以前、J-waveというFM系インターネット・ラジオで、若い女性の人気のあるフォトグラファーが次のようなことを仰っていました。
女性「んーとね、仕事ってのは、自分の為にやるんじゃないの。人を喜ばす為にやるものなの。だから、賞とって、有名になった時も、『こんなのは私が本当に求めていることじゃないっ』って、すっごく悲しくて、毎日泣いてたの。
賞とったからって、自分がやりたい事は変わらない。
やっぱ、人を喜ばせる事がしたいって思う。
だって、仕事って、そういうものじゃない??」
DJ 「じゃあ、『自分のやりたい事が分からない』という事についてはどう思う?」
女性 「多くを求めないことかな・・。あれもこれも欲しい、って思ったら、ますます分からなくなると思う。
何をしたらいいのか事が分からなければ、まずは、目の前の人に手を差し伸べることから始めたらいいと思う。
ボランティア精神・・っていうのかなぁ。
自分から何かをするのは損、って思ってたら、何も出来ないから・・」
その続きで、ラップミュージシャンの男性が、仕事について次のようにコメントしていました。
「どこの職場でも人間関係のトラブルってつきものじゃない。
今も昔も、どこへ行っても、それは同じだと思う。
でも、オレの知り合いのマネージャーに聞いた話なんだけど・・
最近の職場ってのは、それが見えないんだってさ。
以前は、誰と誰が対立して、あの人がどういう立場で……って、割と分かりやすかった。
でも、今は、お互いに接触を避けて、自分の中に閉じこもっちゃうから、誰が何を考えてるんだか、わけわかんネ、って言うんだよね。
みんなブースの中で、黙々と仕事してさ。
隣の人に伝言するにも、メールで済ましてさ。
一見、トラブルが無いように見えるけど、マネージする方はすごくやりにくい、って」
このエピソード、情景が目に浮かぶようでした。
私も経験がありますが、たとえ重要な仕事であっても、「人に物を頼めば、自分がワルモノにされる」という恐れから、メモやメールで伝言する人が少なくないんですよね。
遠く離れた部署の人や、一度も口を聞いたことのない職員ならともかく、同じ部署の、2メートル先のデスクに座っている間柄なのに、手洗いから戻ってきたら、机に付箋がペタっと貼ってある。
「○○さんより電話あり」
一言、「○○さんから電話があったので、かけ直して下さいね」と言えば済むことなのに、なぜ付箋? といつも不思議に思っていました。
その人にしてみたら、人に指示されたり、用事を頼まれたりするのはプライドが傷つく行為であり、私に対しても、「付箋の方が親切」と思っていたのかもしれません。
そんな風に、付箋が楽な人もいれば、付箋を不愉快に感じる人もいて、それはもう人それぞれとしか言いようがないです。
でも、大事なのは、どちらが正しいかではなく、「相手はどちらを好むか」を理解することでしょう。
無理に合わせる必要はないけれど、この人にとってはこのやり方が楽なんだな、と受け止める気持ちです。
このように、社会における人間の機微は、お互いに嫌な思いをしたり、迷惑をかけあったりで、学んでいく部分が大きいです。
「これがこの人のやり方」とか、「この人にはこういう伝え方の方がいい」とかいうことは、教科書では学べないし、社会に出れば、誰にも教えてもらえません。
最初から傷つかない方法ばかり選んでいたら、ますます人が怖くなり、不器用になってしまいます。
こうした閉じこもりの原因は、二つあると思います。
一つは、社会が扱いやすい「いい子」を求めていること。
もう一つは、親自身が自己開示できなくて、子供もそれを真似るようになる、という点です。
たとえば、
・ 私は100パーセント、子供と向き合っています。
・ 親子の会話も大切にしています。
・ 子供の気持ちを理解するように心がけています。
と自負していても、親が自分の内面を開示できない人ならば、表面的な触れ合いで終わっているかもしれません。
親子の会話はあっても、壁一つ隔てた向こうで喋っているような遠い存在です。
喩えるなら、一つ屋根の下に暮らしているだけの遠い親子とでもいうのでしょうか。
お互いにお互いの良いところだけ見せて、魂の触れ合いがないんですね。
では、愛情が足りないのかといえば、決してそうではなく、親も自己開示の仕方が分からないのです。
子供に自分自身を知られることを恐れるとでも言うのでしょうか。
ある意味、ええ格好しいで、子供に弱いところやダメなところを見せたら、子供に侮られると思ってるんですね。
しかし、そんな親の態度を見て、子供は心から親しみを覚えたり、自尊心を学ぶことができるでしょうか。
いつも、ええ格好して、偉ぶっている親に嫌気が差し、軽蔑の気持ちさえ抱くようになると思いませんか。
それは親に弱いところやダメなところがあるから侮るのではなく、親が駄目な部分をひた隠しにして、偉そうにするから、子供の目にも卑小に感じるのです。
たとえば、偉大なイチロー選手は、好調の時もあれば不調の時もある。
でも、それを自分でしっかり受け止めて、少しでも強くなろうと努力するから「偉い」と感じるわけで、親もまったく同じです。
親に駄目なところがあるのは、子供にも分かっています。
それを親自身も自覚して、「お母さんも今度から気を付けるね」と反省し、良い風に努力するのと、自分の間違いをひた隠して、偉そうに子供を責め立てるのでは、雲泥の差があるでしょう。
子供が親を尊敬するのは、立派だからではなく、親にも間違いはある、でも良くなろうと努力しているから、偉いなあと思うのです。
親が自分の弱いところや駄目なところをひた隠しにして、いつも立派であろう、いつも正しい親であろうと気張る姿は、かえって子供に「本当の自分を見せたら、嫌われて、軽蔑される」というメッセージを植え付けることになります。
子供が「人が怖い」と思うのは、「親の前で、弱いところや駄目なところを見せたら、親に否定される」という気持ちの表れなんですよ。
子供だって、いつか親の人となりを知りたいと願うようになります。
完璧な神だと思っていた親が、実は、自信をなくしたり、自己嫌悪に陥ったり、人間として苦悩している等身大の姿を知ることは、子供にとって大きな衝撃であると同時に、人の愛し方を学ぶ貴重な第一歩でもあります。
そこで「人はいつも立派でなくてはならない」「人は決して誤ってはならない」といったメッセージを送ってしまうと、子供も自分の欠点をひた隠し、自己嫌悪に陥るようになります。
なぜなら、親が本当の自分を愛してくれなかったからです。
そういう子供が大人になれば、どういう人間になるか、容易に想像がつきますね。
子供もいつまでも「無知な小さい人」ではありません。
親のやせ我慢や空威張りが分かると、子供は親を卑小に感じ、舐めるようになります。
たとえ不調に陥っても、懸命に練習を続けるイチローみたいな親が、子供にとっては格好いいのです。
最後に、プロ野球選手の桑田真澄さんのブログ記事を紹介します。
野球教室について綴ったものですが、親子関係にも通じる話だと思いますので、ぜひ全文をご一読下さい。
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日本中、何百というチームを見てきたけど、
子供達を怒鳴り散らしている指導者ばかり。
怒鳴らないと理解してもらえないほど、私には指導力がないんですと、
周りに言っているようなもんだよね。
そんなことも、わからないのかね?
恥ずかしいというか、あまりにもひどすぎるよね。考えてみてくださいよ。
自分だって6時間も7時間も、集中して練習できないでしょ?
試合で、毎打席ヒット打てないでしょ?
いつも、完封できないでしょ?
エラーだってするでしょ?
プロ野球選手だって、エラーするし三振するし、ホームランだって打たれるんだから。
子供達が、そうしたって当り前じゃないですか。
何で怒るんですか?
怒鳴るんですか?
その前に、ミスしたプレーを分析し、解説してあげるべきですよ。
そして、次は、どうしたらいいのかを教えてあげるべきですよ。
そう思いませんか?
僕の考えは、甘いですか?
コラム子育て・家育て 一日一歩の『ママ哲』 【第46号 なぜ子供は親を舐めるのか】 2007年12月17日