した要因は二つある。
ひとつは「ゴレンジャー」というチーム・ネーム。
ファイブレンジャーではなく、ゴレンジャー。
レッドレンジャーではなく、赤レンジャーだから、子供にウケたという話。
平山亨
「モモレンジャー=ペギー松山というキャラクターの成功が心底嬉しかった」
「スタイルがよくてアクションができる女性を」と条件を出したところ、マネージャーが連れてきたのがモモレンジャーの小牧さん。「アクションはやったことがないですけど、モダンダンスをやってました」と言うから、ちょっとキックしてみてよとお願いしたところ、足の付け根から上がるキックは綺麗な弧を描いて鮮烈だった……というエピソードなど。
田口勝彦
「人の裏をかくのが”悪”であり、それを考えるのが面白かったんです」
当時の特撮の手作り感、役者さんの個々の役作りなど。
飯塚昭三&島田彰
飯塚「”言う”ことよりも”聞く”ことを学ぶのが大切だと思うんだ」
島田「自分が声を化けさせることを楽しまないと、観るほうにも伝わらないんです」
丸山詠二
「あの頃の怪人とか怪獣はどこか人間味があってよかったんだよね」。
直接の周囲じゃないですけど、やっぱり舞台畑だと、子供相手のマンガだ、みたいにバカにしている仲間もいたんですよ。でも、僕は子供番組のほうが難しいと思うんです。付き合いとか、とらえず、とかいう感覚がない分、ずっとシビアな目を向けられますからね。面白くなければ、すぐそっぽを向かれてしまうわけでしょう……みたいな話。
近年のハリウッドも、ヒーローは銃をぶっ放すのではなく、最後は取っ組み合いで、素手で倒すのが主流になっていることを思うと、時代の差を感じます。
ゴレンジャーにも、手下の怪人を銃で撃ち殺す場面がありますが、海外なら、高確率でNG。
スティーブン・スピルバーグの名作『E・T』でも、劇場公開版では大人がピストルを片手にE・Tとエリオット少年を追いかけましたが、後に画像修正され、携帯電話に置き換わっています。
ちなみに、敵の下っ端の顔を仮面で隠すのは、「これは人間じゃないんだよ」というのを子供にアピールする為だそうです。
ジョージ・ルーカスも同じことを言ってました。
初稿: 2017年2月29日