「可能性の幅を広げる」というと、あれもできる、これもできる、みたいに能力を上げることだと勘違いする人もありますが、実社会における可能性とは「Aがダメなら、Bがある」という臨機応変さをいいます。スポーツ選手でも、身体の故障を機に、指導監督に徹したり、ショップを始めたり、上手に転身する人も少なくないですね。競技に勝つことだけが人生だと思い込んでいたら、何かのきっかけでスポーツができなくなった時、生きる自信もなくしてしまいます。
子供の将来もそれと同じで、いろんな道筋を思い描けることが大きな支えになります。
たとえば、富士山に登頂するのに、漠然と美しいですよ、凄いですよ、と宣伝しても、お客さんには何がどう楽しいのか、まったくイメージが湧きません。でも、麓から歩いて登頂する方法、五合目までバスでアクセスする方法、マイカーでドライブしながら登頂を目指す方法、いろんなルートを紹介すれば、自分に合った楽しみ方を見つけることができます。また、四大ルートのそれぞれの見どころや所要時間、難易度なども具体的に表示すれば、自身の興味や運動能力に合わせて、安全なルートを選択することができます。
進路相談も同様。「君は社交的だから、対人的な仕事を選ぶといいよ」と言われても、子供は何をどうすればいいのか、まったくイメージできません。対人的な仕事なら、医療福祉、営業販売、教育などがあり、一口に医療福祉といっても、看護、保健指導、臨床検査、理学療法、心理療法、薬剤、医療事務など、様々な業務があり、看護師を目指すなら、これだけのルートがあるということを、旅行パンフレットみたいに具体的に示すことです。
「そんなことは大学に入ってからでも遅くない」みたいな考えもありますが、富士山の麓まで行って、初めて情報を得るような状態で、どうして自分に合ったルートを選ぶことができるでしょう。御殿場ルートの手前まで行って、やっぱり吉田ルートの方が楽そうだと気付いても、簡単には引き返せないし、ここまで来たのだからと無理に登山を続ければ、途中で体力が尽きてしまいます。
進学するにせよ、就職するにせよ、登り口を誤れば、後々、大変な負担になるのは必至で、個々の適正に対する理解と、具体的な助言は欠かせないものです。
また、世の中には、王道もあれば回り道もあり、一概にどれが正解とは言えません。スポーツ選手から事業家に転身した人、会社員をしながら漫画家になった人、会社倒産から奇跡の復活を遂げた人、いろんな事例があります。私も子供時代の愛読書は偉人伝でしたが、立派になりたいが為に読み耽っていたのではありません。貧乏や失意のどん底から這い上がってきた実話を通じて生存術を学ぶことができたからです。
未来の可能性は、もっている知識や情報の量にも左右されます。
大人の助言が具体的であればあるほど、子供も危機や方策をイメージしやすくなります。