まこと豊かな人生とは、夜中にビル・エヴァンスが聴けることだ。
夜中に、しっぽりとビル・エヴァンスが聴けるということは、精神的にも、経済的にも余裕がある証だし、ビル・エヴァンスのよさが分かるということは、それなりの文化的環境に恵まれて生まれ育った証でもあるからだ。(もちろん、貧民街で育ったレイ・チャールズやチャーリー・パーカーのような例もあるけれど、それは一握の天才に限った話)
もし、豊かさというものを数値で表すとするなら、この世で一番幸せなのはamazonの創業者ジェフ・ベソスであろうし、知名度や美貌で測るとしたら、エマ・ワトソンやキャサリン妃といったところ?
だが、彼等が世界一幸せという話はあまり聞いたことがないし、有名な成功者でも、身近な人間に裏切られたり、世界中から罵詈雑言を浴びせられたり、心穏やかではない部分は多々ある。
……というような論は、負け犬の遠吠えに聞こえなくもないが、実際、数値では測れない豊かさがこの世にはあるし、世界が羨むような何かを手にしなくても、幸せな気持ちで過ごしている人はたくさんいる。
夜中にしっぽりビル・エヴァンスなど聴いている私はその一人だし、夜のリビングに響き渡るピアノの音色に包まれていると、心底、幸せと思う。
それも、アプリ一つで聴き放題。ほんの数年前までは、いちいちレンタルCDを借りたりや図書館にリクエストしなければならなかったのに、今では自宅にいながら、ビル・エヴァンスのほとんどの楽曲を聴くことができる。
月額600円(現住国の価格)のSpotifyで、幸せが買えるなら安いものだ。
でも、一番有り難いのは、こういう曲の美しさが分かることだと思う。
もし何を聴いても感動せず、昼も夜も退屈で仕方ないとしたら、世界は灰色だから。
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1979年にリリースのアルバム『Affinity』の一曲目に収録されている、I Do It For You Love。
ビル・エヴァンスのピアノは後方に回り、主旋律を奏でているのはハーモニカ奏者のトゥーツ・シールマンス。
まるで心に囁きかけるような、ハートフルな演奏。
そして、それに呼応するように、エヴァンスのピアノソロが展開し、さながら二人で会話するかのよう。
愛とは美しさ、そして、優しさ。
人間というのは、ちょっと淋しいくらいが丁度いいのです。
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Affinityは、親近感とか、類似性、という意味です。
全曲、ハートフルで、美しい曲が揃っています。
眠れぬ夜や、優しい気持ちになりたい時にぜひ♪
評価も高いです。