こども未来財団では、毎年、「少子社会を生きる」というテーマでエッセーコンテストを主催されているのですが、17年度の作品を読んで、「あ~、ホントにその通りだな~」と考えさせられることがたくさんありました。
私がすごく気に入ったのは、「おばあちゃんの言葉」という作品にあった一文。
その不安を解消することなく育児生活に突入した私を待っていたのは、夜泣きに悩まされ一睡もできずに過ごす夜と、いったん寝てもすぐに目を覚ますので、物音ひとつたてられない朝。その繰り返し。
仕事が控えている夫に迷惑をかけるわけにもいかず、まさに戦いの日々だった。うまく育てなければ。ちゃんと子育てしなければ。そう思って知らないうちに自分を追い込んでいた。
「大丈夫だ。放っておいても子供は育つんだから」
そんなとき、泣き止まない子供をあやしながら散歩をしていたら、近所のおばちゃんにそう言われた。
「泣き疲れれば寝るから構わないほうがいい。泣いて死んだ子供はいないから」
泣き止まそうと躍起になっている私におばちゃんはそう言った。
今と昔では、環境が全然違う。したがって育児法も必然的に違ってくる。年配の方の助言はあまり聞かないようにしている、というお母さんたちも多い。それは、ある意味においては正しいと思う。昔はよしとされていたことが、研究の結果やめるべきだとされるようになった例も多い。だから、おばちゃんたちのアドバイスのすべてを鵜呑みにはできない。でも、私はおばちゃんと話していて、私は肩の荷が下りた。適当でいいんだ、と安心した。話の内容よりも、子供を一人前に育て上げた経験のある誰かがそう言っているということが、私を非常に安心させた。
経験は理屈にまさる。
下手に育児書を読み漁るより、実際に子供一人を一人前に育て上げた経験者の、何気ない一言の方が、どれだけ心の支えになることか。
私も育児の危機的状況を救ってくれたのは、義姉さんだったり、日本から仕事で来られたサラリーマンだったり、『経験者の一言』だった。
育児書の文言が心を救ってくれたことは滅多にない。
中でも一番のヒットは、上の子のヤキモチとストレスがピークで、「最近、よくダダをこねるんですよ~、朝から晩まで」と知り合いの女性(息子一人)に愚痴をこぼした時、
「そりゃ、子どもだもん。子どもは、みんな泣くものよ。あっはっは」
と言われた時。
これほど痛快な回答はありませんでした。
その点、育児書は、「母親の接し方」だの「日常生活のあり方」だの、これでもか、これでもかと言わんばかりの正論続きで、疲れてしまいますよね。
しかし、子育て中のママさんは、どうしても屋内にこもりがちになるし、先輩ママとゆっくり話す機会もありません。
下手に身近な人に相談すれば、逆に説教をされて、傷口に塩を塗り込められることもしばしばです。
育児書にも、どこにも救いがなく、貝のように心を閉ざしてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
そんな時、一番頼りになるのは、経験者の言葉です。
自分が大袈裟に考えていることも、「大したことないよ」と笑って教えてくれるのは、実際に乗り越えた人だけだから。
もっと、こうした交流が盛んになれば、育児ストレスも緩和されて、深刻な問題も減るでしょうに、そのあたりの支援はどうなっているのでしょうか。
これ以上、子育て中のママが孤立しないことを祈るばかりです。
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