オスカルさまとブランデー 心の革命と『酒とバラの日々』(ヘンリー・マンシーニ)

ベルサイユのばら 第6巻 ~新しい運命のうずの中に!』 ジェローデルとの結婚話をけってから、強いお酒ばかり飲むようになったオスカルに関するコラムです。

ポーランドの大きな社会問題の一つに「アルコール依存症」があります。

仕事も家族も失った人がホームレスになり、マイナス20度を超える厳冬の夜にはたくさんの凍死者が出るなど、以前からその救済が叫ばれています。

が、中には、心理的な理由から公的援助に背を向ける人もあり、「施設を作りさえすれば救済できる」という単純なものでもありません。援助が必要であっても、人の心に簡単に立ち入ることはできないのです。

依存症が急増した理由の一つには、「共産主義時代、旧ソ連から大量のアルコールが安価で流入したから」と言われています。酒に溺れて人間が堕落し、無気力・無抵抗になった方が支配者には都合がいいからです。

それに加えて、家族の離散(我が子や兄弟が先進国に出稼ぎに行ったまま帰らず、国境を超えて離散してしまうケースは多い)、生き甲斐の喪失や社会不安など、やりきれない気持ちから、ついつい酒に手が伸びてしまったのでしょう。

私もお酒は大好きで、一時期、ストレスから寝酒にはまったこともありますけど、人間が壊れるほど飲んでしまう人の気持ちは測り知れません。

ベルばらでは、革命の不穏な空気を前に、オスカルがブランデーばかり飲んで、ばあやを嘆かせる場面があります。

「結婚のはなしをけっておしまいになってから、昼といわず夜といわず、強いお酒ばかりめしあがって……ほんとに、身体にいいわけがないのに……」

そして、ばあやに叱咤されても、
「ごめん、ばあや……のまずにいられないのだよ……ブランデーをくれ」
と飲み続け、後の喀血の要因を作ります。
(喀血は、疲労や飲酒で体調が低下した時に、同じく栄養状態の悪い兵士たちの中で結核をうつされたのが原因かもしれません) 

毅然と断ったとはいえ、ジェローデルに「欲しいと思ったはずだ、平凡な女性としての幸せ」と指摘され、「(アンドレを)愛しているのですか」と問われたことは、胸に突き刺さるような出来事だったのではないでしょうか。

ベルばらがこれほど女性に支持されるのも、ジェローデルとの結婚話を通して、オスカルが哲学的な存在になったからではないかと思います。

このエピソードがなかったら、作品の意義も大きく違っていたでしょう。

ジェローデルの問いかけは、全女性に対する問いかけであり、「結婚――女ならば、それが本当の幸福なのだろうか」と立ち止まるオスカルの姿は、まさに現代女性の葛藤に他なりません。

だからこそ、与えられた運命に感謝し、自分で道を切り開いていく姿に大勢が感銘を受けたのではないでしょうか。

ベルばらに描かれた『革命』は、オスカルの内なる革命の物語でもあります。

彼女が捨てたのは貴族の称号ではなく、『こうあるべき』という世間の価値観であり、その殻を打ち破った時、彼女も真の自由と幸福を手に入れたように思います。

そんな内なる革命を達成するには、ちょっとばかり、酒の力が必要だったのかもしれません。

ヘンリー・マンシーニの名曲に『酒とバラの日々』という美しいバラードがあります。

「Nevermore」という一言が、無邪気に戯れた日々との訣別を謳っています。

まるでオスカルの心情を物語るような曲なので、機会があれば、ぜひ聞いてみて下さい。

The days of wine and roses
Laugh and run away like a child at play
Through the meadowland toward a closing door
A door marked “Nevermore” that wasn’t there before

The lonely night discloses
Jast a passing breeze filled with memories
Of the golden smile that introduced me to
The days of wine and roses and you…

酒とバラの日々よ
お前は戯れる子供のように
草原の中を笑い 駆け抜けて行く
閉まりゆく扉――
以前そこにはなかった
“二度と戻れない”と記された扉に向かって

淋しい夜は そよ風の中に思い出す
酒とバラの日々 そしてあなたへと誘った
輝かしい微笑みを

(作詞:ジョニー・マーサー)

ペリー・コモの歌う『酒とバラの日々』です。

コミックの案内

強いお酒ばかり飲むオスカル。

池田理代子 ベルサイユのばら 強いお酒ばかり飲むオスカル

「酒に逃げようなど、つゆほども考えず」という台詞が好きで、『つゆほども』という言葉はこの場面で覚えました。

池田理代子 ベルサイユのばら オスカル

コミックの案内

ベルばらの扉絵は美しいものがたくさんありますが、オスカルに関しては、この絵が一番いいですね。

ベルサイユのばら(6) Kindle版
ベルサイユのばら(6) Kindle版

こちらがオリジナルの扉絵。
6巻あたりから、オスカルの顔が大人の女っぽっくなり、いよいよ物語も佳境でした。
不穏な世の中と、オスカルの揺れる心情が重なり合い、読み応えのある巻に仕上がっています。

ベルサイユのばら 6 (マーガレットコミックス)
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この投稿は、優月まりの名義で『ベルばらKidsぷらざ』(cocolog.nifty.com)に連載していた原稿をベースに作成しています。『東欧ベルばら漫談』の一覧はこちら

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