天文学者が夜ごと外に出て、星を観察するのを習慣にしていた。
ある時、郊外まで足を延ばしたが、心はすっかり空にあったので、うっかり井戸にはまってしまた。
嘆いたり、大声で叫んだりしていると、通りがかりの者がうめき声を聞きつけて、寄ってきて訳を知ると、天文学者に向かって言うには、
「ねえ、先生。空のものは見ようとなさるのに、地上のものは見ないんですかい」
大層な空理空論を吐くくせに、人間としてあたり前のことができないような連中にこの話は適用できる。
イソップ寓話集(岩波文庫)
大仰に『人類愛』を説きながら、身内や、通りすがりの人には、冷たい人。
立派な『経営理念』を説きながら、レストランの給仕や、オフィスの清掃員には冷たい人。
もっともな『教育方針』を唱えながら、他校の生徒や、地域の児童には、関心のない人。
誰でも、空に向かえば、偉人であり、慈愛の人だけど、本物かどうかは、身近な人に対する態度を見れば分かる。
その人の暮らしぶりもだ。
しかし、天を向いて生きようと、地に則して生きようと、日々の生き様は態度にも、雰囲気にも表れるもの。
どう取り繕っても、分かる人には分かるし、いつかはボロが出る。
「人間として当たり前のこと」は、“当たり前”だからこそ、意識して努めなければならないのだろう。
実は、当たり前のことを、当たり前のように、やり続けることこそ、一番難しいのかもしれない。