サルでも分かる / 役に立つ系に逆らう人の為のブログ

古来より、文化・芸術というものは、映画館の前に長い行列を作り、一日に何軒も本屋にハシゴし、ついには海外の聖地に巡礼して、偉人の墓の前で熱い涙を流す真性オタクの情熱と、日頃スーパーの値切り品コーナーの常連でも、好きなアーティストのコンサートになれば、S席5万円のチケットでも惜しみなく使う、無上の献身によって支えられてきました。

王侯貴族が芸術家の創作活動を支援するのも、文明国の証として立派な美術館や図書館が作られるのも、誰かが意識して守らなければ(それもたっぷりお金をかけなければ)、文化・芸術などあっけなく滅び去るからです。

賢い大人なら誰もが知っていることですが、詩も、音楽も、絵画も、小説も、それ自体は何の糧にもなりません。

路上で飢えて苦しむ子供に、一篇の詩を差し出しても、何の救いにもならないのと同じです。

作品が商業化され、経済的価値が発生して初めて、詩は『田んぼ』になります。

田んぼにならない作品は、ただの道楽。

本人がどれほど価値を訴えようと、売れない・買わない作品は子供の落書きと同じです。

ミケランジェロも、ダ・ヴィンチも、世界中から観光客が押し寄せるから、手厚く保護してもらえるのであって、「上手い」というだけで美術館が建つこともないんですね。

それでもWindows95の登場をきっかけに、名も無きクリエイターや真性オタクが一斉に立ち上がり、採算度外視で激アツのホームページを作り始めました。

儲けより情熱、名誉より愛があったからです。

IT黎明期には、腕自慢の職人や熱心なファンが互いのホームページを訪れ、ウンチクや意見交換を楽しんでいました。

それまで雑誌や単行本に掲載された王道的作品しか知らないネットユーザーにとって、どこの誰かも分からない、自称・メーカー勤務の生々しい暴露話や女子大生の赤裸々日記、絵柄は下手だけど、脳みそが溶けそうにシュールな四コマ漫画は異様なボルテージで、既存のメディアなど吹き飛ばしてしまうほどの面白さでした。

実際、どこの誰が書いたかも分からない率直かつリアルな意見の方が、パブリック向けに整形された文章よりはるかに共感できるのですから、皆が既存のメディアにそっぽをむくのも当然です。何故なら、多くのユーザーは「上手いもの」より、等身大で共感できるコンテンツに引き込まれるからです。

ところが、ネットが祭りの屋台のように賑わい始めると、それまでネットを敵視し、見下していた有名メディアが、潤沢な資本と知名度をもって乗り込んできました。

喩えるなら、ニホンザルがキャッキャ、ウフフと集う和みの秘湯に、関東最大の○○興産がブルドーザーで乗り込んでくるようなものです。自分以外に何も持たない野生のお猿さんにはひとたまりもありません。彼らはみな山奥に追い立てられ、立地のいい場所や見晴らしのいい高台は全て○○興産に占領され、大型レジャー施設が建ち並ぶようになりました。

名も無きお猿さんたちが以前のように看板を立てて、必死に呼びかけても、お客さんは見向きもしません。みな、キラキラ輝くネオンサインに惹きつけられ、大型レジャー施設に行ってしまいます。

ただでさえ遊び場を奪われて、意気消沈する個人サイトの運営者に、さらに追い打ちをかける出来事がありました。NAVERを筆頭とする『まとめサイト』です。

これまた大手企業が莫大な資本を投入し、個人がせっせと書き綴っていたコラムや作品解説、自作のイラストや写真などを次々に無断転載し、多額の利益を得るばかりか、検索結果の上位を独占し、ただでさえ青息吐息の個人サイトの心を折りました。

さらには、二匹目、三匹目のドジョウを狙うアフィリエイターが安物のWEBライターを大量に雇い入れ、コピペ記事のサイトを量産して、個人サイトの息の根を完全に止めました。

いよいよ継続が馬鹿らしくなり、これからどうしようか、多くの個人サイトが迷いだした頃に登場したのがSNSです。

手間暇かけてサイトを作るより、無料で手軽にコンテンツを公開できて、すぐに反応が得られるSNSの方が、個人にとってはどれほど楽かしれません。

そうして、個人はFacebookやTwitterに流れ、一時期、大いに盛り上がったブログブームも終焉の時を迎えました。

2020年5月には「個人サイトにトドメを刺した」と言われるGoogleコアアップデートが行われ、もはや検索結果において個人サイトは影も形もありません。一部の物好きなマニアやブロガーがちょこちょこ記事を更新しているぐらいで、丁寧に作り込まれた個人サイトはすっかり消え去った印象があります。
(個人サイトは今も存在しますが、多くはアフィリエイト目的だったり、セルフブランディングの一環だったりで、純粋な趣味のサイトは激減しました)

かつてはGoogleも名も無きクリエイターの味方でしたが、度重なる仕様変更で、大手サイトや企業サイトばかり優遇する『電話帳』に変わり果て、激アツの個人サイトが上位表示される日は二度と戻ってこないと思います。

そんな中、今も個人サイトを運営する意味などあるのかと思いますが、ここまで来たら意地というか、世の中に一つぐらい、うちみたいなサイトがあってもいいだろうという思いから現在も続けています。古き佳き時代の生きた証しです。

昔からそうですが、文芸サイトなど運営しても、一銭にもなりません。

単純にPVを稼ぎたければ、「彼氏と復縁する方法」とか「秒速で儲ける方法」みたいにノウハウ系のサイトを作った方が得策ですし、お堅い長文より「ネタバレ」「わかりやすく」を売りにした方が人気も出やすいです。

しかし、それが自分の目指す世界かと問われたら、断じて否ですし、ネットユーザーの皆が皆、倍速で映画を鑑賞し、ネタバレサイトで満足するタイプでもありません。かつて個人サイトが花開いたのも、大手メディアでは決してお目にかかれない本音と勢いがあったからです。

世の中、どんな風に変わろうと、人間が死ぬ間際に問われるのは、「どれだけ読まれたか」ではなく、「何を書いてきたか」です。いずれ消えるにしても、万人に惜しまれながら終えるのと、NAVERまとめみたいに「ざまァ」と嘲笑されるのでは雲泥の差があります。これは決して負け犬の遠吠えではなく、人間としての矜持です。

そんな訳で、今も地道に文芸サイトをやっています。

お気に入りが見つかりましたら幸いです。

当サイトは、「サルでも分かる」と「専門家向け」の真ん中あたりを目指しています。
誰かにこっそり教えたい 👂
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