猿の惑星 : 聖戦記 ~言語能力の喪失が人類を滅ぼす

見どころ

本作は、新・三部作の最終章にふさわしく、重厚感のある作りになっている。
全編の大半が冬景色――黒と白のモノトーンで、映像としては重苦しいほどだが、それがかえって、陽光と色彩感あふれるエンディングを引き立て、感動的な締めくくりとなっている。

本作では、英雄シーザーの内面にフォーカスし、愛する家族を失った男(?)の心情と、長年の相棒コパを見殺しにした良心の呵責が交互に現れ、いっそう人間的に描かれている点もポイントだ。
CGの合成キャラとはいえ、シーザーを演じたアンディ・サーキスの眼力は神がかっている。(マカロー大佐に、「ほとんど人間のよう」と言わしめるほど)

また、新型の猿インフルエンザによって、言葉を発することができなくなった少女ノヴァも印象的だ。
天使のように無垢な容姿もさることながら、優しさの象徴である『手作りのお人形』が効果的に使われ、マカロー大佐の顛末も「なるほど」な展開になっている。

裏切りあり、絶望ありで、前二作に比べて非常にダークな内容だが、ラストの演出が素晴らしいので、見終わった頃には、きっとあなたも救われているだろう。
大樹の側に横たわるシーザーの姿が、まるで涅槃のお釈迦様のように見える。

「喋れない人間」「果てしない砂漠」など、1968年のオリジナル(チャールトン・ヘストン主演)の世界観を見事に踏襲しており、近年の下手なリメイクブームに激オコのオールドファンも納得の力作である。(個人的には、ロード・オブ・ザ・リング三部作より上質と思う。あれはお子様向けで、内容がありそうで、いまいちペラい)

ちなみに、恐竜が絶滅し、霊長類が生き延びた理由について、「木の上で生活していたから」という説があるそうだが、クライマックスもそれを裏付ける展開になっており、いろんな意味で興味深い。

予告編もいろんな種類があるが、海外版の方が重厚なイメージでよろしい。
とにかく、全編モノトーンで、暗い、重い話だが、どうか最後まで鑑賞して欲しい。
エンディングの美しさは筆舌に尽くしがたいので。

ネタバレしてもいい、という方はこちらからどうぞ。
ラスト3分の動画です。
1968年のオリジナル版を知ってる人は、あの世界観を踏襲していることがよく分かります。

https://youtu.be/JOnkCjT6Bqo

目次 🏃

言語能力の喪失が人類を滅ぼす

人間と猿の違いは『No』と言えること 『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』において、人間と奴隷(あるいは愛玩動物)を区別するものが『No=意思』とするなら、人間と獣の違いは『言葉』そのもの。思考する能力があるかどうかだ。

人間は、朝から晩まで、言葉を使って、物事を考える。

朝食を食べる時も、衣装を選ぶ時も、頭の中で、「言葉で考えながら」、選び、行動する。

もし、言葉を失ったら、何度言っても聞かない一歳児と同じだ。

彼らの頭の中には「欲求」しかなく、「コンロで遊んではいけませんよ」「食事の前にバナナはいけませんよ」と100回言い聞かせても、理解しない。

何故なら、彼らは「コンロ」という言葉も、「食事の前のバナナ」という概念も、知らないし、理解のしようがないからだ。

それでも親が100回、200回と、辛抱強く言い聞かせることで、1歳児も、「ぽっと火が付くのがコンロ」「食事の前と後」を理解する。

それも言葉を学習すればこそで、言葉を理解する能力がなければ、10歳になっても、20歳になっても、アーアー、ウーウーとダダをこね、親と協調することも、食欲を我慢することもないだろう。

マカロー大佐が、「いずれ猿人が人類に変わって地上を支配する」と懸念するのも頷ける話で、たとえ肉体が生き延びても、言葉を発することができなければ、人間の言語能力は目に見えて退化し、いずれサル以下の動物に成り下がるだろう。

「文字があるから、大丈夫じゃないか」と思うかもしれないが、文字を説明するにも『音』は必要で、発語できない文字はあっという間に廃れてしまうだろう。

『言葉』をなくした人類の知能は、瞬く間にサル以下になり、内面も獣化するのも頷ける話で、必ずしも肉体的、あるいは物理的壊滅が人類滅亡とは限らない。

本作では、「猿インフルエンザ」という未知の病原体が原因であるが、人間の言語能力を貶めるものは、現代社会にいくらでも存在する。

依存的な視聴コンテンツ、文化軽視の商業主義、活字離れ、教育の質の低下、等々。

誰もが語彙不足の一歳児と化し、論理的思考も失われたら、現代人も一気にサル以下に落ちるのかもしれない。

こちらも合わせてどうぞ
人間と猿の違いは『No』と言えること 『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』
高度な知能を持つ小猿のシーザーは心優しい科学者によって家族のように育てられ、幸せに暮らしていたが、隣人との諍いが原因で、霊長類保護施設に隔離されてしまう。そこで壮絶な虐待を受けたシーザーは仲間を引き連れて決起する。シーザーの最初の言葉は『No』であった。
ティム・バートンの『PLANET OF THE APES/猿の惑星』 / コラム『おひとり様の映画列伝』
バートン監督の個性が前面に押し出されたリメイク版は賛否両論あるが、色彩感覚あふれる世界観はテーマパークのように楽しい。一人で映画館に通い詰めた思い出と併せて。

作品情報

猿の惑星: 聖戦記(2017年) - War for the Planet of the Apes

監督 : マット・リーブス
主演 : アンディ・サーキス(シーザー)、ウディ・ハレルソン(マカロー大佐)、アミア・ミラー(ノヴァ)

猿の惑星: 聖戦記
猿の惑星: 聖戦記

新・三部作の概要はこちら。
リーダーシップとは何か 映画『猿の惑星 : 新世紀(ライジング)』 / 政治とは取捨選択のプロセス

あらすじ

猿と人類の戦いは日に日に激化し、猿社会のリーダーであるシーザーは、森を離れ、砂漠の向こうの安全な土地に群れを導こうとする。
だが、移動前夜、アルファ・オメガ部隊を率いるマカロー大佐と特殊工作員が彼らのねぐらに忍び込み、シーザーの妻と息子ブルーアイズを殺害する。
シーザーはマカロー大佐に復讐する為、群れから離れ、オランウータンのモーリス、ゴリラのルカを従えて、アルファ・オメガ部隊の本拠地に向かう。

途中、猿インフルエンザの影響により、失語症に陥った少女ノヴァと出会い、一行はさらに旅を続けるが、その先で目にしたのは、仲間の猿人がアルファ・オメガ部隊に捕らえられ、城壁を作るために酷使されている姿だった。
シーザーは仲間を助けようと近寄るが、逆に兵士に捕らえられ、マカロー大佐の前に突き出される。

マカロー大佐は、猿インフルエンザがさらに猛威をふるい人類全滅の危機にあることを語る。
新型の猿インフルエンザは、人間から言葉を喋る能力を奪い、やがては獣のように退化して、猿人が人類が猿人に飼われるようになるだろう。
そうなれば、人類は滅亡したも同じだと。

シーザーは、マカロー大佐に虐待され、仲間に対する仕打ちもいっそう苛酷になるが、モーリス、ルカ、少女ノヴァ、途中で一向に加わった通称「バッド・エイプ」の機転で
脱出に成功。
このまま安全な場所に逃げられるかに見えたが、既にマカロー大佐に対抗する本隊がそこまで迫っていた。

激しい戦闘が始まり、仲間も次々に殺害される中、シーザーは猿人を救うことができるのか。
そして、人類の命運は――。

誰かにこっそり教えたい 👂
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