育児というのは、ほんと、「子供と別れ行く道」なのだと思う。
一日中、べったりくっついていると、それが分からない。
夜泣きに悩まされ、離乳食作りに疲れ、一人でトイレもできない、温かい紅茶一杯を飲むことさえ出来ない――そんなストレスの中では、子供にべったり世話することが永遠に続く仕事のように思えてならないけれど、実は、そんな日々は、あっという間に過ぎ去って、二度と帰ってはこないということを。
分かったところで、しんどさが半分に減るわけではない。
分かっても、明日もまた、「しんどい、つらい」と思うかもしれないけれど。
すべては「子供と別れ行く道」なのだと思えば、ほんの少し、今という時間の重みが感じられないだろうか。
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育児は、つらい。
まさに「自分との闘い」と思う。
「これでもか、これでもか」というくらい困難な事が襲いかかって、身体的にも、精神的にも、ボロボロになることもある。
でも、一生に一度くらいは、自分とは違う何者かの為に、尽くし、苦しみ、全力を出しきる事が必要なのだと思う。
『親』といっても、それくらい未熟で、頼りないものだから。
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もう二度と、誰も乗ることのないベビーカーを見ながら思い出す。
必死で子育てした日々のこと。
小さい小さい赤ちゃんだった日々。
あの中で、一度でも、それらの日々の重みを真摯に受けとめたことがあっただろうか。
急いで、急いで、早く何でも出来ることばかり願って、それだけで終わってしまったような気さえする。
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いろんな事に気付いた時には、幼い子達はすでに独立して、母親の手の中には帰ってこない。
嘆き、悲しみ、寂しがっても、もう二度と戻らない。
そして今、自分は、そういう日々の中に生きているのだと気付いたら、ほんの少しでいいから、我が子に対する想いを深めて欲しいと思う。
この道は永遠ではなく、別れ行く過程なのだから。
初出 2008年2月22日