映画『キャットウーマン』
作品の概要
キャットウーマン (2004年) - Catwoman
監督 : ピトフ
主演 : ハル・ベリー(ペイシェンス / キャットウーマン)、シャロン・ストーン(化粧品会社の女社長ローレル)、ベンジャミン・ブラット(ペイシェンスの恋人で刑事)、ランベール・ウィルソン(ローレルの夫で浮気者)
ある日、ヘデア社が、強い副作用を有する美容クリーム『ビューリン』を売り出そうとしているのを知って、その場から逃げだそうとするが、ローレル(シャロン・ストーン)の手先によって排水管から投げ出されてしまう。
一度は命を落としたペイシェンスだが、謎の猫(高所で助けた猫)「マオ・キャット」の力によって蘇り、猫のような嗅覚や敏捷性を身に付けたキャットウーマンに変身する。
超能力を得たペイシェンスは、悪質な美容クリームの売り出しを阻止しようとするが、逆にローレルの罠にはまり、警察に拘留される。
絶体絶命の中で、女の奇跡が始まる……。
X-MENシリーズで世界的評価を得たハル・ベリーが主役を演じたものの、アメリカの最低映画賞「ラジー賞」に選ばれた、いわば失敗作。
しかしながら、宝石を盗んだキャットウーマンと恋人の刑事が追いかけっこになるシチュエーションは、北条司のロマンティック・コメディ『キャッツアイ』を彷彿とさせるし、地味で内気な女性から、意志をもった強い女へと転身を遂げる演技も魅力的。
なぜ、こんなに低評価になるのか、分からない。
ストーリーも、中だるみすることなく、テンポよく進むし、映画『氷の微笑』のセクシーポーズで名を馳せたシャロン・ストーンが、ここでは陰険な中年モデル兼女社長ローレルを体当たりで演じており、見どころも多い。
かつてのスターと旬のスターの、女同士の戦い(キャットファイト)として見ても面白く、洋画版・五社英雄の世界といえば、納得がいくのではないだろうか。
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そして女の奇跡が始まる 『キャットウーマン』の魅力
映画『キャットウーマン』は、ハル・ベリーがスタイリッシュなアクションを披露し、魅力的な作品であるにもかかわらず、興行的にはまったく振るわず、作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞の4部門でラジー賞に輝きました。
それでも、ハル・ベリーは授賞式に出席し、ユーモラスに対応して、女優としての評価をいっそう高めました。
多分、黒いピチピチのSM的コスチュームが、ファンのイメージに合わなかったのかもしれません。
しかし、本作の『キャットウーマン』の魅力は、アクションではなく、物語にあります。
アメリカン・コミックのキャットウーマンを描いた作品ではなく、女性の変容(メタモルフォーゼ)を描いた成長物語として見れば、十分楽しめます。
若くて才能のあるグラフィックデザイナー、ペイシェンスは、高収入にひかれて大手化粧品会社「ヘデア社」に就職します。
しかし、ヘデア社の要求は、「芸術」からは程遠く、ペイシェンスは、何のために学び、働いてきたのか、自分を見失っいます。
そんな彼女の心の支えは、同僚のサリー。
サリーは社員特権で、発売前の美容クリーム『ビューリン』を手に入れ、肌のお手入れに夢中。
ペイシェンスは、自分に自信もなく、お洒落をする気にもなれません。
そんなペイシェンスが出会ったのは、一匹の猫。
高所の室外機の上にぽつんと置かれた猫に同情し、命がけで猫を救い出します。
あわやという所で、ペイシェンスを手助けしたのは、笑顔が素敵なトム・ローン刑事。
二人はたちまち意気投合し、恋に落ちます。
ちなみに、トムを演じたベンジャミン・ブラットは私の大好きな俳優さん。超ハンサムではないけど、優しい気持ちが満面に溢れています。
男まさりのエージェントのドタバタを描いた、サンドラ・ブロック主演『デンジャラス・ビューティー』でも、ドジなヒロインを支える優しいパートナーを好演しています。
一方、ヘデア社のワンマン社長、ジョージ・ヘデアは、美容クリーム『ビューリン』を大々的に売り出す為に、長年イメージモデルを務めてきた妻のローレルを降板し、新人モデルを起用します。
プライドを傷つけられ、夫への復讐を誓う妻ローレルを演じるのは、元祖セクシー女優のシャロン・ストーン。
ここでは『意地悪な老け役』に徹して、若きヒロイン、ハル・ベリーの魅力を引き立てます。
本作は、時代を代表するヒロインの新旧交代劇でもあります。
ところが、ある晩、イメージポスターの件でヘデア社の工場を訪れたペイシェンスは、美容クリーム『ビューリン』の恐ろしい副作用を知ります。
ペイシェンスは、ヘデア社長の殺し屋に狙われ、排水口から外に投げ出されます。
そこに現れたのが、先日助けた猫のミッドナイト。
不思議な猫の魔力により、ペイシェンスは『キャットウーマン』として蘇ります。
超能力を得たペイシェンスは、五感のみならず、性格まで情熱的になり、さっそく、イメージチェンジ.
女の子が変身する時は、ヘアスタイルから! の王道ですね。
「女は、欲しいと思ったものは、必ず手に入れる」のノリで宝石店に押し入り、先に強盗に入っていた男どもを猫のようにやっつけて、大量のジュエリーを独り占めします。
が、その為に、宝石泥棒としてトムに追われることになります。
朝になって我に返り、何か大変な事が起きていると直感したペイシェンスは、ミッドナイトの飼い主である謎の婦人を訪ね、古代より選ばれし女性に魔力を与えてきたエジプトの猫神『マオ・キャット』の存在を知ります。
猫神は「女性の二面性」を象徴し、従順でいて攻撃的、愛情深く、かつ残忍。
「キャットウーマンは社会の掟に縛られない、欲望のままに生きるの。それは幸いでもあり、災いでもある。いつも孤独で誤解される存在よ。でも、他の女性が知らない自由を味わえる」
「運命を受け入れなさい。これまでは囚われの人生だったけど、新たな自分を丸ごと受け入れることで、自由になれるの。自由は力よ」
キャットウーマンの力に目覚めたペイシェンスは、ヘデア社の陰謀を暴くため、ローレル・ヘデアの屋敷に忍び込みますが、逆に、ローレルの罠にはまり、警察に逮捕されます。
老いを恐れるローレルも『ビューリン』なしには生きていけない身体になっていたのでした。
この肌のお手入れシーンも鬼気迫るものがあります。
留置所に入れられ、絶体絶命の彼女の元に、ミッドナイトが現れます。
鉄格子の向こうに見えるのは、『THE MIRACLE BEGINS』(奇跡が始まる)のキャッチコピー。
ここから女の奇跡が始まるわけですね。
本作では、仇敵となるローレルもまた、美と若さを追求する美容業界の被害者である事実を如実に描いています。
憎たらしいのに、どこか憎めない。
それはラストの、キャットウーマンの悼むような眼差しで分かります。
ある意味、本作は、一昔前のスターから旬のスターへの世代交代劇でもあり、ローレル = シャロン・ストーンが容姿の衰えを嘆く場面は、美人女優の胸の内かもしれません。
バットマンシリーズの『キャットウーマン』のイメージを期待すれば、肩透かしにあいますが、一人の女性の目覚めと成長を描いた、ロマンティック・アクションとして見れば、学ぶところは多いです。
中だるみもなく、ぽんぽんと話が進むので、週末の夜の娯楽にぴったり。
全盛期のハル・ベリーもとっても魅力的なので、一見の価値があります。
【コラム】 美と若さの思い込みから自由になろう
本作には、二つのテーマがあります。
一つは、ペイシェンスの変身を通して、女性の変容(メタモルフォーゼ)を描いている点。
もう一つは、女性を手助けする美容業界こそが、女性を追い詰める敵という皮肉です。
往年の美人モデル、ローレル・ヘデアの焦りと嫉妬が表すように、美容業界が売り物にする「美」も「若さ」も女性を幸せにしません。
「若ければ若いほど、よい」「女性は美しくなければならない」と強迫観念のように刷り込まれ、あれもこれも爆買いするばかりか、安全性や成分を確かめもせず、顔や身体にベタベタ塗りまくって、綺麗になったつもりでいます。
その結果、副作用で肌が荒れたり、体調が悪くなっても、それを認めようとせず、また別のクリームを塗りたくって、過ちを重ね塗りしています。
猫神『マオ・キャット』の秘密を知る女性は、ペイシェンスに言います。
「自由になりなさい」
女性はどうしても、若く、美しくなければならないと思い込み、美の典型から外れることを恐れます。
でも、それは留置所に囚われたペイシェンスと同じ。
自分で自分を縛って、小さくうずくまっているようなものです。
そうではなく、思い込みの鉄格子から抜けだそう。
あなたには、きっとそれが出来るはず。
『THE MIRACLE BIGINS』(そして、女の奇跡が始まる)
女性にとって、本当の奇跡とは、自分で自分の殻を破って、新しい一歩を踏み出すことです。
その為に、何かを失ったとしても、それはそれ。
明日に向かって踏み出せば、また新たな出会いがある。
そうして、様々に姿を変えながら、タフに、しなやかに、この社会を生き抜こう。
それが『キャットウーマン』のメッセージです。
出来損ないのアクション映画と言われたら、確かにその通りですが、それで済ますには惜しい魅力があります。
本当につまらない映画なら、シャロン・ストーンも、こんな老け役を引き受けたりしないでしょう。(老け役といっても、十分に綺麗ですが)
結果的にラジー賞に輝きましたが、私の中では上位に位置づけられる作品です。
ハル・ベリーやシャロン・ストーンのファンには、ぜひ見て頂きたい逸品です。